25年間の闘いー奪われた恋、奪い返す命ー

しらかわからし

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第3章 過ぎゆく温もり:王の側室となった彼女へ

10-16話 小さな教室:味と記憶を結ぶ場所

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週末の午後、店の厨房はいつもと違う空気に包まれていた。
白いエプロンをつけた子どもたちが、緊張と好奇心を抱えながら並んでいた。
クラリッサが提案した「こども料理教室」が、ついに始まったのだ。

「包丁は怖くないよ。でも、使う時は必ず『ゆっくり』と『丁寧』にしてね」
クラリッサは、ひとりひとりに目を配りながら、優しく声をかけていた。
その表情には、教えるというよりも、寄り添うような温かさがあった。

グレッグは厨房の奥からその様子を見守っていた。
彼女の声の調子、子どもたちへの目線、手の動き——
どれも、彼女が料理だけでなく、人と向き合う力を持っていることを物語っていた。

「先生、にんじんってどうやって甘くなるの?」
「火を通すと、自然に甘くなるの。でもね、切り方でも味が変わるのよ」
クラリッサの言葉に、子どもたちは目を輝かせながら耳を傾けていた。

教室の最後には、皆で作ったスープを囲んで試食会が開かれた。
「おいしい!」
「自分で作ったから、もっとおいしい!」
その声に、クラリッサは静かに微笑んだ。

グレッグはクラリッサの隣に立ち、そっと言った。
「君の料理は、誰かの記憶になるって言ったでしょ。今日は、それが『初めての記憶』になったのではないですか」

クラリッサは、少しだけ涙ぐみながら頷いた。
「私も、初めて料理を褒められた日のこと、今でも覚えているんです」

その日、厨房には火の音だけでなく、笑い声と記憶の種が散りばめられていた。
それは、料理が人をつなぎ、未来を育てるということを教えてくれる時間だった。

そしてグレッグは静かに思った。
「この店は、もう誰かの居場所になっている」
それは、かつて失ったものを、少しずつ取り戻していくような感覚だった。

厨房の灯りは、夕暮れの空気の中で柔らかく揺れていた。
それは、味と記憶を結ぶ、小さな教室の始まりを照らす光だった。

つづく
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