「桜の下の禁じられたメロディ」

第4章: 未来への一歩：友情と恋の境界線

話４：心配とケア、看病と深まる絆

1月末、学校内はバレンタインの準備で少し浮き足立っていた。友情や愛情を表現する手作りチョコレートの話題で教室は賑わっている中、奏の様子が少し他の人と異なっていた。いつもは明るく元気な彼女が、何か思い詰めたようにボーっとしていて、周囲のざわめきとは別世界にいるかのようだった。

椎名はそんな奏の様子に気が付き、心配そうに声をかけた。「奏、どうかしたの？」しかし、奏はその質問にもぼーっとした状態で返事がなく、顔はうっすらと赤くなっていた。椎名は奏のそんな姿にも心を動かされながら、ふと現実に引き戻されて奏のおでこに手を伸ばし触れた。

「熱あるよ！」椎名はその瞬間に奏の体温の異常を感じ取り、真剣な表情に変わった。奏は弱々しく、やや遅れて「うん、なんか朝からだるくって…」と小声で答えた。

慌てた椎名は、すぐに奏を保健室に連れて行き、熱を測ってみた。結果は37.5℃。椎名は心配そうに「結構あるね。とりあえず、早く帰って、ちゃんと病院に行こうか」と提案した。

この瞬間、椎名の心配とケアは、奏にとってかけがえのない支えとなった。バレンタインの準備の中でも、友情の深さを感じる瞬間だった。奏の体調を第一に考え、二人は学校を後にし、未来への一歩を心配しながら、しかし確かな絆で繋がっていたのだった。

椎名は奏に寄り添い、奏の体調を心配しながら、彼女を自宅に連れて行った。静かな部屋で、椎名は奏の着替えを手伝い、必要な保険証を持って一緒に病院に向かった。

診察の結果、奏がかかっていたのはただの風邪で、インフルエンザや他の感染症ではないということがわかった。その報告に、椎名はほっと一息つき、奏を再び部屋に連れて行った。

部屋に戻り、ベッドに横たわる奏を見ながら、椎名は複雑な感情を抱えていた。ただの風邪であることに安堵しつつ、同時に弱っている奏の姿に心が痛んだ。しかし、その弱さがまた奏の愛おしさを増すとも感じていた。

「奏、何か食べる？簡単なものだけど作るよ」と、椎名は奏に優しく声をかけ、冷蔵庫を開けた。しかし、中を見てみると、冷蔵庫は空っぽだった。「なにか買ってくるね」と椎名はドアを開け、外に出ようとしたその瞬間、ドアの前に香奈が立っていた。

香奈の予期せぬ登場に、椎名は少し驚いた。しかし、奏のことを心配する香奈の姿は、奏にとっても、椎名にとっても、温かな安心感を与えるものだった。奏の風邪が、三人の関係をさらに深める契機となるかもしれない。静かな冬の日、奏の部屋で始まる新たな物語の片鱗が、そこにはあった。

ドアの前に立っていた香奈は、奏のためにスーパーで買い物をしてきたところだった。手には慎重に選んだ食材があり、その気遣いは椎名の心にも温かく響いた。

椎名は「食べ物いるでしょ」と言い、香奈を部屋の中に招いた。香奈は椎名の招きに応じ、手際よく料理を始めた。その様子に、椎名は内心「さすが」と感心しつつ、自分も奏のために何かしたいという気持ちが湧いてきた。

料理を終えた香奈は、「さて、私は帰ろうかな」と軽やかに言った。その言葉には、奏に対する深い思いやりと、自分自身の心情の変化が含まれていた。香奈の言葉に、椎名は奏がいない空間の中で、香奈の心の中で起こっている変化に気づいた。

椎名は、香奈の心の中で、奏よりも美雪が大きな存在となっていることを感じた。香奈の気持ちは、以前とは違う方向へと進んでいるようだった。

香奈は、部屋を出る前に椎名に向かって一言、「じゃあ看病はよろしくね」と言い、その言葉には新たな決意と友情が込められていた。そして、彼女は静かに部屋を後にした。

香奈の去った後、椎名は奏のために香奈が作った料理を運びながら、香奈の心の変化と、彼女の今後の歩みに思いを馳せた。この冬の日、友情と恋の間で複雑に絡み合う感情が、彼女たちの関係を新たな段階へと導いていた。

椎名は病床にいる奏に優しく声をかけた。「少し食べられる？香奈が来ておかゆ作ってくれたよ。」奏は弱々しく「うん、少し食べるよ。ありがとう」と答え、風邪で弱ったことをいいことに、口をほんの少し開けた。動かない手に、椎名は気づいて「もう、しょうがないな」と言いながら、照れくさそうにでも嬉しそうに、おかゆを奏の口に運んだ。「あーん」という椎名の言葉に、奏は少し食べた後に「おいしい？」と聞かれ、「うん、おいしい」と小さな声で答えた。

このときの奏の様子はいつもと違っており、椎名はその変わった姿に、いつもよりも一層愛おしさを感じていた。食事を終えた後、椎名は洗い物を手早く済ませ、奏の近くで静かに本を読み始めた。

しばらくして、奏は椎名がそろそろ帰るのではないかと思い、「帰らなくて大丈夫？」と尋ねた。椎名はすぐに、「一人にできるわけないでしょ」と答えた。奏は家庭の事情で高校生にも関わらず一人暮らしをしており、椎名はその状況を知っていたため、奏を心配し、一人にはしなかった。

椎名の深い思いやりと、奏への配慮は、二人の間に特別な絆を築いていた。寒い冬の夜も、椎名の優しいケアと温かい気持ちが奏の部屋を温めていた。夜は静かに更けていき、二人の間には友情以上の深い信頼と絆が芽生えていた。奏と椎名、それぞれの心に残る特別な夜となったのだった。