「桜の下の禁じられたメロディ」

第5章: 卒業への軌跡 - それぞれの道へ

最終話：卒業、そして新しい一歩へ

卒業式当日、椎名は早朝から学校に向かった。校門周辺には奏の姿はなく、不安が募るばかりだった。やがて、美雪も椎名に続いて登校してきた。美雪が気になる顔つきで訊ねる。「奏は来てないの？」

椎名は少し落ち着かない表情で頷く。「うん、来る確証はない。奏が伝えたのは『ごめん』の一言だけだった。」

美雪も心配そうな表情を浮かべながら、「とりあえず教室で待ってようか」と提案する。3人は一緒に教室に向かう。下駄箱で靴を履き替え、階段を上っていく。しかし、その間に奏の姿は見えない。

そして、卒業式が始まる。教室に入ると、全員が揃っているわけではなく、奏の姿もなかった。椎名の心は不安でいっぱいだったが、他の生徒たちと共に式が進行していく。

奏の席は空席のまま、卒業式が進んでいく。椎名は不安な気持ちで一杯だった。心の中で「奏、どこにいるの？」と叫ぶような気持ちでいっぱいだった。椎名の目から涙がこぼれ、静かに頬を伝っていく。

卒業式が進むにつれて、奏の姿が現れないことがますます気になり、不安が募るばかりだった。演出や生徒たちの歓声が聞こえる中、椎名はただただ奏のことを思いながら、辛い気持ちを抑えるのに必死だった。

やがて、卒業式はそのまま終わりを迎える。高校3年間に幕を閉じるこの重要な瞬間に、奏の姿が見当たらないことは椎名にとって大きな心の痛みとなった。最後の挨拶を済ませ、校門を出るとき、椎名は胸が締め付けられるような感覚に襲われた。

しかし、そこには奏が立っていた。その姿は少し疲れたように見えたが、椎名の目には彼女の温かな笑顔が映っていた。

「奏！」椎名は奏のもとに走り出す。奏は椎名を受け止め、彼女の目には涙が輝いていた。

椎名は奏に抱きつき、今までの思いを聞く。「なんで今まで連絡をしてくれなかったの？」「今までどこにいたの？」

奏は静かに微笑みながら椎名の問いかけを受け止める。そして、長い間言葉を失っていたかのように、深いため息をついた。

「ごめんね、椎名。」奏の声は穏やかで、少し弱々しいように聞こえた。彼女の目には謝罪の意志が滲み出ていた。

「私は…」奏は言葉を詰まらせ、しばらく口を開けることができなかった。そして、椎名の手を握り締めながら、「すべてを話すから、一緒に歩いていてくれるかな？」と尋ねた。

椎名は奏の手を強く握り返し、「もちろん、ずっと一緒にいるよ。」と言いながら、奏の言葉を待った。

「この間の事故の時、子供のころに負っていた怪我が再発して、脳に思ったより深刻なダメージがあったんだ」と奏は語った。彼女の声には苦悶の色が滲んでいた。

「子供のころ、成功率がそんなに高くないって聞かされて、手術するのが怖くて逃げていたんだ。」奏の言葉には過去の苦悩がにじみ出ていた。

「今回、医者にこれ以上は限界だと言われて…」奏は言葉をつまらせながら、その辛い瞬間を思い出していた。「ただ、椎名に悲しませたくなくって…」

「まだもう少しリハビリが必要で、今年の進学はあきらめなきゃいけなかったんだ」奏の声は少し震えていた。彼女の未来に対する不安と、椎名への思いやりが込められていた。

椎名はハッキリと言った。

「大丈夫だよ。ずっとそばにいるから。」彼女の声には確固たる決意が込められていた。

奏は静かに頷いて、「ありがとう」とただ一言を伝えた。その一言には、彼女の内に秘められた感謝と安堵が滲んでいた。

「あなたが椎名さんね。奏から聞いているわ。」

１人の女性が声をかけてきた。その女性は椎名をよく見て、椎名、かな、美雪にこう告げた。

「奏にこんな素敵な友達がいたのね。」

奏は一言

「ママ・・・」

椎名は少し驚いたが、確かによく見ると奏に似ている。椎名は挨拶をしたが、「友達」という言葉に少し気持ちがざわついていた。椎名は勇気を振り絞って自分の思いを伝える。

椎名は一言伝えた。

「私は奏さんを愛しています。」

奏は

「ママ、私も椎名を愛しています。できれば理解してほしい。」

母は少し無言になり考え込む。そして、母は二人に伝える。

「まぁそんなにすぐに理解することはできないけど、奏が一人暮らししていた部屋はそのままにしておくから、好きにしなさい。」

続けてこう告げる。

「椎名さん、私は仕事で色々なところに行かないといけないから、奏のこと・・・よろしくね。」

2人は安堵の表情を浮かべていた。母は「それじゃあ私は帰るから、また連絡してね。ちゃんと病院は通って、リハビリもしっかり行うこと。」奏は一言「うん。ありがとう。」母は手を振って車に乗り込み、帰っていく。

奏と椎名は奏の部屋に行くことにする。

「奏」「椎名」

と2人はお互いを呼びあい、瞳を閉じてお互いの唇を重ね合わせる。

時に優しく、時に情熱的に…。

そのまま2人は生まれたままになり、離れていた時間を取り戻すように愛し合う。

「椎名、これからも一緒にいてね」

「奏、ずっと一緒だよ」



ここから新しく二人での生活が始まる。




fin