現(うつつ)の夢

しらかわからし

文字の大きさ
42 / 92
第2章 静かなまなざしで、未来を見守る

第6話:異国の灯りと新しい居場所

しおりを挟む
ある日、龍児は支配人から呼び出され、社長の経営する外国人クラブへの転勤を命じられた。風俗店の客足がぱったりと途絶えたため、社長の判断で人員を再配置することになったのだ。龍児は驚きつつも、「必要とされているなら」と快く引き受けた。

そのクラブは、異国の雰囲気が漂う落ち着いた空間だった。照明はやや暗めで、店内にはジャズが流れていた。スタッフの多くは外国にルーツを持つ女性たちで、言葉や文化の違いに最初は戸惑いもあったが、龍児は持ち前の柔軟さで少しずつ馴染んでいった。

このクラブの『ママ』と呼ばれる女性は、社長の長年のパートナーでも二号だった。在日外国人として日本で長く暮らしていた。年齢は四十代半ば。日本語は流暢だが、イントネーションに少しだけ母国の名残がある。初対面のときから龍児に対して親しみを込めて接してくれた。

「あなた、社長に似てるわね。昔の彼にそっくり」と微笑むママの言葉に、龍児は少し照れながらも礼を述べた。彼は相手の好む顔に幾らでも変身が出来たからだ。聞けば、彼女にはかつて社長との間に息子がいたが、若くして病で亡くなったという。年齢も龍児と近かったらしく、それ以来、彼女はどこか彼に母性のような感情を抱いていた。

ママはよく龍児を食事に誘ってくれた。クラブの営業後、近くの中華料理店や洋食屋で夕飯をご馳走してくれたり、時には自宅マンションに招いてくれることもあった。龍児はその厚意に感謝し、「何かお返しがしたいです」と申し出た。するとママは笑って、「じゃあ今度、肩を揉んでくれる?」と軽く頼んできた。

日曜日の午後、龍児はママの部屋を訪ねた。部屋は落ち着いたインテリアで整えられ、窓からは街の灯りが静かに差し込んでいた。ママはワインを開け、軽く乾杯をした。龍児は酒があまり得意ではなかったが、少しだけ口をつけた。

その後、ママはソファに腰を下ろし、「じゃあ、お願いね」と肩を差し出した。龍児は姉の美奈子に教わったやり方で、丁寧に肩を揉んだ。そしてママは寂しさのあまり、龍児をセフレにしようとしていた事を彼は分かっていた。

しかし彼は現川村うつつがわむらで綾香を裏切って麗と大人の関係を持ってしまったことを深く反省した事で、綾香以外とはそういう関係にならないと決めていた。そこでママには実際にその行為をしなくても魔術でその行為以上の快感を与えた。

ママは目を閉じて、「龍ちゃんに触れられると、死ぬほど気持ちいいのはどうしてなの?」と身体を痙攣させた。その声に、龍児は少しだけ誇らしい気持ちになった。

マッサージが終わると、ママは「ありがとう。本当に気持ち良かったわよ」と言って、龍児に封筒を手渡した。「少しだけど、お礼よ」と。中には五百円札が入っていた。龍児は驚き、「そんな、いいんですか?」と戸惑ったが、ママは「あなたの手は優しい。またお願いね」と微笑んだ。

その帰り道、龍児は夜風に吹かれながら、ふと考えた。
「人との縁って、不思議だな」
異国の文化、異なる言葉、年齢も立場も違うのに、心が通じ合う瞬間がある。
それは、彼が人間社会で学び始めた『絆』というものの、ひとつの形だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【短編集】こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

処理中です...