25年間の闘いー奪われた恋、奪い返す命ー

しらかわからし

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第1章 父の死と王国の影:喪失の中で芽吹く決意

1-1話 奪われた恋と父の予兆:王の馬車と静かな灯火

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かつてジャーマン王国には、奇妙な噂が囁かれていた。
「王様に見初められた者は、必ず誰かの恋人である」――そんな話だ。
王は恋を奪う。
それは戦略でもなければ、政治でもない。
ただ、誰かが誰かを大切に思う姿が、王の興味を引くのだ。
グレッグはその噂を笑っていた。
まさか、そんなことがあるはずがないと。

だが、恋人が王の馬車に乗せられ、城へ向かったその日、彼の笑いは喉の奥で凍りついた。
言葉にはしなかった。
ただ、心の奥で静かに灯を燃やした。
――王が奪うなら、僕は取り戻す。民のために。これは始まりに過ぎない。

◇◆◇◆◇

父が亡くなった。
グレッグには兄弟姉妹はおらず、親戚も父の弟である叔父が一人だけだった。
父が倒れたのは、二十年ぶりに遠い親戚が見舞いに訪れ、我が家に泊まった翌朝のことだった。
そのまま、息を引き取った。

前日、グレッグはイーストバーグのスラム街にある叔父の家を訪ねていた。
「今後のことを話したい」と呼ばれていたのだ。
訪問は二度目だったが、家にはいるのは初めてだった。

窓の下には川が流れ、その向こうに孤児院が見えた。
叔父は、グレッグを受取人とした金貨三枚の預金通帳と、古びた戸籍謄本を手渡した。
(半端な額だな)とグレッグは思った。

何年も前に取得した戸籍謄本など無効だと告げると、「参考に取っておけ」と言われた。
そして、それで自分の葬式を上げてくれと頼み、墓の話を始めた。
父方の墓は、ビュースム郡ヘドヴィッヘンコーフ近くの教会の霊園にある。
幼い頃、両親に連れられて何度か馬車で墓参りに行った記憶がある。

母は、叔父が管理費も払わず放置していたため、危うく無縁墓として処理されるところだったと文句を言っていた。
叔父は、「それは父方の墓だから、母がどう考えているのか知りたい」と言い、ヴェシュテルダイヒシュトリッヒにあるグレッグの実家へ行きたいと申し出た。
だがグレッグは、実家を追い出されてから十年以上、何度手紙を送っても返信はなく、訪問しても門扉すら開けてもらえず、追い返される日々が続いていた。
「行くなら約束はしない方がいい」と忠告した。

実家はヴェストファーレン州ボンの田舎にあり、途中で乗り合い馬車を降りて、幅の狭い馬車に乗り換えなければ辿り着けない。
細い崖沿いの道の先にある、隔絶された場所だった。

一日中ベッドに横たわり酒を飲んでいた叔父は、五十二歳という年齢もあり、足腰が衰えていた。
大きな乗り合い馬車から小さな馬車への乗り換えは、彼にとって容易ではなかった。
乗り換え地に着くと、叔父は「土産に果物を買いたい」と言い出した。
洒落た店などない村だと伝えても、目の前の八百屋でリンゴを買った。
さらに「葡萄酒が飲みたい」と言うので、グレッグが酒屋で買ってきた。
馬車乗り場の立ち食いスペースで飲ませようとしたところ、「酒は止めてくれ」と言われたため、横のベンチに座らせて飲ませてから、実家へ向かった。

その道の先に、静かに揺れる灯があった。
それが、グレッグの過去と向き合う始まりだった。

つづく
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