猫被りも程々に。

ぬい

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January

3日目

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次の日の朝。
あまりの寒さに目を覚まし、身体を動かそうとするも上手く身動きが取れない。
原因を確認するため、寝ぼけた頭で視線を落とすと腰あたりに腕が巻き付いていた。

(…重い、寒い…)

近くにあった会長の携帯で時間を確認すると6時。
もう少し寝ようと思ったが、隣の人に掛け布団を奪われて寒さで寝れない。狭くて窮屈だったのもあり、腕から抜けて下に移動しようと試みるも腕の力が強く抜けなかった。

「会長」
「ん…」

あまりの強さにもしかして起きているのかと思い、小さい声で名前を呼んでみても大した反応もなく、力は更に強まるだけ。どうやら本当に寝ているらしい。

仕方なくベッドの下にある布団を手を探りで取って自分に掛ける。布団は一晩放置されたせいか物凄く冷たい。

あまりの冷たさにすっかり目は覚めて、今度は暇潰しに下にある自分の携帯を手に取ろうとなんとか手を伸ばしていると腰に巻きついていたはずの手が急に服の中に侵入してきた。

「…なにしてるんですか」
「……寒いから」
「全然理由になってない」

冷たい布団の感触と物音で起きたらしい会長は相変わらず目覚めが悪い様で暖をとるようにくっついたまま背中に頭に埋めてくる。いつものパターンだと身体を起こすまで暫くはこんな感じだろう。

その間なんとか携帯を取ることが出来た俺は電源ボタンを押すとメッセージの通知が1件。
差出人は水島結衣からだった。

(…なんて返そう…)

こっちに帰ってきているなら遊ばないか、という内容。断るの以外の選択肢はないのだがキーボードを前に指がさ迷う。なんて断ればいいのかが思い付かない。

「…浮気」
「違います」

返信に悩んでいると後ろからいつの間にか覗いていた会長に手を引っ張られる。背中を向けて横になっていた状態から自然と仰向けになり、携帯画面が見やすい体制にさせられた。返信を送るまで監視する気らしい。

「ていうかこれ会長がまいた種じゃないですか」
「そうだっけ」

そもそも行く気なんてなかったのに勝手に日程決めて約束取り付けたのはどこの誰だったか。
わざと惚けているのか、寝惚けているかよく分からない会長に溜息を一度吐く。水島に前に彼女が出来たら教えてと言われたのでここは変な嘘はつかず、正直に恋人が出来たと言った方がいいだろう。

理由を交えつつやんわりと断った文章を入力し、無事送信し終えると隣の人は満足したのか俺の携帯を取って下の布団に軽く投げた。そして俺を強く抱き寄せるとまたそのまま寝始める。

(ほんとに寝起き悪いな…この人…)

元々そんなに良くないなと思ってはいたが、こうして先に目が覚める度に思う。大体は会長が先に起きているので思うことは少ないけど。

自分はどうにも寝れそうになかったので携帯がなくなった今、暇を潰すには隣の人に相手してもらうしかなく、先程少し疑問に思ったことを問い掛けた。

「会長っていつから俺のこと好きでした?」
「…自覚したのは夏休み」
「夏休みのいつ?」
「…怜子さんに湊勧められた時」

そんな事もあったな、そう言えば。
あの会話をしたのは鈴木たちと会った後。つまり水島と約束をした時はまだ自覚してなかったってことか。
数ヶ月前の出来事を懐かしく思いながら夏休みあった出来事を順番に思い返す。

確か母にからかわれた後、会長に洒落にならない仕返しをされて喧嘩して。それから夏祭りに行ってーーー。

「……待ってください。あの時の冗談ってもしかして本気でした…?」
「そうなるね」

思わず身体を起こして聞くと眠そうに答えられる。
それ前提として考えるとあの出来事も可愛く思えてきた。
いいこと聞いたなと思いながら再び布団に潜ると会長はそのまま話を続ける。

「でもまあ前から興味はあったよ」
「前からって…図書室で会った時からってことですか?」

前からという曖昧な表現にいつから興味があったのか、何故興味があったのかという意味も含めて尋ねると暫く考えたように黙った。そして何か言ってくれるのかと思いきや「覚えてないならいいや」と寝返りを打って背中を向ける。

「いやいやいや、何意味深なこと言って寝ようとしてるんですか」
「説明すんの面倒臭い」
「少しだけ!少しだけ話してくれたら思い出すんで!」

このままこの人を寝かせる訳にはいかない。
無理矢理布団を引っ張って剥ぎ取るとあまりの寒さに降参したのか、会長は渋々身体を起こしてぼーっとしながら口を開いた。

「入試の日、湊熱出して途中退室したでしょ」
「……しましたけど…」
「あの時保健室まで運んで面倒見たの俺だから」

その言葉でほぼ記憶にない入試試験での記憶を必死に呼び起こす。

確かにあの日は試験の紙を全て埋めるだけ埋めて途中退室した。その後誰かに連れられて保健室に行った記憶も微かにある。

「…思い出してきた?」
「…うっすらと…」

試験が終わった後のことは熱でかなり頭がふわふわしていたのでなんとなくしか覚えてない。

だから正直連れて行ってくれた人の顔はほぼ覚えてないが、愛想がなくて綺麗な人だと思った記憶だけはある。後覚えているのは保健室で少し話した時に冷たいなと思ったことだけ。
何がきっかけでそう思ったのかまでははっきりと思い出せない。

「何話しましたっけ、俺たち」
「少しだけ話したら思い出すんじゃなかったの?」
「……そうでした」

身体を起こしたせいで完全に目を覚ましたらしく、会長はいつもの可愛くない状態に戻っていた。自分の携帯を取っていつものようにゲームのログインボーナスをゲットし始める。
なんだかこれ以上は何を聞いても答えてくれそうもないので早々に諦めて今度また答えてくれそうな時に聞くことにした。

「でもほんと湊を入学式で見かけた時はびっくりしたな」
「…落ちてると思いました?」
「うん。もう二度と会うことは無いだろうなと思った」

俺だって絶対落ちていると思ったし、合否結果を見た時は夢かと疑って何かのドッキリなのかとさえ思った。

(でもそっか。会長があの時の先輩なんだ)

今じゃすっかり忘れていたが、入学したての頃はあの時の先輩にお礼を言おうと思って探してはいた。結局ピンとくる人がおらず、勉強の忙しさと慣れない環境ですぐに諦めたが。

「あの時はありがとうございました」

立ち上がって、下に敷いていた布団を畳みながら2年越しのお礼を言うと会長は目を見開いてこちらを見た。

「…なんですかその反応」
「いや、お礼言われると思わなくて」
「俺一応入学したての時にお礼言おうと思って探したんですよ」

あんな愛想悪い先輩見つかりませんでしたけど、と付け加えて笑うと立ち上がった会長に頬を掴まれる。
そしてそのままキスして何事も無かったかのように額を中指で弾くと部屋を後にした。

(ほんとわけわかんねー…)

不意打ちすぎて対応出来ないまま立ち尽くし、じんわりと痛む額を抑える。時計をみるともうとっくに7時をすぎていたのでそろそろ母も起きている頃だろう。
会長の後を追いかけるように俺も部屋を後にすると階段を駆け下りて洗面所に向かった。
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