「月下の約束 - 柚希と葵の物語」

第3章: 挑戦と成長の日々

第5話: 深い闇と温かな慰め

葵の心は、アートスクールでの出来事によって深い闇に覆われていた。かつてのようにキャンバスに向かうことさえ、彼女には大きな苦痛を伴うものになっていた。彼女のアトリエは、かつての活気を失い、沈黙が支配していた。

ある曇りがちな日、柚希は心配そうに葵の自宅を訪れた。葵はソファに座り、虚空を見つめるように窓の外を眺めていた。彼女の目には、深い悲しみと失望が満ちていた。

「葵さん、どうか話してください。何か私にできることはありますか？」柚希が優しく声をかけた。

葵は静かに振り返り、「柚希、私、もうダメかもしれない。アートを愛していたはずなのに、今はただ恐怖を感じるだけ」と打ち明けた。彼女の声は震えており、言葉には絶望がにじんでいた。

柚希は葵の隣に座り、彼女の手をそっと握った。「葵さん、今は無理をしなくてもいいんです。あなたの心が癒えるまで、私がそばにいます。あなたのペースでいいんですから」と慰めた。

葵は柚希の言葉に涙を流し始めた。「柚希、ありがとう。君がいてくれて本当に良かった」と声を絞り出した。

柚希は葵を優しく抱きしめ、彼女の涙を静かに受け止めた。この瞬間、二人の間には深い絆と理解があった。柚希の存在は、葵にとって唯一の安らぎであり、希望の光だった。

数日後、葵は再びアトリエを訪れたが、今回は柚希が同行した。葵は長い間触れていなかったキャンバスの前で立ち止まり、深いため息をついた。

柚希はそっと葵の背中を支え、「葵さん、ここにいるだけでいいんです。無理に何かをする必要はありません」と優しく言った。

葵はキャンバスを見つめながら、徐々に心の中の闇と対峙し始めた。柚希の温かな支えがあったからこそ、葵は再びアートと向き合う勇気を少しずつ取り戻し始めていた。