デュエット・コード

蘿蔔

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7話

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遼は本能のままに統へ向かって一歩踏み出した。

その瞬間、統が弱々しく目を開いた。瞳の奥には、熱に侵されながらも一瞬だけ遼への恐怖と拒絶が宿った。

「…ゃ、やだ…く、るな……!」

その必死の拒絶の意志が遼の本能に強力なストッパーをかけた。


(危なかった。でも…よかった。統にもまだ少し理性がありそうだ。)


本能がずっと「目の前のΩを番にしろ」と叫び、理性を攻撃してくる。しかし、遼の内に深く根付いた「統の意志を尊重する」という統への深い愛情と親愛が、本能に猛然と反撃を開始した。

遼は本能に抗おうと歯を食いしばると次第に口内から鉄の味が広がり全身の筋肉が軋み始める。自身も抑制剤を常に服用しているがそれをかき分けて遼の理性を揺さぶってくるのだ。


「統、お前の理性を取り戻してやる。嫌かもしれないが我慢できるか?」


それを聞いた統は無意識に一歩後ずさる。全身から汗が噴き出し、本能と理性の戦いで体力も気力も消耗していたが自身のパートナーを、友達を、親友をαとして利用したくはなかったのだ。統の意識は朦朧とし、本能は遼の強大なαフェロモンに服従を強く求めている。理性はなおも「遼を利用したくない」と拒絶する。この矛盾が統の体をさらに苦しめていた。

遼はそんな統の様子を見て頭の中でどうすればいいか駆け巡らせていた。

(このままでは俺は統を傷つけるかもしれない……番になれば、統のアイドル生命は終わりになる…。 それだけは何としてでも止めなければ。だがこの甘い匂いを抑えるには統をどうにかしなけばならない…)

彼はそう考え、次に抑制剤の必死にの場所を探し始める。意識朦朧としている統が、更衣室のロッカーを一瞬見つめたのを遼は見逃さなかった。

遼は統から数メートル距離を置いたまま、ロッカーへ向かい、鍵の掛かっていない統のロッカーを開け放った。

だがロッカーの中には、日常的に使用するごく一般的な消臭スプレーと、鎮痛剤があるだけで抑制剤は見当たらなかった。ヒートを止められる一番良い手段が消えてしまった。

(くそっ......! 零が来るまで、あと数分。その間、統の身体が持つか…!)

遼は物理的な救済手段の不在を悟り、代わりに最後の手段に出ることにした。

ロッカーから身体を押し戻し、統からわずか一メートルの距離で膝をつく。金色に染まった瞳は、統の顔を直視する。


「統……俺だ、遼だ」


遼は、統の耳に届くよう自らの声にαのフェロモンを乗せた。それは統の意識に直接語りかけるフェロモンの波動だった。


遼の強靭なαフェロモンを更衣室全体に広がるように放つ。ユーカリのような爽やかな匂いが統の甘いフェロモンを無理やり押さえつけ、その膨張を阻止しようとする。


その匂いを嗅いだ瞬間グンッと、統の体が跳ねた。爽やかなαフェロモンが段々と統の身体の中に入ってきて刺激をしたことで遼を本能が求め始めたのだ。

「う…ぁ……だめ……!りょう…はなれて…!!」

統は遼のフェロモンを必死に拒絶しようとするが、Ωの本能は「助け」を求めその圧倒的な力に縋ろうとする。遼も自らの理性が限界に達しているのを感じていた。統の甘さが、遼の全身の皮膚を焦がし、本能が「今すぐ番の印を刻めば、二人の苦しみは終わる」と囁いてくる。

(違う!俺は、お前にこんな酷いことしたいんじゃない…! お前を愛しているから、お前の意志を俺は守るんだ!)


遼は、統の目を見つめたまま自らのαフェロモンを絞り出し、統の目の前まで向かう。強大な力はそのままに、その波動の根源に深い愛情と親愛の意を乗せ統の身体を抱き寄せて口を縫い合わせた。

「大丈夫だ、統。俺がいる。お前の本能に負けるな。俺のフェロモンで、一時的に眠れ。零がすぐ来るから。」


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