79 / 79
クロの好物
しおりを挟むクロが暗い中だと動けない事が分かってから閉めていないカーテンのお陰か、日差しで起きる事が多くなった。
カーテンを閉めているときは寝過ぎてしまい、昼前になる事もあったが、今ではそれも無い。
今までの不眠は何だったんだ、と思う位には寝てしまう為、通院先で相談したが、特に異常も無く健康そのものである事が証明され、俺の不眠症が完治したのはとても有難い。
欠伸をしながら時計を見れば7時12分といつも通りの時間だったが、珍しくクロの姿が隣に無かった。
トイレか?
「マァ、ゆああん」
「もう無いわよ?」
「ゆああん」
「ないないよー」
「んー、んーん、ゆああん」
「無いのよ、もうないない」
「マァ、マァ」
「あらあら、困ったわねぇ」
少しだけ開いたドアに先で、クロは母さんに何かを強請って手を上下させている。
「何をしているんだ?」
「あ、おはようリュルーシ。クロちゃんったら、タママンが欲しいらしくてね」
「朝から珍しいな」
「あげたんだけど、足りないみたいで。ずっとコレよ」
「クロがずっと?そんなに気に入ったのか?」
昨日は昨日で沢山食べて満足そうだったが、足りなかったのか…。
「どうせ母さんが何か違う物を一緒にあげたんだろ?」
野次を入れるライージュは、両手にカメラを持って写真と動画を撮っている様だ。
…器用だな…。
「そんな事無いわよ。カスタードのタママンと最中のクリーム入りをあげただけよ」
「…最中?」
昨日あげていない物だが、食べたのか?
初見では食べないクロが?
母さん用に買った最中を袋から取り出しクロに渡すと、「ゆああん」と言いながら食べだした。
「最中が好きなのか」
タママンと最中を机に並べると、カスタード、最中、餡子の順に手を伸ばすクロ。
「……最中、食うのか」
「初見?」
「ああ、そうだ。普段なら食わないのに…」
「クリーム入りだからじゃないか?」
「クリーム…ミルクの匂いがするのかしら?」
「クリームの入っていない最中は……食わないか」
クリームの入っていない最中を渡すと、半分に割ってじっと見てから返してきた。
…クリーム入りは普通に食うのにか…。
「餡子が嫌いな訳では無いのよね…何がダメなのかしら?」
「まぁ、今はいい。朝飯を作ってくる。何が食べたい?」
「おにぎり、昆布と梅」
「卵焼き、今回は甘くない方がいいわ」
「分かった」
「うぅーん、ゆああん」
「もうおしまいよ。朝ごはん食べなきゃね」
「うぅー、うぅん」
納得のいっていない顔のクロは、最中の入っている袋の前でウロウロとさ迷っている。
「クロ」
毎朝飲ませているミルクを渡せば、いつものポジションで飲み始めた。
…今度からクリーム入りの最中も買おう。
「くぅー、ぷぅー」
「やっと寝てくれた」
「ずっと最中を待ってたわねぇ」
「余程口に合ったんだな」
クロの背をポンポンと叩きながら、テレビを見る。
「今日の天気は曇り、強風か」
「……なぁ、ルーシ」
「何だ?」
「何時も腹の上で寝かせているのか?」
「ああ、昼間は腹の上だな」
「夜も一緒に寝てるよな?」
「寝ているが」
「…羨ましい…とても羨ましい」
「変わるか?」
「いや、クロちゃんは俺の事がまだ苦手だろうし、推しに踏み潰されるなんて鼻血が出そうだ。やめておく」
「……そうか」
今日もライージュは変わっている。
「ねぇ、今日はどうする?」
「最中を買いに行きたいから、別行動にするか?」
「そうだな。クロちゃんも毎日大勢人が居る場所に行くとストレスになるだろう。特にここ数日、ルーシと二人きりの時間が取れていない」
「ストレス…ねぇ…そうよね、最終日だし、やりたい事やりきってくるわ!ライージュも連れて」
「え、俺は別に留守番で「荷物持ちに決まってるでしょ、行くわよ」はい」
「クロ、どうした?」
「きゅぅあ」
「……気に入らないのか?」
「んーるぁ、あう」
クロの手には最中のクリーム入りがあるのだが、一口食べたきり食べようとしない。
朝はかなりねだっていたのに…。
「ゆあ、りゅーる」
「あらあら、最中は嫌いかしら?」
萩ノ月が差し出す最中を一向に受け取らない。
「朝は食べていたんだが…嫌なのか?」
全く分からない…何を伝えたいんだ?
「みう、みう」
「飲み物が欲しいのか?」
水筒を差し出すと、直ぐに吸い付いた。
「ぅん、ん」
「あらあら、最中の皮が上顎に引っ付いちゃったのね。よくある事だわ」
「確かに水分が無いと取れないよな」
モゴモゴと口を動かし頑張っているクロに、指を突っ込んで取らないんだなと思ってしまった。
「これは少しまずいわね」
「ああ、まさか野生のヒトが街中に現れるなんて。昨日クロちゃんが見つけた子供を襲ったヒトか?」
「その可能性は高いわね。さぁ、どうしましょうか…祭りの最中で、捕獲銃は使えないし…」
「クロちゃんが居れば良かったんだが」
「クロちゃんでも危険でしょう?」
「いや、案外そうではない。クロちゃんはまだ子供だ。大人のヒトは子供のヒトを襲わない。例え他の群れの子供でもな」
「抑止力として使えるのね」
「ルーシはこっちに向かって来てくれているが、もう少し時間が掛かるだろう」
「ここには子供も多い。私達が囮になった方がいいのだろうけど…」
「ヒトが一人だとは限らない。離れるのは得策では無い」
「困ったわねぇ」
75
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
薬師の名門ブレルスクに入学した私は、退学するまで暴れます。〜少年アレクの倫理で殴る学園ファンタジー〜
鮒捌ケコラ
ファンタジー
入学式から3週間目にして『退学」を言い渡された。
(早くない?RTAじゃないんだからさ。)
自分で言うのもアレだけど、入学してからは結構真面目に通ってた。
けど、どうやら教員の不況を買ってしまったらしい。
幸か不幸か、退学まで1週間の執行猶予が与えられた。
けど、今更どう足掻いても挽回する事は不可能だろうし、
そもそも挽回する気も起こらない。
ここまでの学園生活を振り返っても
『この学園に執着出来る程の魅力』
というものが思い当たらないからだ。
寧ろ散々な事ばかりだったな、今日まで。
それに、これ以上無理に通い続けて
貴族とのしがらみシミッシミの薬師になるより
故郷に帰って自由気ままな森番に復職した方が
ずっと実りある人生になるだろう。
私を送り出した公爵様も領主様も、
アイツだってきっとわかってくれる筈だ。
よし。決まりだな。
それじゃあ、退学するまでは休まず毎日通い続けるとして……
大人しくする理由も無くなったし、
これからは自由気ままに、我儘に、好き勝手に過ごす事にしよう。
せっかくだし、教員達からのヘイトをカンストさせるのも面白そうだ。
てな訳で………
薬師の名門ブレルスクに入学した私は、退学するまで暴れます。
…そう息巻いて迎えた執行猶予満了日、
掲示板に張り出された正式な退学勧告文を
確認しに行ったんだけど……
どういう事なの?これ。
金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語
紗々置 遼嘉
ファンタジー
アルシャインは真面目な聖女だった。
しかし、神聖力が枯渇して〝偽聖女〟と罵られて国を追い出された。
郊外に館を貰ったアルシャインは、護衛騎士を付けられた。
そして、そこが酒場兼宿屋だと分かると、復活させようと決意した。
そこには戦争孤児もいて、アルシャインはその子達を養うと決める。
アルシャインの食事処兼、宿屋経営の夢がどんどん形になっていく。
そして、孤児達の成長と日常、たまに恋愛がある物語である。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
一般人な僕は、冒険者な親友について行く
ひまり
ファンタジー
気が付くと、そこは異世界だった。 しかも幼馴染にして親友を巻き込んで。
「ごめん春樹、なんか巻き込ん――
「っっしゃあ――っ!! 異世界テンプレチートきたコレぇぇぇ!!」
――だのは問題ないんだね。よくわかったとりあえず落ち着いてくれ話し合おう」
「ヒャッホ――っっ!!」
これは、観光したりダンジョンに入ったり何かに暴走したりしながら地味に周りを振り回しつつ、たまに元の世界に帰る方法を探すかもしれない物語である。
親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました
空地大乃
ファンタジー
ダンジョンが日常に溶け込んだ世界――。
平凡な会社員の風間は、身に覚えのない情報流出の責任を押しつけられ、会社をクビにされてしまう。さらに、親友だと思っていた男に婚約者を奪われ、婚約も破棄。すべてが嫌になった風間は自暴自棄のまま山へ向かい、そこで人々に見捨てられた“放置ダンジョン”を見つける。
どこか自分と重なるものを感じた風間は、そのダンジョンに住み着くことを決意。ところが奥には、愛らしいモンスターたちがひっそり暮らしていた――。思いがけず彼らに懐かれた風間は、さまざまなモンスターと共にダンジョンでのスローライフを満喫していくことになる。
転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう! 公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ
幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
アルファポリス様より書籍化!
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。
どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。
- カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました!
- アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました!
- この話はフィクションです。
母は何処? 父はだぁれ?
穂村満月
ファンタジー
うちは、父3人母2人妹1人の7人家族だ。
産みの母は誰だかわかるが、実父は誰だかわからない。
妹も、実妹なのか不明だ。
そんなよくわからない家族の中で暮らしていたが、ある日突然、実母がいなくなってしまった。
父たちに聞いても、母のことを教えてはくれない。
母は、どこへ行ってしまったんだろう!
というところからスタートする、
さて、実父は誰でしょう? というクイズ小説です。
変な家族に揉まれて、主人公が成長する物語でもなく、
家族とのふれあいを描くヒューマンドラマでもありません。
意味のわからない展開から、誰の子なのか想像してもらえたらいいなぁ、と思っております。
前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。
もう伏線は回収しきっているので、変なことは起きても謎は何もありません。
単体でも楽しめるように書けたらいいな、と思っておりますが、前作の設定とキャラクターが意味不明すぎて、説明するのが難しすぎました。嫁の夫をお父さんお母さん呼びするのを諦めたり、いろんな変更を行っております。設定全ては持ってこれないことを先にお詫びします。
また、先にこちらを読むと、1話目から前作のネタバレが大量に飛び出すことも、お詫び致します。
「小説家になろう」で連載していたものです。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる