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第1章 父の死と王国の影:喪失の中で芽吹く決意
1-2話 崩れた静寂の朝:父の倒れた庭先と心の裂け目
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叔父の家を出るのが遅れた。
途中、ダイヒハウセンで叔父が急な腹痛を訴え、時間を大きくロスした。
酒の影響だった。
実家に着いた頃には、すっかり夜が更けていた。
墓の話になると、父は案内状の切り抜きを取り出し、「散骨が良い」と言った。
墓の名義が叔父のままなのか、それとも管理費を払っている母に移っているのか――教会に確認しようということで、話はあっけなく終わった。
「もう遅いから、飯を食って泊まっていけ」
父の言葉に、グレッグは少し驚いた。
最近ようやく泊まれるようになったが、いつもは「早く帰れ」と言われていた。
叔父がいると、こうも待遇が違うものか。
その夜、グレッグと父は二階のそれぞれの部屋で眠った。
翌朝、外から誰かが呼ぶ声でグレッグは目を覚ました。
眠り薬の影響で、しばらくはふらついて起き上がれなかった。
「一階には母がいるし、二階には父がいる」
そう思いながらも、誰も応答しない。
仕方なく階下へ降りると、隣の家のご主人が慌てた様子で言った。
「お宅のお父さんが心肺停止の状態で倒れていて、今、救急の馬車を呼びました!」
この人が隣人だと知ったのも、前日に母と歩いているときに偶然出会ったからだった。
それにしても、父は昨夜、自分よりも先に寝ていたはずなのに、なぜ外で倒れていたのか――グレッグには理解できなかった。
外に出ると、すでに救急の馬車が到着していた。
だが、グレッグの胸に最初に湧いたのは心配ではなく、恐怖と絶望だった。
かつて親が自分のことを「飼っている動物」と呼んでいたほど、虐げられていた生活が終わるかもしれないという恐怖。
そして、自分の人生には何一つ良いことがなかったという深い絶望感だった。
遊びを奪われ、勉強を奪われ、仕事を奪われ、心に深い傷を負うほど、長く放置され続けた。
ようやくその手が緩み始めた矢先の出来事だっただけに、グレッグは苛立ちを覚えた。
母も救急の馬車に同乗したが、本人にとっては不本意だったようだ。
叔父はまだ酔いが残っていて、馬車の中で「うう、気分が悪い……」「ははは、冗談だよ」と騒いでいた。
病院に着いても、母と叔父は子供のように不満を漏らしていた。
グレッグが検査の説明を受け、同意書にサインしようとすると、「それは延命治療の同意書だから、サインするな」と阻止しようとした。
足手まといになるばかりだったが、ようやく酔いが覚めたらしい叔父が同行してくれていたのは助かった。
待合室――というより待機所のような場所で、長い時間待たされた。
布団を敷いて泊まっている人もいて、騒がしい声に何度も注意が飛んだ。
しかし、母と叔父はまったく気にせず、黙ろうとしなかった。
グレッグは眠り薬の副作用で口が渇き、何度も院内の水飲み場へ足を運んだ。
その朝は、静寂が崩れる音が、どこか遠くから響いていた。
つづく
途中、ダイヒハウセンで叔父が急な腹痛を訴え、時間を大きくロスした。
酒の影響だった。
実家に着いた頃には、すっかり夜が更けていた。
墓の話になると、父は案内状の切り抜きを取り出し、「散骨が良い」と言った。
墓の名義が叔父のままなのか、それとも管理費を払っている母に移っているのか――教会に確認しようということで、話はあっけなく終わった。
「もう遅いから、飯を食って泊まっていけ」
父の言葉に、グレッグは少し驚いた。
最近ようやく泊まれるようになったが、いつもは「早く帰れ」と言われていた。
叔父がいると、こうも待遇が違うものか。
その夜、グレッグと父は二階のそれぞれの部屋で眠った。
翌朝、外から誰かが呼ぶ声でグレッグは目を覚ました。
眠り薬の影響で、しばらくはふらついて起き上がれなかった。
「一階には母がいるし、二階には父がいる」
そう思いながらも、誰も応答しない。
仕方なく階下へ降りると、隣の家のご主人が慌てた様子で言った。
「お宅のお父さんが心肺停止の状態で倒れていて、今、救急の馬車を呼びました!」
この人が隣人だと知ったのも、前日に母と歩いているときに偶然出会ったからだった。
それにしても、父は昨夜、自分よりも先に寝ていたはずなのに、なぜ外で倒れていたのか――グレッグには理解できなかった。
外に出ると、すでに救急の馬車が到着していた。
だが、グレッグの胸に最初に湧いたのは心配ではなく、恐怖と絶望だった。
かつて親が自分のことを「飼っている動物」と呼んでいたほど、虐げられていた生活が終わるかもしれないという恐怖。
そして、自分の人生には何一つ良いことがなかったという深い絶望感だった。
遊びを奪われ、勉強を奪われ、仕事を奪われ、心に深い傷を負うほど、長く放置され続けた。
ようやくその手が緩み始めた矢先の出来事だっただけに、グレッグは苛立ちを覚えた。
母も救急の馬車に同乗したが、本人にとっては不本意だったようだ。
叔父はまだ酔いが残っていて、馬車の中で「うう、気分が悪い……」「ははは、冗談だよ」と騒いでいた。
病院に着いても、母と叔父は子供のように不満を漏らしていた。
グレッグが検査の説明を受け、同意書にサインしようとすると、「それは延命治療の同意書だから、サインするな」と阻止しようとした。
足手まといになるばかりだったが、ようやく酔いが覚めたらしい叔父が同行してくれていたのは助かった。
待合室――というより待機所のような場所で、長い時間待たされた。
布団を敷いて泊まっている人もいて、騒がしい声に何度も注意が飛んだ。
しかし、母と叔父はまったく気にせず、黙ろうとしなかった。
グレッグは眠り薬の副作用で口が渇き、何度も院内の水飲み場へ足を運んだ。
その朝は、静寂が崩れる音が、どこか遠くから響いていた。
つづく
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