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010 か弱き守護者
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「ここがガラル。この世界でトップレベルの大都市だ」
花音の視界を埋め尽くすは人工物のオンパレード。
見上げるほど高い建造物。
空を飛び交う車のような乗り物。
視線を落とせばおびただしい人の群れ。
全く無駄のなく整備された道。
それら全ての生活音が生み出すオーケストラ。
猫の国の城下町とはまた違った賑やかさ。
一言で言うなら大都会。いやそれ以上だ。
見るもの聞くもの全てが花音を圧倒した。
あらゆる情報に魅了される花音にガイルは補足する。
「建物が多すぎて見えねえが、先へ進めばここらのもんとは比にならねえほどデカくて広い建物が見えてくる。それが守護者の本部だ」
「凄すぎます……」
もう語彙力とかどうでもいい。
言葉で表すことなんてできない。
「これは全部……マナですか?」
「全部ではない、正しくはマナを込めた材質で作られている」
花音は忙しなく首を動かす。
原理や物理法則がどうなっているかわからないモノばかりだ。これもマナという言葉一つで解決するのだろうか。
「また座学で教わると思うが、こんな器用にモノが作れるのは人間だけだ」
なるほど、ふむふむ。
「とりあえず本部を目指すぞ、観光ならいつでもできる」
ガイルの視線の先には一台の車、のようなモノがあった。
空を飛び交っていた乗り物だ。
「飛箱だ。ガラルはとにかく広い。地を移動するのは効率が悪すぎる」
「え! 乗るんですか!? やったー! 乗りたい!」
「お!? おお」
花音の突然のはしゃぎようにガイルは目を点にした。
まるでアニメや漫画で見たような乗り物。
夢のような体験に花音は胸を躍らせていた。
「おい、乗れるか?」
ガイルは飛箱の窓を軽く叩いた。
中にいた男性は驚いた顔をしてすぐに窓を開けた。
「こ、これはガイルさん! どうぞどうぞ!」
後部のドアが自動で開く。
飛箱はタイヤが無く少し浮いていた。
「本部に向かってくれ」
ガイルの言葉に運転手と思われる男はわかりましたと答え、飛箱が起動する。
「わっ!」
突然体が宙に浮く感覚に襲われ、花音は驚きと興奮で声が漏れる。
飛箱は垂直に空へ移動したのだ。
上を見やると全面ガラス張りだった。
浮上するには上方の安全確認が必要になってくる故の造りであるのかと花音は一人で納得した。
景色も圧巻だった。
視界の奥まで広がる建造物の地平線。
ガラルの有する広大な面積は、人間の小さな瞳では到底収まるものではなかった。
「大丈夫か? お前さっきからずっと口が開いてんぞ」
「!」
言われてすぐに花音は手で口を覆う。
恥ずかしい。全然気付かなかった。
全神経を視覚に委ねてしまっていた。
「前方を見てみろ。あれが本部だ」
「わ! なにあれ……!」
隣の景色ばかり見てて全然気付かなかった。
前方にも巨大な建造物があり、その周りを囲む要塞のような壁。そして何より、広い。一つの建物が所有する土地とは思えないほどの広大な敷地。
「あれが守護者の……本部」
「正式名称はシュヴァルト。まあみんなめんどくせえから本部って呼んでるがな」
あそこで、これから私は守護者になるんだ。
距離が近づくに連れて胸の鼓動が高鳴ってくる。
私はこれから、守る側の人間になるんだ。
飛箱は静かに高度を落として着陸した。
「料金は本部につけといてくれ」
ガイルはそう言い放って地に足を下ろした。
花音も次いでそっと踏みしめる。
シュヴァルトの地へと着くこの一歩。
これが守護者への第一歩。
余韻に浸る花音にガイルは言葉をかける。
「いちいち感動してんじゃねえよ。まだ守護者になれると決まったわけじゃない。マナが使えなきゃ話になんねえぞ」
花音を置いて先へと進むガイル。
「え、ちょっと待ってくださいよ~!」
シュヴァルトの中へ入り、ガイルがフロントへ向かうと受付の女性が素敵な笑顔で声をかける。
「お疲れ様ですガイル様。そちらのお連れ様は?」
「ああ、新入りだ。適性検査の段取りを頼む」
かしこまりました、と女性はお辞儀をする。
適性検査?
「今から検査場へ向かう。マナを扱えるかどうかを見る」
「マナ……ですか」
そう、この世界ではマナがモノをいう。
これが使えないと話にならない。
わかってはいたが、いざその時が来ると緊張が走る。
すれ違う人は皆ガイルに挨拶をしていた。
やっぱり偉い人なのかな。
そしてここにいる人たちは皆守護者でマナが使える人間なのだろうか。
見るもの全てが新鮮すぎて思考を止める隙がない。
しばらく歩いたところで一つの部屋に通された。
シュヴァルトは中も広く、移動するのに時間がかかる。
「ここが適性検査場だ。今からお前のマナを調べる」
部屋には何もなかった。
いや、あるにはあるのだが、だだっ広い部屋の中心に水晶玉のようなものが存在するだけだった。
「なんか、想像と違う」
もっとすごい機械とかがあるものかと。
今までの衝撃が凄まじかった分、期待しすぎた。
消沈する花音にとある声が割り込んでくる。
「ふふふ、この部屋には何もないように見えますが、床や壁、天井、全てにマナが繊細に編み込まれ、あらゆる仕掛けが施された適性検査のためだけに生まれた特殊な部屋なのです」
声の方を見ると、そこには白衣を纏い、眼鏡をかけたいかにも検査員という雰囲気を醸し出した男がいた。
「特に! あの水晶玉は我々人間の血と汗と涙の結晶! 雨の日も風の日も努力を惜しまず日々――」
「要するに、あの水晶玉はマナを観測するモノだ」
眼鏡を無視してガイルは簡潔に説明してくれた。
「ガ、ガイル様……まだ説明が」
「お前の説明は理屈が多くて長い。この女の小さな頭では理解ができねえ」
あれ? 私何か馬鹿にされてない?
「俺が説明する。女、あの水晶玉の近くまでいけ」
「あ……はい!」
花音は言われるがまま部屋の中心に歩を進める。
「ここで大丈夫ですかー?」
花音は離れたガイルたちに聞こえるように声を張って言う。
ガイルは手を上げて合図をくれた。
「よーし女ぁ! マナを練ってみろ!」
「え!?」
いきなりすぎる。マナを練る? え?
当たり前のように言わないでほしい。
なに? 気張ればいいの?
そもそもマナってなに!?
挙動不審の花音を見た眼鏡がガイルに言葉を添える。
「あ、あのガイル様、あのお方マナの存在をまだ知らないのでは……」
「あ、説明忘れてたわ」
ガイルは声を張って花音に放つ。
「女ぁ! よく聞けぇ! マナというのは己の中にあるもう一人の自分を放つ感覚だぁ!」
「ごめんなさい! もう言葉の意味がわかりません!」
「はぁ!?」
いや、その説明でわかる人いるんですか!?
できる人いるんですか!?
「あいつダメだ。お前、頼むわ」
ガイルはもう面倒くさくなったのか、眼鏡に押し付ける。
ふふ、とその言葉を待ってましたというように眼鏡は拡声器を取り出して花音に言葉をかける。
「目を閉じてリラックスしてください。今からマナを共鳴させます。その感覚を忘れないでください」
「え? はい!」
花音はとりあえず目を閉じて深呼吸をした。
それを確認した眼鏡はリモコンを取り出してボタンを押す。
花音の周りに無数の小さな光の玉が出現した。
「!」
なに、この感覚……。
何かに呼ばれているように、体の中の何かが反応する。
全身から、何かが溢れるような……。
感覚が研ぎ澄まされて頭の中がスーッとする。
力が込み上げる。今ならなんでもできそう。
「マナを感じたらその水晶玉にぶつけるように、力を放出してみてください」
眼鏡の声と共に花音は目を開く。
水晶玉に、力をぶつける!!
刹那、水晶玉は激しい破裂音と共に粉々に破壊された。
「きゃっ!」
反動で花音は尻もちをつく。
何? 今の……びっくりした。
「ぎゃあああ!! 我々の努力の結晶がああああ!!」
後ろで眼鏡の悲痛な叫びが聞こえた。
これが……マナ?
「おい、女! 大丈夫か?」
ガイルは花音に近付き安否を確認する。
「あ……はい。少しびっくりしただけです」
花音は両手を開いて見る。
何だろう……今の感覚……。
「俺も驚いた……。一体どういうことだこれは」
「え? あれは壊すものじゃないんですか!?」
いや、とガイルは続ける。
「あれはマナの性質や威力、その他様々なデータを観測するもんだ」
「え!? ごめんなさい! 壊すつもりで力を込めちゃいました! どうしよう……本当にごめんなさい!」
恐ろしい女だ。普通壊すと思うか?
やはり天然なのか、時々発想が怖い。
「まあ、簡単に壊れる代物じゃねえんだが」
水晶玉はマナの力量を計るため、耐久面はもちろんしっかりと作られていた。少なくとも、今日初めてマナを使う人間が壊せるようなものではなかった。
「眼鏡男! データはどうなっている!?」
ガイルは魂の抜け殻と化していた眼鏡に息を吹き返す。
「あ……は、はい。データは……」
おぼつかない足取りで眼鏡は設置された機械のモニターに目を移す。
「やはり壊れた影響でしょうか、ほとんどの数値がエラーに……あれ、属性だけが測定できてますが」
眼鏡は一瞬口を閉じてガイルをチラ見した。
そしてまたゆっくりと告げる。
「無し……ですね」
シュヴァルトの敷地内には守護者が自由に過ごすことのできる多目的広場がある。
花音はそこのベンチに小さく腰掛け、ガイルに奢ってもらったジュースを飲んでため息をついていた。
「何て顔してんだよ」
ガイルはそこで待たせていた小さな守護者に声をかける。
「ここへきた時のテンションはどこへ行ったよ。ほら、今度は座学だ。この書類に目を通せ。授業内容と時間が書かれてある。ここでは自分で学びたいものを選ぶんだ」
「あ、ありがとうございます……」
花音は渡された書類に目を通す。
だが全く頭に入ってはこない。
花音は晴れない気持ちを言葉にする。
「私……適性検査、ダメだったんですよね」
「あ?」
あんな結果で合格がでるはずもない。
私は守護者になる資格すら――。
「ダメならこんなの持ってこねーよ。お前にマナは存在したじゃねえか」
「え? でも結果が無しって……」
ガイルは笑い出した。
何がそんなに面白いのか。馬鹿にしてるのだろうか。
「また座学で詳しく学ぶだろうが、あれは属性の話だ」
ガイルは花音のジュースを指差した。
「それがマナだ」
「え?」
「その飲み物は水に様々なものを加えてできてあるだろ。それと一緒だ。ベースである水という無のマナに加えられる果実や砂糖、それが属性と性質だ」
わかりやすいだろ、と言わんばかりのドヤ顔であった。
誰かの受け売りなんだろう。
「誰しも体に宿す純粋なマナ、それを無のマナと呼ぶ。それに属性と性質が混ざることで能力が生まれる」
そうだな、とガイル。
「俺で例えるとだな、無のマナに属性が火、性質が爆発。それが混ざって『爆炎』のマナ。てことだな」
「よくわからないけど、私にはマナがちゃんとあって、守護者になれるってことですか!?」
「お!? おう……てかやっぱり理解してねえのかよ!」
やったー、と花音は両手を上げて喜んでいた。
「めんどくせえ。もう座学でちゃんと勉強してきやがれ」
ガイルは花音に説明するのを諦めた。
これ以上続けると自分の説明が下手なのかと自信喪失してしまいそうだった。
花音は鼻歌を歌いながら書類を眺めている。
「マナの授業は取っておけよ? マナがあるとわかっただけで、自分で使えるようにならなきゃ意味がねえ」
「はっ! そうでした!」
マナが使えないと帰れないんだ。
「大丈夫かよ……。共鳴した時の感覚は忘れるな?」
「共鳴……さっき検査場でやったのがマナを出す感覚なんですよね?」
「ああそうだ。あれはお前の中のマナを呼んだだけでお前が自ら練り出したわけじゃねえからな」
花音は胸に手を当てて感覚を思い出す。
ガイルの言っていた、己の中のもう一人の自分を呼び放つという言葉の意味が少しわかった気がする。
リラックスして……。
「はっ!」
花音はいきなり両手を前に出して声をあげた。
「何やってんだお前」
小鳥のさえずりが虚しく響いた。
「あ、あれ!? マナを込めたつもりなんですけど」
「できてねえよ」
「……」
突き出した両手をすぐに顔に当てる。
恥ずかしい。
「まあ……最初はそんなもんだ。気にするな」
ガイルは大きな欠伸をして告げる。
「とりあえず俺はもう行くわ。後は頑張れ」
「え?」
それは聞いてない。
「ちょ、ちょっと! 私今から一人ぼっちになるんですか!?」
「あ? 俺は忙しいんだよ! やることはもう説明しただろ!?」
いやそうだけど、ひどくない?
まだここへきたばかりで右も左もわからないのに。
ガイルは花音の頭にそっと手を置く。
「大丈夫、君ならできる」
そう言ってガイルは去っていった。
なに今の。え? 誰の真似ですか?
すごい棒読みだったんですけど。
やっぱり私馬鹿にされてる!?
しかし本当に一人ぼっちにされてしまった。
「……」
心なしか広場に人が増えてきたような気がする。
道行く人から視線も感じる。ような気がする。
やだ、怖い。とりあえず移動しよう。
「えっと、マナの入門編の授業は……と」
先ほど目を通した時に確認した授業の書類を探す。
「あった、E棟の302……時間は」
花音は広場にある時計台と書類の時間を確認する。
「わっ、あんまり余裕がない!」
花音は急いで席を立ち、小走りで移動した。
シュヴァルトには守護者を養成するためにレベル別に分けられたA~Eの五つの棟がある。
指定されたE棟は花音と同じく新人~初級レベルを担う場所であった。
何とかたどり着けた。
小走りで移動し続けていたため、花音の息は少し荒れていた。
花音は部屋の入り口に302と記された札を何度も確認する。
「ここで……合ってるよね」
間違いないのだが、花音の抱く不安は全ての物事に対して疑心を生成した。
たった一人で知らない所で知らない人たちに囲まれて。
ここまで無事にたどり着けたのを褒めてほしいくらいだ。
花音は呼吸を整えて、恐る恐る部屋の戸を開いた。
扇状に綺麗に並べられた長机と座椅子。奥には誰かがそこに立って説明をするだろう教壇があった。
まさに座学だけのために用意された部屋のようで、花音は少し安堵した。
良かった、実技みたいな激しい運動をすることは無さそうだ。
花音は配置された座椅子を一瞥し、大人しそうな女の子を見つけて、その隣に座ろうと歩み寄った。
「と、隣……失礼しますね」
声をかけると女の子は一瞬びっくりしたような顔をしたが、小さく頷いて承諾してくれた。
その子も隣に女性が座ってくれて安心したのか、胸を撫で下ろすかのような素振りを見せた。
うん、気持ちはわかるよ。私も怖い人の隣が嫌でここを選ばせてもらったよ。
似たような境遇のようで花音も少し安堵した。
その安心感からか、花音は積極的に口を開ける。
「私、花音って言います。よろしくね」
隣の女の子はまた一瞬驚く素振りを見せたが、小さく口を開いて。
「わ、私……リブ。……よろしく」
リブの少し緩んだ口元からは笑みが垣間見えた。
やった! コミュニケーションが取れた!
「私、今さっきここに来たばかりでまだ何もわからなくて……はは」
花音は嬉しくて会話を繋げる。
「……一緒」
リブも戸惑いながらも必死に言葉を繋ぐ。
「私も、一人でここにきて……まだ全然で」
花音も笑みが溢れた。
「一緒だね! お互い頑張ろうね」
うん、とリブは頷いた。
花音は仲間ができたことの嬉しさで不安が消える。
少しの間を置き、奥の戸が開いて男の人が入場してきた。
「時間ですね。みなさんよろしくお願いします」
男は教壇についた。
青い髪に白衣を纏った、爽やかな笑みを浮かべた顔。
ガイルとは対照的で花音はまた安堵する。
優しそうな人で良かった。
「はじめまして、の人がほとんどだね。僕はフリージア。守護者の七番隊長を務めています」
七番? 隊長?
とりあえず偉い人なんだ。
「この授業のゴールはマナを自分で練り上げることです」
そう言い、フリージアは指を鳴らした。
「!」
花音の目の前に小さな水晶玉が出現した。
適性検査の時とは違って小型のサイズだが、それは記憶に新しい。
「みなさん恐らく適性検査を受けたと思いますが、それと似たようなものですね。ですが今回はその逆です」
フリージアは生徒を一瞥して続ける。
「今度は、みなさんがその水晶玉を共鳴させてください」
やっぱりそうなるのか。
部屋が騒つく。みんな気持ちは同じのようだ。
「マナは誰しもがその体に宿す存在。その存在を身近に感じ、自覚するのです。自分にはマナがあると信じて、呼びかけるのです」
ここの人たちはみんなそうだ。
もっと具体的に教えてくれないのだろうか。
いやそれとも、マナとはそういうものだと割り切ることが大事なのだろうか。
「はは……そう言われたってわからないよね」
花音は同意を得ようと隣の仲間に声をかける。
「できた……」
リブの水晶玉は綺麗な光を放っていた。
「え!?」
天才だ。隣にいたか弱い守護者は天才だった。
「す、すごいよリブちゃん!」
リブは恥ずかしがりながらも、笑みを向けてくれた。
「お? 素晴らしい。もう合格者が出ましたね」
気付いたフリージアもリブに拍手を向けた。
花音は焦りを感じ、急いでマナを練る。
リラックス、リラックス……!
頭で言い聞かせて手をかざしてみるが、水晶玉は何も反応しない。
「花音ちゃん……もっと落ち着いて」
隣の天才がか弱い声でアドバイスをくれる。
「うー、落ち着いてるんだけどなぁ」
リブは微かに首を横に振る。
「ううん……。頭ではわかってるかも知れないけど、花音ちゃん。何か焦ってる気がするの」
焦り? いや確かにそりゃ少しは焦るでしょ。目の前でそんな神業見せられたんだから。
「もっとね、落ち着いてお話するの。体の中の自分と、お友達になって会話をするの」
なにメルヘンなこと言ってるのこの人。
部屋がまた騒つくのが聞こえた。
水晶玉を光らせる合格者が出たのだ。
一人、また一人と共鳴による光が見えた。
や、やばい……置いていかれちゃう。
「だめ、花音ちゃん目を閉じて? 周りを気にしちゃだめ。自分から目を離さないで」
メルヘン先生がまたアドバイスをくれた。
「目を閉じて……リラックス」
花音はとりあえず言われた通りにやってみる。
「花音ちゃん、頭で言い聞かせちゃだめなの。それは命令してるだけ。マナはそれじゃ応えてくれないの」
そうは言われても……。無理だよ。
「ゆっくり、焦っちゃだめ。……そうだ、何か楽しかったことを思い出してみて?」
楽しかったこと? 何かあったっけ。
元いた世界で楽しかったことも特に……。
この世界へきて経験したことは……。
花音はふと、エデンの炎に包まれていた記憶を思い出す。
綺麗で……温かくて……優しかったなぁ。
「!」
花音は体の奥で、何かが反応したのを感じた。
「いいよ花音ちゃん。その調子」
メルヘン先生も背中を押してくれてる。
花音はフリージアが言った言葉も思い出す。
マナの存在を自覚して、信じること。
私には、マナがある!
力が込み上げてくるのを感じた。
適性検査で感じた、この感覚。
「そうだよ、花音ちゃん。水晶玉にもマナがあるの。優しくお話してあげて?」
優しく、語りかけるように……。
花音は目を開け、水晶玉にそっと、触れる。
「あっ!」
花音の水晶玉は静かに、気持ちに応えるかのように光り輝いた。
「できたー!」
花音は思わずリブの手を握る。
「ありがとうメルヘン先生~!」
「め、めるへん?」
あ、しまった。つい……。
「何でもない! ありがとうねリブちゃん!」
「う、うん。良かったね」
リブも花音に応えるように笑ってくれた。
教壇からフリージアが拍手をする音が聞こえる。
「私、今自分でマナを練ったんだよね!」
「うん、そうだよ」
嬉しい。一緒に共感してくれる仲間がいるからか、嬉しくて仕方がない。
花音は両手を広げて見る。
今の感覚を忘れないように。噛み締めるように。
だが、一つ違和感があった。
適性検査の時とは、少し感覚が違う。
マナを練り上げるまでは一緒だけど、何で言えばいいのかわからないけど、マナの濃さが違う?
そんな感じだ。
「これからも一緒に、頑張ろね……」
リブの声に花音は深く考えるのをやめた。
マナを出せたなら、それでいい。
今の感覚を忘れないように。
「うん! これからもよろしくね!」
お友達ができました。
これから、楽しくなりそう。
花音の視界を埋め尽くすは人工物のオンパレード。
見上げるほど高い建造物。
空を飛び交う車のような乗り物。
視線を落とせばおびただしい人の群れ。
全く無駄のなく整備された道。
それら全ての生活音が生み出すオーケストラ。
猫の国の城下町とはまた違った賑やかさ。
一言で言うなら大都会。いやそれ以上だ。
見るもの聞くもの全てが花音を圧倒した。
あらゆる情報に魅了される花音にガイルは補足する。
「建物が多すぎて見えねえが、先へ進めばここらのもんとは比にならねえほどデカくて広い建物が見えてくる。それが守護者の本部だ」
「凄すぎます……」
もう語彙力とかどうでもいい。
言葉で表すことなんてできない。
「これは全部……マナですか?」
「全部ではない、正しくはマナを込めた材質で作られている」
花音は忙しなく首を動かす。
原理や物理法則がどうなっているかわからないモノばかりだ。これもマナという言葉一つで解決するのだろうか。
「また座学で教わると思うが、こんな器用にモノが作れるのは人間だけだ」
なるほど、ふむふむ。
「とりあえず本部を目指すぞ、観光ならいつでもできる」
ガイルの視線の先には一台の車、のようなモノがあった。
空を飛び交っていた乗り物だ。
「飛箱だ。ガラルはとにかく広い。地を移動するのは効率が悪すぎる」
「え! 乗るんですか!? やったー! 乗りたい!」
「お!? おお」
花音の突然のはしゃぎようにガイルは目を点にした。
まるでアニメや漫画で見たような乗り物。
夢のような体験に花音は胸を躍らせていた。
「おい、乗れるか?」
ガイルは飛箱の窓を軽く叩いた。
中にいた男性は驚いた顔をしてすぐに窓を開けた。
「こ、これはガイルさん! どうぞどうぞ!」
後部のドアが自動で開く。
飛箱はタイヤが無く少し浮いていた。
「本部に向かってくれ」
ガイルの言葉に運転手と思われる男はわかりましたと答え、飛箱が起動する。
「わっ!」
突然体が宙に浮く感覚に襲われ、花音は驚きと興奮で声が漏れる。
飛箱は垂直に空へ移動したのだ。
上を見やると全面ガラス張りだった。
浮上するには上方の安全確認が必要になってくる故の造りであるのかと花音は一人で納得した。
景色も圧巻だった。
視界の奥まで広がる建造物の地平線。
ガラルの有する広大な面積は、人間の小さな瞳では到底収まるものではなかった。
「大丈夫か? お前さっきからずっと口が開いてんぞ」
「!」
言われてすぐに花音は手で口を覆う。
恥ずかしい。全然気付かなかった。
全神経を視覚に委ねてしまっていた。
「前方を見てみろ。あれが本部だ」
「わ! なにあれ……!」
隣の景色ばかり見てて全然気付かなかった。
前方にも巨大な建造物があり、その周りを囲む要塞のような壁。そして何より、広い。一つの建物が所有する土地とは思えないほどの広大な敷地。
「あれが守護者の……本部」
「正式名称はシュヴァルト。まあみんなめんどくせえから本部って呼んでるがな」
あそこで、これから私は守護者になるんだ。
距離が近づくに連れて胸の鼓動が高鳴ってくる。
私はこれから、守る側の人間になるんだ。
飛箱は静かに高度を落として着陸した。
「料金は本部につけといてくれ」
ガイルはそう言い放って地に足を下ろした。
花音も次いでそっと踏みしめる。
シュヴァルトの地へと着くこの一歩。
これが守護者への第一歩。
余韻に浸る花音にガイルは言葉をかける。
「いちいち感動してんじゃねえよ。まだ守護者になれると決まったわけじゃない。マナが使えなきゃ話になんねえぞ」
花音を置いて先へと進むガイル。
「え、ちょっと待ってくださいよ~!」
シュヴァルトの中へ入り、ガイルがフロントへ向かうと受付の女性が素敵な笑顔で声をかける。
「お疲れ様ですガイル様。そちらのお連れ様は?」
「ああ、新入りだ。適性検査の段取りを頼む」
かしこまりました、と女性はお辞儀をする。
適性検査?
「今から検査場へ向かう。マナを扱えるかどうかを見る」
「マナ……ですか」
そう、この世界ではマナがモノをいう。
これが使えないと話にならない。
わかってはいたが、いざその時が来ると緊張が走る。
すれ違う人は皆ガイルに挨拶をしていた。
やっぱり偉い人なのかな。
そしてここにいる人たちは皆守護者でマナが使える人間なのだろうか。
見るもの全てが新鮮すぎて思考を止める隙がない。
しばらく歩いたところで一つの部屋に通された。
シュヴァルトは中も広く、移動するのに時間がかかる。
「ここが適性検査場だ。今からお前のマナを調べる」
部屋には何もなかった。
いや、あるにはあるのだが、だだっ広い部屋の中心に水晶玉のようなものが存在するだけだった。
「なんか、想像と違う」
もっとすごい機械とかがあるものかと。
今までの衝撃が凄まじかった分、期待しすぎた。
消沈する花音にとある声が割り込んでくる。
「ふふふ、この部屋には何もないように見えますが、床や壁、天井、全てにマナが繊細に編み込まれ、あらゆる仕掛けが施された適性検査のためだけに生まれた特殊な部屋なのです」
声の方を見ると、そこには白衣を纏い、眼鏡をかけたいかにも検査員という雰囲気を醸し出した男がいた。
「特に! あの水晶玉は我々人間の血と汗と涙の結晶! 雨の日も風の日も努力を惜しまず日々――」
「要するに、あの水晶玉はマナを観測するモノだ」
眼鏡を無視してガイルは簡潔に説明してくれた。
「ガ、ガイル様……まだ説明が」
「お前の説明は理屈が多くて長い。この女の小さな頭では理解ができねえ」
あれ? 私何か馬鹿にされてない?
「俺が説明する。女、あの水晶玉の近くまでいけ」
「あ……はい!」
花音は言われるがまま部屋の中心に歩を進める。
「ここで大丈夫ですかー?」
花音は離れたガイルたちに聞こえるように声を張って言う。
ガイルは手を上げて合図をくれた。
「よーし女ぁ! マナを練ってみろ!」
「え!?」
いきなりすぎる。マナを練る? え?
当たり前のように言わないでほしい。
なに? 気張ればいいの?
そもそもマナってなに!?
挙動不審の花音を見た眼鏡がガイルに言葉を添える。
「あ、あのガイル様、あのお方マナの存在をまだ知らないのでは……」
「あ、説明忘れてたわ」
ガイルは声を張って花音に放つ。
「女ぁ! よく聞けぇ! マナというのは己の中にあるもう一人の自分を放つ感覚だぁ!」
「ごめんなさい! もう言葉の意味がわかりません!」
「はぁ!?」
いや、その説明でわかる人いるんですか!?
できる人いるんですか!?
「あいつダメだ。お前、頼むわ」
ガイルはもう面倒くさくなったのか、眼鏡に押し付ける。
ふふ、とその言葉を待ってましたというように眼鏡は拡声器を取り出して花音に言葉をかける。
「目を閉じてリラックスしてください。今からマナを共鳴させます。その感覚を忘れないでください」
「え? はい!」
花音はとりあえず目を閉じて深呼吸をした。
それを確認した眼鏡はリモコンを取り出してボタンを押す。
花音の周りに無数の小さな光の玉が出現した。
「!」
なに、この感覚……。
何かに呼ばれているように、体の中の何かが反応する。
全身から、何かが溢れるような……。
感覚が研ぎ澄まされて頭の中がスーッとする。
力が込み上げる。今ならなんでもできそう。
「マナを感じたらその水晶玉にぶつけるように、力を放出してみてください」
眼鏡の声と共に花音は目を開く。
水晶玉に、力をぶつける!!
刹那、水晶玉は激しい破裂音と共に粉々に破壊された。
「きゃっ!」
反動で花音は尻もちをつく。
何? 今の……びっくりした。
「ぎゃあああ!! 我々の努力の結晶がああああ!!」
後ろで眼鏡の悲痛な叫びが聞こえた。
これが……マナ?
「おい、女! 大丈夫か?」
ガイルは花音に近付き安否を確認する。
「あ……はい。少しびっくりしただけです」
花音は両手を開いて見る。
何だろう……今の感覚……。
「俺も驚いた……。一体どういうことだこれは」
「え? あれは壊すものじゃないんですか!?」
いや、とガイルは続ける。
「あれはマナの性質や威力、その他様々なデータを観測するもんだ」
「え!? ごめんなさい! 壊すつもりで力を込めちゃいました! どうしよう……本当にごめんなさい!」
恐ろしい女だ。普通壊すと思うか?
やはり天然なのか、時々発想が怖い。
「まあ、簡単に壊れる代物じゃねえんだが」
水晶玉はマナの力量を計るため、耐久面はもちろんしっかりと作られていた。少なくとも、今日初めてマナを使う人間が壊せるようなものではなかった。
「眼鏡男! データはどうなっている!?」
ガイルは魂の抜け殻と化していた眼鏡に息を吹き返す。
「あ……は、はい。データは……」
おぼつかない足取りで眼鏡は設置された機械のモニターに目を移す。
「やはり壊れた影響でしょうか、ほとんどの数値がエラーに……あれ、属性だけが測定できてますが」
眼鏡は一瞬口を閉じてガイルをチラ見した。
そしてまたゆっくりと告げる。
「無し……ですね」
シュヴァルトの敷地内には守護者が自由に過ごすことのできる多目的広場がある。
花音はそこのベンチに小さく腰掛け、ガイルに奢ってもらったジュースを飲んでため息をついていた。
「何て顔してんだよ」
ガイルはそこで待たせていた小さな守護者に声をかける。
「ここへきた時のテンションはどこへ行ったよ。ほら、今度は座学だ。この書類に目を通せ。授業内容と時間が書かれてある。ここでは自分で学びたいものを選ぶんだ」
「あ、ありがとうございます……」
花音は渡された書類に目を通す。
だが全く頭に入ってはこない。
花音は晴れない気持ちを言葉にする。
「私……適性検査、ダメだったんですよね」
「あ?」
あんな結果で合格がでるはずもない。
私は守護者になる資格すら――。
「ダメならこんなの持ってこねーよ。お前にマナは存在したじゃねえか」
「え? でも結果が無しって……」
ガイルは笑い出した。
何がそんなに面白いのか。馬鹿にしてるのだろうか。
「また座学で詳しく学ぶだろうが、あれは属性の話だ」
ガイルは花音のジュースを指差した。
「それがマナだ」
「え?」
「その飲み物は水に様々なものを加えてできてあるだろ。それと一緒だ。ベースである水という無のマナに加えられる果実や砂糖、それが属性と性質だ」
わかりやすいだろ、と言わんばかりのドヤ顔であった。
誰かの受け売りなんだろう。
「誰しも体に宿す純粋なマナ、それを無のマナと呼ぶ。それに属性と性質が混ざることで能力が生まれる」
そうだな、とガイル。
「俺で例えるとだな、無のマナに属性が火、性質が爆発。それが混ざって『爆炎』のマナ。てことだな」
「よくわからないけど、私にはマナがちゃんとあって、守護者になれるってことですか!?」
「お!? おう……てかやっぱり理解してねえのかよ!」
やったー、と花音は両手を上げて喜んでいた。
「めんどくせえ。もう座学でちゃんと勉強してきやがれ」
ガイルは花音に説明するのを諦めた。
これ以上続けると自分の説明が下手なのかと自信喪失してしまいそうだった。
花音は鼻歌を歌いながら書類を眺めている。
「マナの授業は取っておけよ? マナがあるとわかっただけで、自分で使えるようにならなきゃ意味がねえ」
「はっ! そうでした!」
マナが使えないと帰れないんだ。
「大丈夫かよ……。共鳴した時の感覚は忘れるな?」
「共鳴……さっき検査場でやったのがマナを出す感覚なんですよね?」
「ああそうだ。あれはお前の中のマナを呼んだだけでお前が自ら練り出したわけじゃねえからな」
花音は胸に手を当てて感覚を思い出す。
ガイルの言っていた、己の中のもう一人の自分を呼び放つという言葉の意味が少しわかった気がする。
リラックスして……。
「はっ!」
花音はいきなり両手を前に出して声をあげた。
「何やってんだお前」
小鳥のさえずりが虚しく響いた。
「あ、あれ!? マナを込めたつもりなんですけど」
「できてねえよ」
「……」
突き出した両手をすぐに顔に当てる。
恥ずかしい。
「まあ……最初はそんなもんだ。気にするな」
ガイルは大きな欠伸をして告げる。
「とりあえず俺はもう行くわ。後は頑張れ」
「え?」
それは聞いてない。
「ちょ、ちょっと! 私今から一人ぼっちになるんですか!?」
「あ? 俺は忙しいんだよ! やることはもう説明しただろ!?」
いやそうだけど、ひどくない?
まだここへきたばかりで右も左もわからないのに。
ガイルは花音の頭にそっと手を置く。
「大丈夫、君ならできる」
そう言ってガイルは去っていった。
なに今の。え? 誰の真似ですか?
すごい棒読みだったんですけど。
やっぱり私馬鹿にされてる!?
しかし本当に一人ぼっちにされてしまった。
「……」
心なしか広場に人が増えてきたような気がする。
道行く人から視線も感じる。ような気がする。
やだ、怖い。とりあえず移動しよう。
「えっと、マナの入門編の授業は……と」
先ほど目を通した時に確認した授業の書類を探す。
「あった、E棟の302……時間は」
花音は広場にある時計台と書類の時間を確認する。
「わっ、あんまり余裕がない!」
花音は急いで席を立ち、小走りで移動した。
シュヴァルトには守護者を養成するためにレベル別に分けられたA~Eの五つの棟がある。
指定されたE棟は花音と同じく新人~初級レベルを担う場所であった。
何とかたどり着けた。
小走りで移動し続けていたため、花音の息は少し荒れていた。
花音は部屋の入り口に302と記された札を何度も確認する。
「ここで……合ってるよね」
間違いないのだが、花音の抱く不安は全ての物事に対して疑心を生成した。
たった一人で知らない所で知らない人たちに囲まれて。
ここまで無事にたどり着けたのを褒めてほしいくらいだ。
花音は呼吸を整えて、恐る恐る部屋の戸を開いた。
扇状に綺麗に並べられた長机と座椅子。奥には誰かがそこに立って説明をするだろう教壇があった。
まさに座学だけのために用意された部屋のようで、花音は少し安堵した。
良かった、実技みたいな激しい運動をすることは無さそうだ。
花音は配置された座椅子を一瞥し、大人しそうな女の子を見つけて、その隣に座ろうと歩み寄った。
「と、隣……失礼しますね」
声をかけると女の子は一瞬びっくりしたような顔をしたが、小さく頷いて承諾してくれた。
その子も隣に女性が座ってくれて安心したのか、胸を撫で下ろすかのような素振りを見せた。
うん、気持ちはわかるよ。私も怖い人の隣が嫌でここを選ばせてもらったよ。
似たような境遇のようで花音も少し安堵した。
その安心感からか、花音は積極的に口を開ける。
「私、花音って言います。よろしくね」
隣の女の子はまた一瞬驚く素振りを見せたが、小さく口を開いて。
「わ、私……リブ。……よろしく」
リブの少し緩んだ口元からは笑みが垣間見えた。
やった! コミュニケーションが取れた!
「私、今さっきここに来たばかりでまだ何もわからなくて……はは」
花音は嬉しくて会話を繋げる。
「……一緒」
リブも戸惑いながらも必死に言葉を繋ぐ。
「私も、一人でここにきて……まだ全然で」
花音も笑みが溢れた。
「一緒だね! お互い頑張ろうね」
うん、とリブは頷いた。
花音は仲間ができたことの嬉しさで不安が消える。
少しの間を置き、奥の戸が開いて男の人が入場してきた。
「時間ですね。みなさんよろしくお願いします」
男は教壇についた。
青い髪に白衣を纏った、爽やかな笑みを浮かべた顔。
ガイルとは対照的で花音はまた安堵する。
優しそうな人で良かった。
「はじめまして、の人がほとんどだね。僕はフリージア。守護者の七番隊長を務めています」
七番? 隊長?
とりあえず偉い人なんだ。
「この授業のゴールはマナを自分で練り上げることです」
そう言い、フリージアは指を鳴らした。
「!」
花音の目の前に小さな水晶玉が出現した。
適性検査の時とは違って小型のサイズだが、それは記憶に新しい。
「みなさん恐らく適性検査を受けたと思いますが、それと似たようなものですね。ですが今回はその逆です」
フリージアは生徒を一瞥して続ける。
「今度は、みなさんがその水晶玉を共鳴させてください」
やっぱりそうなるのか。
部屋が騒つく。みんな気持ちは同じのようだ。
「マナは誰しもがその体に宿す存在。その存在を身近に感じ、自覚するのです。自分にはマナがあると信じて、呼びかけるのです」
ここの人たちはみんなそうだ。
もっと具体的に教えてくれないのだろうか。
いやそれとも、マナとはそういうものだと割り切ることが大事なのだろうか。
「はは……そう言われたってわからないよね」
花音は同意を得ようと隣の仲間に声をかける。
「できた……」
リブの水晶玉は綺麗な光を放っていた。
「え!?」
天才だ。隣にいたか弱い守護者は天才だった。
「す、すごいよリブちゃん!」
リブは恥ずかしがりながらも、笑みを向けてくれた。
「お? 素晴らしい。もう合格者が出ましたね」
気付いたフリージアもリブに拍手を向けた。
花音は焦りを感じ、急いでマナを練る。
リラックス、リラックス……!
頭で言い聞かせて手をかざしてみるが、水晶玉は何も反応しない。
「花音ちゃん……もっと落ち着いて」
隣の天才がか弱い声でアドバイスをくれる。
「うー、落ち着いてるんだけどなぁ」
リブは微かに首を横に振る。
「ううん……。頭ではわかってるかも知れないけど、花音ちゃん。何か焦ってる気がするの」
焦り? いや確かにそりゃ少しは焦るでしょ。目の前でそんな神業見せられたんだから。
「もっとね、落ち着いてお話するの。体の中の自分と、お友達になって会話をするの」
なにメルヘンなこと言ってるのこの人。
部屋がまた騒つくのが聞こえた。
水晶玉を光らせる合格者が出たのだ。
一人、また一人と共鳴による光が見えた。
や、やばい……置いていかれちゃう。
「だめ、花音ちゃん目を閉じて? 周りを気にしちゃだめ。自分から目を離さないで」
メルヘン先生がまたアドバイスをくれた。
「目を閉じて……リラックス」
花音はとりあえず言われた通りにやってみる。
「花音ちゃん、頭で言い聞かせちゃだめなの。それは命令してるだけ。マナはそれじゃ応えてくれないの」
そうは言われても……。無理だよ。
「ゆっくり、焦っちゃだめ。……そうだ、何か楽しかったことを思い出してみて?」
楽しかったこと? 何かあったっけ。
元いた世界で楽しかったことも特に……。
この世界へきて経験したことは……。
花音はふと、エデンの炎に包まれていた記憶を思い出す。
綺麗で……温かくて……優しかったなぁ。
「!」
花音は体の奥で、何かが反応したのを感じた。
「いいよ花音ちゃん。その調子」
メルヘン先生も背中を押してくれてる。
花音はフリージアが言った言葉も思い出す。
マナの存在を自覚して、信じること。
私には、マナがある!
力が込み上げてくるのを感じた。
適性検査で感じた、この感覚。
「そうだよ、花音ちゃん。水晶玉にもマナがあるの。優しくお話してあげて?」
優しく、語りかけるように……。
花音は目を開け、水晶玉にそっと、触れる。
「あっ!」
花音の水晶玉は静かに、気持ちに応えるかのように光り輝いた。
「できたー!」
花音は思わずリブの手を握る。
「ありがとうメルヘン先生~!」
「め、めるへん?」
あ、しまった。つい……。
「何でもない! ありがとうねリブちゃん!」
「う、うん。良かったね」
リブも花音に応えるように笑ってくれた。
教壇からフリージアが拍手をする音が聞こえる。
「私、今自分でマナを練ったんだよね!」
「うん、そうだよ」
嬉しい。一緒に共感してくれる仲間がいるからか、嬉しくて仕方がない。
花音は両手を広げて見る。
今の感覚を忘れないように。噛み締めるように。
だが、一つ違和感があった。
適性検査の時とは、少し感覚が違う。
マナを練り上げるまでは一緒だけど、何で言えばいいのかわからないけど、マナの濃さが違う?
そんな感じだ。
「これからも一緒に、頑張ろね……」
リブの声に花音は深く考えるのをやめた。
マナを出せたなら、それでいい。
今の感覚を忘れないように。
「うん! これからもよろしくね!」
お友達ができました。
これから、楽しくなりそう。
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