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クロの煽り方
しおりを挟む駅に移動し、クロに歩いてもらい電車に乗る。
ドア付近に立つと、クロは俺の腰に手を回して抱き着いた状態で俺を見上げた。
俺が左手で持っているホットドールに視線が行ったりしているが、基本的には俺の顔を見ているようだ。
空いている右手で頭を撫でてやると、更にぎゅっと抱きついてきた。
・・・不安なのか?
来た時は抱いていたからな、だからといって今は席が空いていないし・・・バランスが崩れたら危険だし、我慢してもらうしかないな。
頭を撫で続け、鳴きださないように気を配る。
さすがにこの荷物で専用車両はな・・・。
1つ目の駅で電車が止まり、乗客はクロを避けるように乗ってくる。
まぁ、自らヒトに近付きはしないものだしな・・・。
クロは大人しく俺に抱きついているが、普通のヒトならいつ暴れてもおかしくないし、口輪を付けてないとなれば更にな・・・だからといって口輪を付けたりはしないが。
周りに合わせたせいで、クロに余計な負担を強いる事はしたくない。
電車が発車すると、近くに立っていた犬人が舌打ちをした。
「なぁ、何でヒトがここに居るんだ?後ろが専用車両だぞ?」
何言ってるんだこいつ。
「ヒト乗車禁止車両は、1両前だぞ」
「はぁ?そんな事知ってんだよ!何でここにヒトが居るんだって言ってんだよ!」
「・・・?乗車可能だからだが?」
「ちっ、あのなぁ、分かるか?普通、ヒトは乗らねぇんだよ!」
・・・声がでかいし、意味が分からない。
まぁ、無視しよう。
後2駅だしな。
はぁ、と息を吐き出してクロの頭をポンポンと叩き、ゆっくりと撫でる。
こいつが話しかけてきてから、クロの手は俺の服を強く握るようになった。
大きい音が苦手の様だし、こいつの声に驚いたんだろうな。
「何無視しようとしてんだてめぇ!」
ギャンギャンと煩くて耳を塞ぎたくなるが、生憎両手が塞がっていて出来ない。
クロの片耳を俺の腹に当て、もう片耳を右手で塞ぐ。
少しでも、クロの負担を減らすために。
「聞いてんのか!?ああ?!」
「はぁ、わかったわかった」
「あ゛?」
「俺が飼ってるヒトより、元気なのは分かった。ここをよく見ろ。この絵と文字、見えるだろ?」
電車の窓に書いてある「吠えない・暴れない・ゲージ入りのヒト乗車可能」の文字とそれに因んだ絵を指す。
「お前の知能が高いことを、俺は期待するよ」
どこからか吹き出す声が聞こえた。
「ヒトより元気」という言葉は、云わば「お前はうるさい」というエミュウ内の隠語だし、「知能が高いことを期待する」は、「馬鹿じゃなければ分かる」という意味だ。
意味がわかったのか、笑われたのが恥ずかしかったのか、顔が真っ赤になった犬人。
「てめぇ、表に出ろや!」
「電車は駅以外では止まらないし、次の駅に用事は無い」
所々から笑い声が聞こえ始めた。
「ちょ、笑ったら、ふふ」
「だって、ふふ、んふふ」
「やだぁ、ふふふふ」
「おかしいわ、ふふ」
「ダサすぎ、はは」
「やめてやれって」
「お前も笑ってんじゃん」
そこそこ人が乗っているし、声がでかかったからか目立っていたようだ。
静かだったのに、そこかしこから声が聞こえるようになった。
「な、な・・・!」
ぶるぶると震える犬人。
クロがチラリと犬人を見て、目が合った瞬間にベッと舌を出し顔を逸らした。
その光景を見ていた乗客は、むせ込むように笑いだした。
「ぶほっ、ごほっ、ふふ、んぐふ、ヒトに煽られるやつ、ふ、初めて見た、ぶふっ」
「ぐっふ、おい、んふふ、笑ってやるなって」
「え、人に煽られたの?んふふ」
「ふふ、かっこわる、ふふ」
さらに顔を赤くした犬人は、電車が止まるなり一目散に出ていった。
肩を揺らしながら他の乗客も降りていく。
・・・まさか、クロが煽る行為までするとは。
あいつ、嫌われやすいんだろうな・・・。
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