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前編
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人口の少ない北部の村でルイは誕生した。
両親は揃ってブラウンの髪、瞳なのに、ルイだけ銀髪で瞳も黄金色。
肌の色も飛び抜けて白く、狭い集落では浮いた存在だった。
両親は可愛がってくれたが、周りの憐れむような好奇の視線に外へ出ることも少なく、妹の面倒を見て成長した。
変化が訪れたのは7歳の時。
隣町ならば楽しめるだろうと、両親と初めて村から出た際、帝国の視察員の目に留まったのだ。
白銀と黄金は帝国象徴の色とされ、ルイは直ぐに帝国へと連れて行かれた。
両親に拒否権などなく、ずっしりと金貨の入った袋が渡される光景を、ただ見ているだけしかなかった。
遠く離れた帝国へと入ったルイは数年後に帝となる4つ年上の皇子の房事相手とされ、同衾の命が下るまでの期間、礼儀作法と房中術を教え込まれた。
帝の物であるという証に左足には重厚な黄金の枷が嵌められた。
贅を尽くした宝石と繊細な模様が入った逸品の枷は、動けば細工された金の飾りが揺れ、シャラリと澄んだ音を立てる。
何人たりともその肌に触れてはならぬという警告も兼ねており、一度枷られたそれは生涯外れる事はないよう結合され、死ぬまでルイを縛り付けるものとなった。
皇子が帝に即位した一月後に同衾を命じられ、身体を開いた。
そうして月日は流れ、いつしか『帝国の珠玉』と謳われるようになった。
腰近くまで伸ばされた銀髪は光を受け輝き、白く艶やかな肌は真珠のようだと絶讃され、生きる宝石と呼ぶものもいた。
16の成人を迎えると、祝いとして家族に面会させてくれたが、3つ下の妹を見た帝の変化にルイは直ぐに気づいた。
本来一度の面会しか許されぬのに、一人では退屈だろうと妹を側に置くことを勧め、宮殿に居場所まで用意した。
緩やかに恋を育んでいく2人をルイは温かい目で見守った。
身代わりに抱かれるのは辛かったが、次第に招ばれることもなくなり贈り物が届くだけとなった。
疲れた。
ただ、疲れた。
役目が終わってもルイに自由はない。
隔離された離宮で残りの生を過ごすことになるだけだ。
足枷は重く輝きを放ち、今日も澄んだ音をたて続ける。
制限があるとはいえ、ある程度の自由を与えられているルイはその日、宮殿の端塔を散歩していた。
夏が訪れると盛大な祭りが帝国中で数日にわたり催される。
その準備に城下は常より賑わっており、壁の向こうの楽しそうな音を聞いていると、金属音と罵声が近づいてくるのに気づいた。
どうやら罪人が連行されてきたようで、重罪人が入る塔へと向かっている。
「 。」
数人の警衛兵が連行していく人物は、見たことのない漆黒の髪に褐色の肌、深紅の瞳の引き締まった体格の良い男だった。
衣から覗く肌には幾つもの傷跡があり、男のこれまでの人生を物語っている。
年は20代後半程だろうか?
どうやら名を馳せた人物らしく、ようやく捕まえられたと兵士が得意気に話しており、2日後に処刑という。
じっと見ていると、こちらに気づいた深紅の瞳がルイを捉えた。
同じくこちらの存在に気づいた警衛兵が慌てて男を殴り、禁制だと怒鳴りながら連れて行くのをルイは見送った。
その夜、寂れた牢にルイの姿があった。
抜け道としてあった通路を、記憶を辿り侵入したのだ。
「・・・どういう事だ」
手足を鎖で繋がれた男が呆然とルイを凝視している。
その唇に躊躇いもなくルイは口づけた。
「ん・・・・」
ちゅ と音を立て薄い唇を喰めば、深紅の瞳が大きく開かれた。
「っ待て! あんた何だ!?」
力強い腕で引き剥がされるのを名残惜しそうに見やり腹部へ手を伸ばす。
「夜這いに」
「っ待て!」
訳がわからないと男が己の衣に侵入するその手を制止する。
「・・・・疲れたんだ。」
「帝の寵愛がか?あんた程の美人さんが何言ってる」
「君と一緒に処されたいと思って。
帝以外に自ら肌を許すのは禁忌だから直ぐ極刑になる。 最期に一度、好きな人とシたい」
「只、目についただけだろう」
「黒耀石のような髪も、ルビーのような瞳も、凄く綺麗。 全部好き。」
「・・・・・そりゃどうも。」
「だから、シよう?」
唇を合わせ、舌を絡める。
「・・気持ち、い」
口づけだけで、こうも違うものかとルイは男の逞しい胸に頬を擦り寄せた。
だが、男からの反応がない。
それほど気に入らない容姿なのかと肩を落とす。
「っあぁもう!」
ガシガシと男は頭をかくと、ルイを再び引き離した。
「そんなに嫌?」
「・・・・この場所では嫌だ」
思案顔の男にルイも黙り込む。
「場所を移そう」
鎖に繋がれた男の言葉ではない。
施錠の鍵の場所はルイにはわからない。
「・・・・っ!」
ギリギリと力を込め鎖を引く男を呆然と見る。
程なく音を立て鎖は千切れた。
「 嘘」
足の鎖も外すと、男はルイを抱き寄せた。
「退屈してたんだ。色々やってきたから、もういいかと思ってわざと捕まったが、あんたに出逢った。
心中なんてもったいない」
ニヤリと、まるで獲物を捕らえたように満足気な深紅の瞳が笑う。
「あんたを連れて行く。 俺のもんだ」
帝へ一枚の手紙と長い銀髪を残し、この夜、珠玉と謳われた人物は罪人と共に姿を消した。
帝も追っ手を向ける事はなく、程なく妃を迎えた。
2人の消息は誰も知らない。
両親は揃ってブラウンの髪、瞳なのに、ルイだけ銀髪で瞳も黄金色。
肌の色も飛び抜けて白く、狭い集落では浮いた存在だった。
両親は可愛がってくれたが、周りの憐れむような好奇の視線に外へ出ることも少なく、妹の面倒を見て成長した。
変化が訪れたのは7歳の時。
隣町ならば楽しめるだろうと、両親と初めて村から出た際、帝国の視察員の目に留まったのだ。
白銀と黄金は帝国象徴の色とされ、ルイは直ぐに帝国へと連れて行かれた。
両親に拒否権などなく、ずっしりと金貨の入った袋が渡される光景を、ただ見ているだけしかなかった。
遠く離れた帝国へと入ったルイは数年後に帝となる4つ年上の皇子の房事相手とされ、同衾の命が下るまでの期間、礼儀作法と房中術を教え込まれた。
帝の物であるという証に左足には重厚な黄金の枷が嵌められた。
贅を尽くした宝石と繊細な模様が入った逸品の枷は、動けば細工された金の飾りが揺れ、シャラリと澄んだ音を立てる。
何人たりともその肌に触れてはならぬという警告も兼ねており、一度枷られたそれは生涯外れる事はないよう結合され、死ぬまでルイを縛り付けるものとなった。
皇子が帝に即位した一月後に同衾を命じられ、身体を開いた。
そうして月日は流れ、いつしか『帝国の珠玉』と謳われるようになった。
腰近くまで伸ばされた銀髪は光を受け輝き、白く艶やかな肌は真珠のようだと絶讃され、生きる宝石と呼ぶものもいた。
16の成人を迎えると、祝いとして家族に面会させてくれたが、3つ下の妹を見た帝の変化にルイは直ぐに気づいた。
本来一度の面会しか許されぬのに、一人では退屈だろうと妹を側に置くことを勧め、宮殿に居場所まで用意した。
緩やかに恋を育んでいく2人をルイは温かい目で見守った。
身代わりに抱かれるのは辛かったが、次第に招ばれることもなくなり贈り物が届くだけとなった。
疲れた。
ただ、疲れた。
役目が終わってもルイに自由はない。
隔離された離宮で残りの生を過ごすことになるだけだ。
足枷は重く輝きを放ち、今日も澄んだ音をたて続ける。
制限があるとはいえ、ある程度の自由を与えられているルイはその日、宮殿の端塔を散歩していた。
夏が訪れると盛大な祭りが帝国中で数日にわたり催される。
その準備に城下は常より賑わっており、壁の向こうの楽しそうな音を聞いていると、金属音と罵声が近づいてくるのに気づいた。
どうやら罪人が連行されてきたようで、重罪人が入る塔へと向かっている。
「 。」
数人の警衛兵が連行していく人物は、見たことのない漆黒の髪に褐色の肌、深紅の瞳の引き締まった体格の良い男だった。
衣から覗く肌には幾つもの傷跡があり、男のこれまでの人生を物語っている。
年は20代後半程だろうか?
どうやら名を馳せた人物らしく、ようやく捕まえられたと兵士が得意気に話しており、2日後に処刑という。
じっと見ていると、こちらに気づいた深紅の瞳がルイを捉えた。
同じくこちらの存在に気づいた警衛兵が慌てて男を殴り、禁制だと怒鳴りながら連れて行くのをルイは見送った。
その夜、寂れた牢にルイの姿があった。
抜け道としてあった通路を、記憶を辿り侵入したのだ。
「・・・どういう事だ」
手足を鎖で繋がれた男が呆然とルイを凝視している。
その唇に躊躇いもなくルイは口づけた。
「ん・・・・」
ちゅ と音を立て薄い唇を喰めば、深紅の瞳が大きく開かれた。
「っ待て! あんた何だ!?」
力強い腕で引き剥がされるのを名残惜しそうに見やり腹部へ手を伸ばす。
「夜這いに」
「っ待て!」
訳がわからないと男が己の衣に侵入するその手を制止する。
「・・・・疲れたんだ。」
「帝の寵愛がか?あんた程の美人さんが何言ってる」
「君と一緒に処されたいと思って。
帝以外に自ら肌を許すのは禁忌だから直ぐ極刑になる。 最期に一度、好きな人とシたい」
「只、目についただけだろう」
「黒耀石のような髪も、ルビーのような瞳も、凄く綺麗。 全部好き。」
「・・・・・そりゃどうも。」
「だから、シよう?」
唇を合わせ、舌を絡める。
「・・気持ち、い」
口づけだけで、こうも違うものかとルイは男の逞しい胸に頬を擦り寄せた。
だが、男からの反応がない。
それほど気に入らない容姿なのかと肩を落とす。
「っあぁもう!」
ガシガシと男は頭をかくと、ルイを再び引き離した。
「そんなに嫌?」
「・・・・この場所では嫌だ」
思案顔の男にルイも黙り込む。
「場所を移そう」
鎖に繋がれた男の言葉ではない。
施錠の鍵の場所はルイにはわからない。
「・・・・っ!」
ギリギリと力を込め鎖を引く男を呆然と見る。
程なく音を立て鎖は千切れた。
「 嘘」
足の鎖も外すと、男はルイを抱き寄せた。
「退屈してたんだ。色々やってきたから、もういいかと思ってわざと捕まったが、あんたに出逢った。
心中なんてもったいない」
ニヤリと、まるで獲物を捕らえたように満足気な深紅の瞳が笑う。
「あんたを連れて行く。 俺のもんだ」
帝へ一枚の手紙と長い銀髪を残し、この夜、珠玉と謳われた人物は罪人と共に姿を消した。
帝も追っ手を向ける事はなく、程なく妃を迎えた。
2人の消息は誰も知らない。
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