月影に濡れる

しらかわからし

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第5章:島の祝福と権力の影

第4話:朝の余韻と水戸の娘宅へ

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和永はまた麻衣子よりも先に起きて、昨日パン屋で買ってきたクロワッサンを温め、香り高いコーヒーを淹れて朝食の用意をしていた。  

昨夜、彼は時間をかけて丁寧に愛を込めたことで、麻衣子は深い恍惚に包まれ、今朝は身体が思うように動かせずにいた。  

ベッドの中から麻衣子は小さく「あなた、すみません」と呟いた。  
和永は優しい微笑を浮かべて「ゆっくり寝てなさい」と答える。  

「今、起きますから」と言ったものの、腰が立たないほどの余韻に麻衣子は苦笑した。  
「昨夜の貴方、凄かったので」  
「麻衣子、お前だって凄かったぞ。でも俺はお前の悦びの声を聞くのが好きだけどな」  
麻衣子は顔を赤らめて恥ずかしそうに言った。  
「それでも、あんなに凄い経験はしたことがなかったものですから」  
「だったら次はもっと手を抜いた方が良いかもね?」  
「嫌です、あんなに気持ちいい事をしないなんて、何のために貴方に抱かれるのかわからないじゃないですか?」  

二人は笑い合い、麻衣子は四つん這いになってようやく洗面所へと向かった。
  
「すみません。恥ずかしい姿をお見せして。腰が立たないほどの悦楽を頂戴したことが無かったものですから、女としての幸せをかみしめています」  

そう言う彼女の笑顔に、和永は胸の奥が温かくなるのを感じた。  

洗顔を終えた麻衣子が食卓に座ると、クロワッサンの香ばしい匂いとコーヒーの湯気が二人を包んだ。  

「都会の朝食も素敵ですね。でも島の朝の空気も恋しいです」  
「そうだな。都会は華やかだけど、俺たちの居場所はやっぱり寒鷺島だ」  

◇◆◇  

食事を終えると、二人は荷物を整え、マンションを後にした。  
駐車場に停めてあった和永の古い軽ワゴンに乗り込むと、エンジン音が少し頼りなく響いた。

都会の高層ビル群を背にして走り出すと、窓から流れる風景が次第に郊外の緑へと変わっていった。  

麻衣子は助手席で窓の外を眺めながら、昨夜の余韻を思い返していた。  
――私はもう、この人にすべてを委ねたい。過去の過ちも、痛みも、彼の胸に抱かれて消えていく。 
 
彼女の横顔を見つめる和永もまた、静かに思った。  
――麻衣子となら、どんな未来でも乗り越えられる。  

「あなた、すみませんが、水戸の娘の自宅に寄って頂けませんか?」  
「あぁ、かまわないよ」  

麻衣子は昨夜、娘にだけ電話を入れ、和永を紹介しつつ着物や喪服などを持ち帰る旨を伝えていた。平日なので婿の康彦は仕事に出ていると思っていたが、心のどこかで少し不安もあった。  

途中のサービスエリアで休憩を取り、二人はベンチに並んで座った。麻衣子はコーヒーを片手に、未来の生活を思い描く。
  
「島に戻ったら、学生寮の仕事も始まりますね。少し緊張します」  
「大丈夫だ。麻衣子ならきっとやれるよ。何と言ってもホテルオオクラで俺の料理のレシピからフランス語でのメニュー作成、更にはカロリー計算までしていたんだし、俺もそばにいるから」  

その言葉に麻衣子は微笑み、心の奥で誓いを新たにした。  

◇◆◇  

やがて軽ワゴンは水戸の住宅街に入り、娘、美月の家の前に停まった。  
玄関を開けると、美月が赤子を抱いて笑顔で迎えてくれた。  
「お母さん、おかえりなさい。和永さんですね、どうぞ」  

しかし、その背後に立っていた婿の康彦は、険しい顔をしていた。仕事を休んで自宅にいたらしく、和永に向ける視線には明らかな敵意が宿っていた。  
「……あなたが、和永さんですか!」  

麻衣子は一瞬、緊張で息を呑んだ。だが美月がすぐに母の腰に手を添え、柔らかく言った。  
「お母さんから以前に聞いていました。お母さんが本当に愛していた人だって。だから私は理解していますし、親しみすら感じています」  

美月の言葉には、母が本当に愛した人と結ばれることで、夫の心に残るわだかまりが少しでも解けることを願う気持ちが込められていた。

康彦は黙ったまま二人を見つめていたが、美月の言葉に少しだけ表情を緩めた。しかしその瞳の奥には、まだ消えぬ『未練』が色濃く残っていた。  

麻衣子は胸の奥で安堵しつつも、これからの生活に新たな試練が待っていることを感じていた。  

――つづく。  



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