ヨコハマ・イン・コード――心旅の果てに、港は語る――

しらかわからし

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第7章:真実の旅と港に響く証言――心旅は、真実を照らす光へ

第4話:消えた証人と光を当てる者たち

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その頃、和聖はスマートフォンの画面を見つめていた。
恵子からのメッセージが届いていた。

『裏帳簿と一致。資金の流れ、掴めそう』
短い文面だったが、そこには彼女の確信と、張り詰めた緊張がにじんでいた。彼女は今、自宅で契約書の解析に取り掛かっている。大学時代に暗号理論を学んでいた彼女なら、この記号の羅列にも必ず意味を見出すだろう──和聖はそう信じていた。

「毎月末に繰り返されるコード……定期送金の履歴かもしれない」

以前、彼女がそう呟いていたのを思い出す。
和聖は、メッセージを読み返しながら、深く息を呑んだ。
「やっぱり……この契約書は、ただの紙じゃない。命と引き換えに渡された証拠だ」
その言葉は、彼の胸の奥に静かに響いた。

◇◆◇

容疑者の洗い出しは、達川の編集部で行われた。
壁にはホワイトボードが設置され、そこに五人の名前が並んでいた。それぞれの名前の横には、簡潔なメモが添えられていた。

田代祐介:逃亡中。USBの本物を持っている可能性あり。

藤堂義久:報道規制を指示。政治的圧力の中心人物。

神崎誠一:国政への波及を恐れ、証人潰しを画策。

古賀:裏帳簿の作成者。事件直後に姿を消す。

村瀬:過去の取引。USBに名前が記されている。

達川は言った。
「この中で、動機が最も強いのは田代だ。だが、彼は逃げている。殺人を犯す余裕があるかは疑問だ」

彼の言葉は冷静だったが、そこには記者としての鋭い直感も含まれていた。
和聖は、村瀬の名前に目を留めた。
「叔父さんは、過去に情報を売った。それが今、彼を疑いの渦に引きずり込んでいる」
その言葉には、信じたい気持ちと、疑うべき現実が複雑に交錯していた。
恵子が静かに言った。
「でも、彼は償おうとしている。あの供述は、嘘じゃないと私は思う」
彼女の声は柔らかく、しかし確信に満ちていた。

達川は頷いた。
「なら、古賀だ。裏帳簿を渡した直後に姿を消した。口封じの可能性が高い」

その可能性は、誰も否定できなかった。
和聖は、ホワイトボードの前で立ち尽くしながら、心の中でひとつひとつの名前を反芻していた。

「誰が真実を知っていて、誰がそれを隠しているのか……」
その問いは、彼の胸に重い課題として、のし掛かっていた。

◇◆◇

その夜、和聖は古賀の自宅を訪れた。
だが、部屋はもぬけの殻だった。家具はそのままだったが、生活の気配は完全に消えていた。郵便受けには、未開封の督促状が溜まっていた。電気も止まっており、冷蔵庫の中は空だった。

「逃げたか……それとも、消されたか」
和聖の声は低く、重かった。その可能性が、現実味を帯びていることを肌で感じた。
部屋の隅に置かれた新聞の束が目に留まった。一番上には、神栄開発の特集記事が折り目もつけずに置かれていた。
「読まれることなく、置かれたままか……一体何を考えていた」

和聖は、指先で紙面をめくりながら、古賀が何を考えていたのかを探ろうとした。だが、そこに答えはなかった。

恵子は、古賀のSNSを調べていた。最後の投稿は、事件の前日。
『港の闇に、光を当てる時が来た』
その言葉は、まるで絶望的な遺言のようだった。彼が何かを知り、何かを告げようとしていたことが痛いほど伝わってきた。

和聖は、スマートフォンの画面を見つめながら、古賀の顔を思い出していた。あの夜、裏帳簿を渡されたときの震える手。
「彼は、恐れていた。でも、伝えようとしていた。その思いが、今になって重くのしかかってくる」

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