80 / 80
クロと野生のヒト
しおりを挟む「悪い、もう少しかかる。様子は?」
『大方避難は終わってる。警察が対応しているが大型のベイ種相手だ、捕獲までは時間がかかるだろう』
「そうか。一人だけか?」
『今の所は。はぐれなのかは分からない』
「了解」
ライージュから連絡が来て数分。
目的地まではまだかかる。
…大型のヒト…クロが怖がらないといいんだが…。
幾らヒトがヒトの子供に襲いかからないとは言っても、飼われているヒトの話だ。
野生のヒトは自らの子供を産ませるために雄が子供を殺す行為も報告されている。
安全の保証は無い…だが、街中のヒトなど放ってはおけない。
腕の中のクロは萩ノ月に渡された最中を美味しそうに頬張っていて呑気なものだ。
……場合によっては、クロに戦ってもらうことになるだろう。
俺がヒトを怪我させれば、愛護団体が煩いだろうしな。
本当、人の命が掛かっていようが粗探しをして食ってかかってくる奴等は、一度同じ立場になればいいものを…いや、それでも理解しなさそうだ。
「りゅーる」
クロは何かを感じ取ったのか、辺りを見渡している。
「んー、んる」
スッと指をさした先には、物陰に身を潜め手に入れたであろう食べ物を貪り食うヒト。
…大きさ的にクロより三回り程大きいな。
クロは細身だがあのヒトは筋肉質なのだろう、手足が太いし肩幅もある。
ここまで逃げて来たのか?
別個体?
「んうぅぅ」
クロは少し肩を上げて威嚇している。
足を止めクロを下ろすと、グルルルと喉を鳴らした。
………勝てるのか、小柄なクロ一人で。
クロはやる気のようだが、怪我はして欲しくない。
どんな病気を持っているかも分からない相手だ、死なれては困る。
「グゥ、ギャルルアアア!!!!」
顔を上げたヒトが大きく吠える。
「グルルル、ガァァァ」
「ギャルルァァァァ!!」
突進をかますヒトを軽く避け、横っ腹に蹴りを入れたクロは、俺から距離を取らず吹っ飛んだヒトに近付いていかない。
……やはりクロにはセンスがある。
あれだけ体格差があるなら、幾らバランスを崩しても普通飛んでいきはしない。
「クロ」
呼べば直ぐに俺の元へ寄ってくる。
野生のヒトは軽く頭を振ると、クロを睨みつけた。
…戦う意思有り、か。
逃げられても困るが。
「グゥゥゥゥ」
「ギャァァルルルアァ!!!!」
「ガァァァ、キュアア!!」
………………。
クロは本当にセンスがあるな。
襲いかかってくるヒトを軽々しく避け、横っ腹や顎に蹴りを入れている。
ヒトらしい戦い方ではないが、体格差がある相手に遅れを取らず、何ら翻弄する程の勢いだ。
野生のヒトは怒り心頭でクロに噛み付こうと躍起になっている。
「ギャルルアアアア!!!!」
「…フンッ…」
鼻まで鳴らして余裕だな。
…だが、野生のヒトは体力が多い。
気絶させられなければ、ジリ貧だろう。
先程から通りの方で警察が捕獲器を設置しているのが見える。
あの大きさの捕獲器なら、入れるのはそう難しくないだろうが…どう野生のヒトを誘導するかだ。
「グゥゥゥゥ……マ?マァァ」
………?
鳴き方が変わった。
捕獲器の近くに居る母さんに気付いたのか?
母さんが手を振ってから「此処」と言わんばかりに捕獲器に指を指す。
「……あーい」
……伝わったのか?
捕獲器に向かって走り出したクロを野生のヒトは逃がさないと言わんばかりに追いかけていく。
「ギャルルアア!!」
クロが速度を落としあと少しで捕えられる、そうヒトが思ったであろう瞬間にクロは高く飛び跳ねた。
勢いそのまま野生のヒトは捕獲器へと吸い込まれるように入って行き、警察は直ぐ様捕獲器を締め鍵をかけた。
野生のヒトは捕獲器を壊そうと暴れるが、網目の小さい檻には爪も歯もたちはしない。
着地したクロは当然の如く俺の元に駆け寄ってフンフンと鼻息をたてている。
「よくやった」
「きゅぅ」
クロを抱き上げ、母さんの元へ向かう。
「ヤダもう、クロちゃんすごいわねぇ。あーっという間に捕まえちゃったわ」
「母さんの意図に気付いたみたいだ」
「それよそれ。指差しただけで伝わるなんて。天才だわ。クロちゃん、今日のおやつはプリンにしましょうね?」
「ぷい?あーい」
ぷいぷいと喜ぶクロだが、これから警察と話がある上、他に野生のヒトが居た場合を考慮して待機して欲しいと言われているから、当分先だな。
「あのジャンプ力…世界記録に挑戦するか?」
「クロは見世物じゃない」
「だが、目測でも3メートル近かったぞ。ヒトの最高値は2メートル弱だ」
「これ以上目立つ理由もない」
「すごい事なんだがな」
「クロちゃんがすごいのは今に始まった事じゃないでしょ」
「それもそうだが…」
「祭り所では無くなったな」
「そうねぇ。まぁ楽しめたから良いわ」
「クロちゃんの活躍も見れたしな」
「ふふ、そうね」
111
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
ありふれた聖女のざまぁ
雨野千潤
ファンタジー
突然勇者パーティを追い出された聖女アイリス。
異世界から送られた特別な愛し子聖女の方がふさわしいとのことですが…
「…あの、もう魔王は討伐し終わったんですが」
「何を言う。王都に帰還して陛下に報告するまでが魔王討伐だ」
※設定はゆるめです。細かいことは気にしないでください。
生きるために逃げだした。幸せになりたい。
白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。
2020/9/19 第一章終了
続きが書け次第また連載再開します。
2021/2/14 第二章開幕
2021/2/28 完結
最強超人は異世界にてスマホを使う
萩場ぬし
ファンタジー
主人公、柏木 和(かしわぎ かず)は「武人」と呼ばれる武術を極めんとする者であり、ある日祖父から自分が世界で最強であることを知らされたのだった。
そして次の瞬間、自宅のコタツにいたはずの和は見知らぬ土地で寝転がっていた――
「……いや草」
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
いらない子のようなので、出ていきます。さようなら♪
ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
魔力がないと決めつけられ、乳母アズメロウと共に彼女の嫁ぎ先に捨てられたラミュレン。だが乳母の夫は、想像以上の嫌な奴だった。
乳母の息子であるリュミアンもまた、実母のことを知らず、父とその愛人のいる冷たい家庭で生きていた。
そんなに邪魔なら、お望み通りに消えましょう。
(小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています)
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?
行枝ローザ
ファンタジー
美しき侯爵令嬢の側には、強面・高背・剛腕と揃った『狂犬戦士』と恐れられる偉丈夫がいる。
貧乏男爵家の五人兄弟末子が養子に入った魔力を誇る伯爵家で彼を待ち受けていたのは、五歳下の義妹と二歳上の義兄、そして王都随一の魔術後方支援警護兵たち。
元・家族の誰からも愛されなかった少年は、新しい家族から愛されることと癒されることを知って強くなる。
これは不遇な微魔力持ち魔剣士が凄惨な乳幼児期から幸福な少年期を経て、成長していく物語。
※見切り発車で書いていきます(通常運転。笑)
※エブリスタでも同時連載。2021/6/5よりカクヨムでも後追い連載しています。
※2021/9/15けっこう前に追いついて、カクヨムでも現在は同時掲載です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる