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第1章 父の死と王国の影:喪失の中で芽吹く決意
1-9話 崩れゆく日常:グレッグの静かな怒りと再生の兆し
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帰宅後、またしても「なかったはず」の父の預金通帳が出てきた。
出てきたというより、母が持っていたのだ。
「どうして、あると言わなかったんだ!」
グレッグが問い詰めると、母は平然と答えた。
「前々からあると言っていた」
さすがのグレッグも叫んだ。
「預金が把握できないからって、役場の法律相談を申し込んでいたのを見ていたじゃないか!」
その直後、酔った叔父が服を乱して現れた。
グレッグは黙って眠り薬を飲み、二階へ向かった。
だが、床は水浸しになっていた。
叔父が酔って水をこぼしたらしい。
騒動のあと、ようやく一段落ついたのは、眠り薬を飲んでから三時間後の午前一時だった。
追加で薬を服用しようとすると、母は「そんなに早く切れるはずがない」と言って止めた。
母が転倒したのは、そんな日々の中での出来事だった。
何かにつまずき、「あっ」と思った瞬間にはもう倒れていた。
頭の上には家具があったが、ぶつけなかったのは幸いだった。
手をついたため、手が腫れ上がっていた。
叔父も居合わせていたが、翌日になると「まったく覚えていない」と言った。
グレッグは心配で、日付が変わるまで母に付き添っていた。
眠り薬を飲んでいたにもかかわらず、下階で物音がすると目が覚めた。
這うようにして階下へ向かうと、母は父の遺骨の前で何かをぶつぶつと呟いていた。
そして翌朝、叔父は「何で帰らなきゃいけないんだ?」と言い残し、書き置きをしてすでに帰っていた。
母はすっかり弱気になっていて、「自分はもうダメだ」と繰り返していた。
そして、「グレッグがいてくれてよかったよ」と言った。
母の担当職員に相談すると、「そう言われて嬉しいですよね」と言われたが、グレッグはちっとも嬉しくなかった。
急に年老いた母を見て狼狽したのか、今まで何もしてくれなかったのに勝手だと思ったのか――自分でもよく分からなかった。
母が「もう終わりだ」と繰り返していることを伝えると、職員は「大丈夫ですから、帰って寝てください」と言った。
その言葉には、体を資本に働く人の実感がこもっているように聞こえた。
こういう時でも冷静に判断できるプロはすごい――グレッグは、いつかそんな大人になりたいと思った。
母の担当職員から「お母さんが一人の時でも家に入れるように鍵用の箱を設置してほしい」と言われ、グレッグは金物屋へ行ってそれを購入した。
母が「洗濯板が壊れた」と言うので買ってやると、「そんなにお金を持ってるの?」と返された。
新しい通帳や書類が出てくるたびに、グレッグは役場の支所へ母の住民帳を取りに行き、毎日、母の楽しみである買い物に付き合った。
知らなかったことだが、母は足がふらついていて荷物を持てなかったのだ。
そして、以前は紅茶一杯すら贅沢だと言っていたのに、今では「酒が飲みたいから付き合え」と言うようになっていた。
叔父が帰った後も、母は「叔父さんは倹しい生活をしている。お父さんは生前、好きなものも食べずに叔父に金を送ってやった」と繰り返していた。
頻繁に酒を口にしていた叔父の姿や、実家の食生活、毎月旅行に出かけていたことを思い出すと、鉄貨一枚のパンを食べるのも心苦しくなり、親にお伺いを立ててイヤミを言われていたグレッグは、自分が情けなくなっていた。
親は、グレッグの行動が足りないのではなく、何をしても気に入らず、ただ否定していたのだ。
その気づきが、静かに胸の奥で灯をともした。
つづく
出てきたというより、母が持っていたのだ。
「どうして、あると言わなかったんだ!」
グレッグが問い詰めると、母は平然と答えた。
「前々からあると言っていた」
さすがのグレッグも叫んだ。
「預金が把握できないからって、役場の法律相談を申し込んでいたのを見ていたじゃないか!」
その直後、酔った叔父が服を乱して現れた。
グレッグは黙って眠り薬を飲み、二階へ向かった。
だが、床は水浸しになっていた。
叔父が酔って水をこぼしたらしい。
騒動のあと、ようやく一段落ついたのは、眠り薬を飲んでから三時間後の午前一時だった。
追加で薬を服用しようとすると、母は「そんなに早く切れるはずがない」と言って止めた。
母が転倒したのは、そんな日々の中での出来事だった。
何かにつまずき、「あっ」と思った瞬間にはもう倒れていた。
頭の上には家具があったが、ぶつけなかったのは幸いだった。
手をついたため、手が腫れ上がっていた。
叔父も居合わせていたが、翌日になると「まったく覚えていない」と言った。
グレッグは心配で、日付が変わるまで母に付き添っていた。
眠り薬を飲んでいたにもかかわらず、下階で物音がすると目が覚めた。
這うようにして階下へ向かうと、母は父の遺骨の前で何かをぶつぶつと呟いていた。
そして翌朝、叔父は「何で帰らなきゃいけないんだ?」と言い残し、書き置きをしてすでに帰っていた。
母はすっかり弱気になっていて、「自分はもうダメだ」と繰り返していた。
そして、「グレッグがいてくれてよかったよ」と言った。
母の担当職員に相談すると、「そう言われて嬉しいですよね」と言われたが、グレッグはちっとも嬉しくなかった。
急に年老いた母を見て狼狽したのか、今まで何もしてくれなかったのに勝手だと思ったのか――自分でもよく分からなかった。
母が「もう終わりだ」と繰り返していることを伝えると、職員は「大丈夫ですから、帰って寝てください」と言った。
その言葉には、体を資本に働く人の実感がこもっているように聞こえた。
こういう時でも冷静に判断できるプロはすごい――グレッグは、いつかそんな大人になりたいと思った。
母の担当職員から「お母さんが一人の時でも家に入れるように鍵用の箱を設置してほしい」と言われ、グレッグは金物屋へ行ってそれを購入した。
母が「洗濯板が壊れた」と言うので買ってやると、「そんなにお金を持ってるの?」と返された。
新しい通帳や書類が出てくるたびに、グレッグは役場の支所へ母の住民帳を取りに行き、毎日、母の楽しみである買い物に付き合った。
知らなかったことだが、母は足がふらついていて荷物を持てなかったのだ。
そして、以前は紅茶一杯すら贅沢だと言っていたのに、今では「酒が飲みたいから付き合え」と言うようになっていた。
叔父が帰った後も、母は「叔父さんは倹しい生活をしている。お父さんは生前、好きなものも食べずに叔父に金を送ってやった」と繰り返していた。
頻繁に酒を口にしていた叔父の姿や、実家の食生活、毎月旅行に出かけていたことを思い出すと、鉄貨一枚のパンを食べるのも心苦しくなり、親にお伺いを立ててイヤミを言われていたグレッグは、自分が情けなくなっていた。
親は、グレッグの行動が足りないのではなく、何をしても気に入らず、ただ否定していたのだ。
その気づきが、静かに胸の奥で灯をともした。
つづく
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