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第2章 飛躍の翼
手柄の行方2
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レジリス村を出て、早くも寒さが緩み出した頃。
「もう、放してよおばさん!」
左腕の中でもがくユナの抗議に、メイルは思わず噴き出した。
「誰がおばさんだい、この小娘!あたしはまだ21だよ!」
「えっ、ウソ!?絶対サバ読んでるでしょ!その顔なら30歳くらい行ってるはずだよ!」
「30なんかなってない!!21だって言ったら、21だよ!何なら、調べてみたらどうだい!」
「…何言ってるの?」
「その妙な身なり、ジャボンの出なんだろ!情報収集なんかお手の物だろうから、好きに調べろって言ってるのさ!」
冷や汗を浮かべながらも強いて微笑んでいたユナだったが、ついに動揺を露わに黙り込む。
「…どうして、ジャボンのこと…私達の隠れ里なのに…。」
「前に、ジャボンを出て行った奴に出くわしたことがあったんだよ。」
「え、抜け忍さんに?」
「そう。そいつが何ともお喋りな男でね。部外者相手に古巣のことをあれこれバラしてくれたのさ。」
「ん?でも、何でおばさんが―」
「はい??」
怒気に満ちた笑顔で威圧され、ユナは震えながら訂正する。
「…お姉さんが、その抜け忍さんに会ったの?」
「仕事だよ。町中で盗みやらケンカやら繰り返すそいつを力づくでもとっちめてくれって頼まれてね。ちょっとばかり黙ってもらったんだ。」
「抜け忍さんは、その後どうなったの?」
「縛り上げて依頼人に引き渡したきりだから、あたしには何とも。でも今にして思えば、もし依頼人がジャボンの関係者だったら、始末しちまってるかもね。そのヌケニン曰く、悪さしない限りは脱走者にも優しいけど、やれば最後どんなセコい罪でも容赦ないのがあんた達だそうだし?」
「待てって言ってんだろうが、コソ泥野郎!!!」
いつしか足を止めて話し込んでいたメイルに、翼を広げた風刃が追い付いた。
「くっ、しょうもない話してたばっかりに…あんたまさか、これを狙ってたんじゃないだろうね?」
メイルから恨みがましく睨まれるが、ユナは軽く右手を振って否定する。
「私にしてみたら、どっちに捕まっても同じことですし。」
「あ、そりゃそうか。」
「呑気にペラペラ喋ってんじゃねぇ!!人の獲物横取りしやがって、痛ぇ目見る覚悟はできてんだろうな!!」
憤怒の形相で吠える風刃を前にしても、メイルは動じない。
「小娘、大人しくしてなよ。この期に及んで逃げ出したりしなきゃ、あの坊ちゃんがやったみたいな痛いことはナシにしてやるからさ。」
やや怯えた様子のユナを徐に下ろし、風刃に向き直る。
「坊ちゃん。コソ泥呼ばわりなんてあんまりじゃないかい?元々この仕事、どっちが先に小娘とアルス王子を城に連れて行くかの勝負じゃないか。たまたまあたしが横取りする側になっただけで、もしかしたらあんた達がコソ泥だったかもしれないんだよ。」
「くだらねぇ理屈抜かすな!!ぶちのめされたくなかったら、とっととその馬鹿女を返しやがれ!」
「そっちこそ、余計なケガをしたくなかったら退いちゃくれないかな。あんた達はカオス=エメラルドの欠片がお目当てらしいし、賞金は譲ってくれても構わないだろ?」
「いくら狙ってねぇ物でも、コソ泥によこすってのは聞けねぇ相談なんだよ!!」
風刃は素早くメイルの背後に回ると、烈風を纏った木刀での右薙を見舞いにかかった。
だがメイルは機敏に振り向き、大剣を盾代わりにして攻撃を防いでみせる。
「ちっ…!」
風刃は強引に押し切ろうと力むが、メイルの守りも固い。
明白に震えてはいるものの、突き崩すには至らない。
「やるね、坊ちゃん…手にビリビリ来たよ…相当、鍛えてるんじゃないのかい…?」
「みっちり修行したのは、1週間位だけどな…!」
「本当かい…?そいつはすごいね…!師匠がいるのか我流なんだかよく分からない動きだけど、どっちにしろ1週間ぽっちの鍛錬でこれだけやれるなんて、並じゃないよ…!」
「けっ…余裕のつもりか…!」
「ふふ…余裕なんか、全然ないさ…それでも、あたしは負けられないってだけだよ!」
メイルは大剣を盾代わりにした体勢のまま、体当たりを放つ。
「ぐあっ!」
胸に直撃を受けた風刃は、勢いよく弾き飛ばされた。
「衝!!」
左手で患部を押さえる風刃にも、メイルは追撃の手を緩めない。
大剣を横薙ぎに振るい、空を裂かんばかりの強力な衝撃波を放った。
「く…風翔斬!!」
空中で体勢を整えた風刃は木刀を振り下ろし、メイルの撃った衝撃波を風の斬撃で押し止める。
両者の勢力の差は僅かな物で、随分と激しく競り合っていたが、終いには風刃が衝撃波に飲み込まれた。
「ぐっ…うわああああああああ!」
風刃はレジリス村の西部に広がる林へと吹き飛ばされていった。
「…ふう。ひとまず何とかなったかな?」
「…すごい…あの人をこんな簡単に…。」
「簡単なもんか。あの坊ちゃん、想像以上の腕だよ。かなり弱く見積もっても、あたしと互角くらいは十分ある。ケガしたくなかったらなんて大口叩いちまったけど、今の一撃じゃ、かすり傷がいくつか付けば大勝利ってとこかもね…わっ!!」
僕は模造刀を引き抜きざまに右薙ぎを叩き込んだが、脊髄反射のような速さでかわされた。
「ちっ。つくづくガタイと格好の割にはすばしっこいな。」
空いた左手で頭をかきながらぼやく。
厳密には完全な空振りでもなく、メイルの前髪を数本散らせてはいたが、それ以外にダメージは見受けられない。
「くっ…団体さんの揃い踏みかい。こいつは参ったね…。」
「おっと、誤解してくれんなよ~?安いチンピラじゃあるまいし、6対1なんてダサい真似しやしねえぜ~。」
開き直ったようなメイルの微笑みが、紅炎の一言で驚き一色に染まる。
「愚弟が世話になったみたいだし、僕が相手しよう。お前が勝ったら、誘拐犯もアルス王子も好きにして良いぞ。」
「へえ。あたしにはありがたい話だけど、お仲間さん達は構わないのかい?」
「…まア、仕方がねエさ。」
「悔しいけど風くんを押しのけるような人、今のボクらじゃどうこうできないしね。嵐兄さんでも勝てなかったりしたら、なおさらだよ。」
「…あの…私…。」
小さく挙手する舞を、確かに舞さんに戦って頂くのが一番ですが、と麗奈が止める。
「ここは嵐刃さんに譲って差し上げて下さい。こうした状況を他人に任せる方ではありませんから。」
「…ほほう…なかなか…ぶらこんな…お兄ちゃんの…ようですな…。」
「お前、先に斬られたい?」
「おやおや。内輪揉めしてる場合かい!?」
メイルが正面から振り下ろして来た大剣を、模造刀で受け止める。
鍔迫り合いが長引きそうになったところで後退して体勢を崩させると、右切り上げを浴びせた。
「うっ!」
「天嵐断!」
続けて強烈な風を付与した唐竹割りを見舞うが、こちらは横に跳んで回避される。
「烈!!」
メイルは大剣を地面に叩き付け、地を這う衝撃波を繰り出した。
「これ、さっきも使った技だろ。芸がないな―」
軽く跳んでかわしたが、地を強く蹴ったメイルは瞬時に僕の頭上を取った。
「砕!!」
渾身の力を込めた縦斬りに右肩をかすめられた途端、凄まじい勢いで叩き落とされる。
「ぐっ…。」
だが体勢を整えるのは難しくなく、墜落は免れた。
「撃!!」
僕の後ろに着地したメイルは、息もつかせないと言わんばかりに連続突きを仕掛けて来る。
身の丈程の剣を扱っているにもかかわらず、その攻撃は疾風を思わせる速さだった。
しかし、かわせない程ではない。
突きの連打を潜り抜けてメイルの背中を取り、袈裟斬りを叩き込んだ。
「く…。」
メイルは微かによろめいたが、倒れる気配は露となかった。
純白の鎧にそれなりの傷が入っただけで当人はほとんど痛手を負っていないのだから、道理だろう。
目も闘志に満ちたままで、衰えは見えない。
間違ってもこのまま終わる流れではないなと、気を引き締めたが。
「…残念だけど、あたしの負けだね。小娘とアルス王子は、あんた達に任せるよ。」
メイルは溜息と苦笑いをこぼし、早々と降参した。
「…意外だな。続ける気だと思ってたけど。」
「これでも傭兵だからね。相手との差…持久戦に持ち込んで結果が変わるかどうかくらい、嫌でも分かっちまうさ。」
「…そうか。諦めの悪いゲームオタクより、頭が切れるみたいだな。」
憑き物が落ちたような顔で大剣を背中に戻したメイルに続き、僕も模造刀を鞘に納めた。
「しかしせっかくの大きな仕事で、こうも出し抜きようのないライバルにぶつかるなんてね。これ、日頃の行いを考え直せってことかな。」
「まあ、人の手柄を横取りしようとする非ドウトク的なお姉さんじゃねえ…。」
「あんたにだけは道徳をどうこう言われる筋合いないよ!」
口を挟んだユナに、メイルの拳骨が振り下ろされる。
「いた~い!もう、ちゃんとお姉さんって言ったのに!」
「問答無用だ!ほら、団体さんにとっととアルス王子のことを話したらどうだい!」
「…そう言えば…あなた…アルスくんを…さらったのは…わけがあるって…言ってたよね…何が…あったの…?」
中腰になって目線を合わせた舞に、涙目で頭を擦っていたユナが重い口を開く。
「…アルスくんね。ローガルスでカオス=エメラルドの欠片を買ったの…。」
「…え…ローガルスで…!?」
「ローガルス…?どんなとこなんですか?」
「…えっと…その…。」
「貧乏人やならず者だらけで盗みも騙しも暴力も当たり前、って有名な町さ。」
言い淀む舞に代わり、メイルが端的に説明する。
「商売やってる奴も多いけど、そのほとんどが闇商人なのもよく知られてるんだ。それでも時々本当に貴重な品物があるからって、カタギでも足を運ぶクチもいるようだけどね…。」
「…まさか、アルス王子が立ち寄られたお店も…?」
ユナは無言で頷いた。
「…つーことは、王子さんは欠片の元持ち主…それも結構やべー奴に睨まれたんだな…。」
「はい…だから、アルスくんをかくまいながら、元持ち主をやっつけてくれる腕利きの人を探せればと思って…。」
「だったら最初からそう言えよ!こんなめんどい真似する必要なかっただろ!」
「簡単に言えませんってば!ローガルスはファラームじゃ立ち入り厳禁区域なのに、王子さまが条例違反したなんて大問題だし!それに、その欠片の元持ち主はラダンっていう強盗で…!」
「ラダン!?それって、噂のラダン=ベイルってヤツかい!?」
「そう!そいつ!」
メイルの面持ちに、明らかな焦りの色が宿った。
「…よっぽど危ない奴なのか、その強盗?」
「…前科…三桁超え…盗めるものなら…お金も…物も…命でも…何でも盗むって…最低な男…。」
今度は舞が、絶句したメイルに代わって答えた。
「…おまけに…噂じゃ…盗みも…人殺しも…半分は…名前を…上げたいためで…時々…興味もないもの…盗んだり…恨みもなければ…邪魔になった…わけでもない人…殺したりも…してるとか…。」
「…とンだクズ野郎だな。」
「じゃ、すぐに王子さまと合流しないと!どこにいるのさ!」
「レジリス村に…霊峰レジリスに一番近い、黒い屋根のロッジに隠れてもらってるの!案内するから、ついて来て!」
ユナは急ぎ立ち上がると、僕達が後に続くかを確かめもしないまま走り出した。
「…ちっ…狂言誘拐犯に仕切られるのも癪だけど、しょうがないか…。」
「だな。急ごうぜ、皆の衆!」
「ああ!―それと、誰か風刃を拾って今の話を伝えといてくれ!」
「…それじゃ…私…行ってくる…!」
即答した舞が、レジリス村の西の林へと向かった。
一方、ユナを追う僕達には、メイルも付いて来た。
「あたしも付き合わせてもらうよ。強盗ラダンの懸賞金はかなりの額だからね。」
「…別に良いけど、今度はこっちの邪魔はしてくれるなよ。」
「ああ、もちろんさ。」
「もう、放してよおばさん!」
左腕の中でもがくユナの抗議に、メイルは思わず噴き出した。
「誰がおばさんだい、この小娘!あたしはまだ21だよ!」
「えっ、ウソ!?絶対サバ読んでるでしょ!その顔なら30歳くらい行ってるはずだよ!」
「30なんかなってない!!21だって言ったら、21だよ!何なら、調べてみたらどうだい!」
「…何言ってるの?」
「その妙な身なり、ジャボンの出なんだろ!情報収集なんかお手の物だろうから、好きに調べろって言ってるのさ!」
冷や汗を浮かべながらも強いて微笑んでいたユナだったが、ついに動揺を露わに黙り込む。
「…どうして、ジャボンのこと…私達の隠れ里なのに…。」
「前に、ジャボンを出て行った奴に出くわしたことがあったんだよ。」
「え、抜け忍さんに?」
「そう。そいつが何ともお喋りな男でね。部外者相手に古巣のことをあれこれバラしてくれたのさ。」
「ん?でも、何でおばさんが―」
「はい??」
怒気に満ちた笑顔で威圧され、ユナは震えながら訂正する。
「…お姉さんが、その抜け忍さんに会ったの?」
「仕事だよ。町中で盗みやらケンカやら繰り返すそいつを力づくでもとっちめてくれって頼まれてね。ちょっとばかり黙ってもらったんだ。」
「抜け忍さんは、その後どうなったの?」
「縛り上げて依頼人に引き渡したきりだから、あたしには何とも。でも今にして思えば、もし依頼人がジャボンの関係者だったら、始末しちまってるかもね。そのヌケニン曰く、悪さしない限りは脱走者にも優しいけど、やれば最後どんなセコい罪でも容赦ないのがあんた達だそうだし?」
「待てって言ってんだろうが、コソ泥野郎!!!」
いつしか足を止めて話し込んでいたメイルに、翼を広げた風刃が追い付いた。
「くっ、しょうもない話してたばっかりに…あんたまさか、これを狙ってたんじゃないだろうね?」
メイルから恨みがましく睨まれるが、ユナは軽く右手を振って否定する。
「私にしてみたら、どっちに捕まっても同じことですし。」
「あ、そりゃそうか。」
「呑気にペラペラ喋ってんじゃねぇ!!人の獲物横取りしやがって、痛ぇ目見る覚悟はできてんだろうな!!」
憤怒の形相で吠える風刃を前にしても、メイルは動じない。
「小娘、大人しくしてなよ。この期に及んで逃げ出したりしなきゃ、あの坊ちゃんがやったみたいな痛いことはナシにしてやるからさ。」
やや怯えた様子のユナを徐に下ろし、風刃に向き直る。
「坊ちゃん。コソ泥呼ばわりなんてあんまりじゃないかい?元々この仕事、どっちが先に小娘とアルス王子を城に連れて行くかの勝負じゃないか。たまたまあたしが横取りする側になっただけで、もしかしたらあんた達がコソ泥だったかもしれないんだよ。」
「くだらねぇ理屈抜かすな!!ぶちのめされたくなかったら、とっととその馬鹿女を返しやがれ!」
「そっちこそ、余計なケガをしたくなかったら退いちゃくれないかな。あんた達はカオス=エメラルドの欠片がお目当てらしいし、賞金は譲ってくれても構わないだろ?」
「いくら狙ってねぇ物でも、コソ泥によこすってのは聞けねぇ相談なんだよ!!」
風刃は素早くメイルの背後に回ると、烈風を纏った木刀での右薙を見舞いにかかった。
だがメイルは機敏に振り向き、大剣を盾代わりにして攻撃を防いでみせる。
「ちっ…!」
風刃は強引に押し切ろうと力むが、メイルの守りも固い。
明白に震えてはいるものの、突き崩すには至らない。
「やるね、坊ちゃん…手にビリビリ来たよ…相当、鍛えてるんじゃないのかい…?」
「みっちり修行したのは、1週間位だけどな…!」
「本当かい…?そいつはすごいね…!師匠がいるのか我流なんだかよく分からない動きだけど、どっちにしろ1週間ぽっちの鍛錬でこれだけやれるなんて、並じゃないよ…!」
「けっ…余裕のつもりか…!」
「ふふ…余裕なんか、全然ないさ…それでも、あたしは負けられないってだけだよ!」
メイルは大剣を盾代わりにした体勢のまま、体当たりを放つ。
「ぐあっ!」
胸に直撃を受けた風刃は、勢いよく弾き飛ばされた。
「衝!!」
左手で患部を押さえる風刃にも、メイルは追撃の手を緩めない。
大剣を横薙ぎに振るい、空を裂かんばかりの強力な衝撃波を放った。
「く…風翔斬!!」
空中で体勢を整えた風刃は木刀を振り下ろし、メイルの撃った衝撃波を風の斬撃で押し止める。
両者の勢力の差は僅かな物で、随分と激しく競り合っていたが、終いには風刃が衝撃波に飲み込まれた。
「ぐっ…うわああああああああ!」
風刃はレジリス村の西部に広がる林へと吹き飛ばされていった。
「…ふう。ひとまず何とかなったかな?」
「…すごい…あの人をこんな簡単に…。」
「簡単なもんか。あの坊ちゃん、想像以上の腕だよ。かなり弱く見積もっても、あたしと互角くらいは十分ある。ケガしたくなかったらなんて大口叩いちまったけど、今の一撃じゃ、かすり傷がいくつか付けば大勝利ってとこかもね…わっ!!」
僕は模造刀を引き抜きざまに右薙ぎを叩き込んだが、脊髄反射のような速さでかわされた。
「ちっ。つくづくガタイと格好の割にはすばしっこいな。」
空いた左手で頭をかきながらぼやく。
厳密には完全な空振りでもなく、メイルの前髪を数本散らせてはいたが、それ以外にダメージは見受けられない。
「くっ…団体さんの揃い踏みかい。こいつは参ったね…。」
「おっと、誤解してくれんなよ~?安いチンピラじゃあるまいし、6対1なんてダサい真似しやしねえぜ~。」
開き直ったようなメイルの微笑みが、紅炎の一言で驚き一色に染まる。
「愚弟が世話になったみたいだし、僕が相手しよう。お前が勝ったら、誘拐犯もアルス王子も好きにして良いぞ。」
「へえ。あたしにはありがたい話だけど、お仲間さん達は構わないのかい?」
「…まア、仕方がねエさ。」
「悔しいけど風くんを押しのけるような人、今のボクらじゃどうこうできないしね。嵐兄さんでも勝てなかったりしたら、なおさらだよ。」
「…あの…私…。」
小さく挙手する舞を、確かに舞さんに戦って頂くのが一番ですが、と麗奈が止める。
「ここは嵐刃さんに譲って差し上げて下さい。こうした状況を他人に任せる方ではありませんから。」
「…ほほう…なかなか…ぶらこんな…お兄ちゃんの…ようですな…。」
「お前、先に斬られたい?」
「おやおや。内輪揉めしてる場合かい!?」
メイルが正面から振り下ろして来た大剣を、模造刀で受け止める。
鍔迫り合いが長引きそうになったところで後退して体勢を崩させると、右切り上げを浴びせた。
「うっ!」
「天嵐断!」
続けて強烈な風を付与した唐竹割りを見舞うが、こちらは横に跳んで回避される。
「烈!!」
メイルは大剣を地面に叩き付け、地を這う衝撃波を繰り出した。
「これ、さっきも使った技だろ。芸がないな―」
軽く跳んでかわしたが、地を強く蹴ったメイルは瞬時に僕の頭上を取った。
「砕!!」
渾身の力を込めた縦斬りに右肩をかすめられた途端、凄まじい勢いで叩き落とされる。
「ぐっ…。」
だが体勢を整えるのは難しくなく、墜落は免れた。
「撃!!」
僕の後ろに着地したメイルは、息もつかせないと言わんばかりに連続突きを仕掛けて来る。
身の丈程の剣を扱っているにもかかわらず、その攻撃は疾風を思わせる速さだった。
しかし、かわせない程ではない。
突きの連打を潜り抜けてメイルの背中を取り、袈裟斬りを叩き込んだ。
「く…。」
メイルは微かによろめいたが、倒れる気配は露となかった。
純白の鎧にそれなりの傷が入っただけで当人はほとんど痛手を負っていないのだから、道理だろう。
目も闘志に満ちたままで、衰えは見えない。
間違ってもこのまま終わる流れではないなと、気を引き締めたが。
「…残念だけど、あたしの負けだね。小娘とアルス王子は、あんた達に任せるよ。」
メイルは溜息と苦笑いをこぼし、早々と降参した。
「…意外だな。続ける気だと思ってたけど。」
「これでも傭兵だからね。相手との差…持久戦に持ち込んで結果が変わるかどうかくらい、嫌でも分かっちまうさ。」
「…そうか。諦めの悪いゲームオタクより、頭が切れるみたいだな。」
憑き物が落ちたような顔で大剣を背中に戻したメイルに続き、僕も模造刀を鞘に納めた。
「しかしせっかくの大きな仕事で、こうも出し抜きようのないライバルにぶつかるなんてね。これ、日頃の行いを考え直せってことかな。」
「まあ、人の手柄を横取りしようとする非ドウトク的なお姉さんじゃねえ…。」
「あんたにだけは道徳をどうこう言われる筋合いないよ!」
口を挟んだユナに、メイルの拳骨が振り下ろされる。
「いた~い!もう、ちゃんとお姉さんって言ったのに!」
「問答無用だ!ほら、団体さんにとっととアルス王子のことを話したらどうだい!」
「…そう言えば…あなた…アルスくんを…さらったのは…わけがあるって…言ってたよね…何が…あったの…?」
中腰になって目線を合わせた舞に、涙目で頭を擦っていたユナが重い口を開く。
「…アルスくんね。ローガルスでカオス=エメラルドの欠片を買ったの…。」
「…え…ローガルスで…!?」
「ローガルス…?どんなとこなんですか?」
「…えっと…その…。」
「貧乏人やならず者だらけで盗みも騙しも暴力も当たり前、って有名な町さ。」
言い淀む舞に代わり、メイルが端的に説明する。
「商売やってる奴も多いけど、そのほとんどが闇商人なのもよく知られてるんだ。それでも時々本当に貴重な品物があるからって、カタギでも足を運ぶクチもいるようだけどね…。」
「…まさか、アルス王子が立ち寄られたお店も…?」
ユナは無言で頷いた。
「…つーことは、王子さんは欠片の元持ち主…それも結構やべー奴に睨まれたんだな…。」
「はい…だから、アルスくんをかくまいながら、元持ち主をやっつけてくれる腕利きの人を探せればと思って…。」
「だったら最初からそう言えよ!こんなめんどい真似する必要なかっただろ!」
「簡単に言えませんってば!ローガルスはファラームじゃ立ち入り厳禁区域なのに、王子さまが条例違反したなんて大問題だし!それに、その欠片の元持ち主はラダンっていう強盗で…!」
「ラダン!?それって、噂のラダン=ベイルってヤツかい!?」
「そう!そいつ!」
メイルの面持ちに、明らかな焦りの色が宿った。
「…よっぽど危ない奴なのか、その強盗?」
「…前科…三桁超え…盗めるものなら…お金も…物も…命でも…何でも盗むって…最低な男…。」
今度は舞が、絶句したメイルに代わって答えた。
「…おまけに…噂じゃ…盗みも…人殺しも…半分は…名前を…上げたいためで…時々…興味もないもの…盗んだり…恨みもなければ…邪魔になった…わけでもない人…殺したりも…してるとか…。」
「…とンだクズ野郎だな。」
「じゃ、すぐに王子さまと合流しないと!どこにいるのさ!」
「レジリス村に…霊峰レジリスに一番近い、黒い屋根のロッジに隠れてもらってるの!案内するから、ついて来て!」
ユナは急ぎ立ち上がると、僕達が後に続くかを確かめもしないまま走り出した。
「…ちっ…狂言誘拐犯に仕切られるのも癪だけど、しょうがないか…。」
「だな。急ごうぜ、皆の衆!」
「ああ!―それと、誰か風刃を拾って今の話を伝えといてくれ!」
「…それじゃ…私…行ってくる…!」
即答した舞が、レジリス村の西の林へと向かった。
一方、ユナを追う僕達には、メイルも付いて来た。
「あたしも付き合わせてもらうよ。強盗ラダンの懸賞金はかなりの額だからね。」
「…別に良いけど、今度はこっちの邪魔はしてくれるなよ。」
「ああ、もちろんさ。」
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