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クロの思考
しおりを挟む真夜中に少し物音がして目を覚ました。
クロを抱いて寝ていないと熟睡出来ないなんて、そろそろ俺は末期かもしれない、と思いながら辺りを見渡す。
窓の前で月明かりに照らされたクロが、床に座り込みホットドールを抱きしめながら空を見上げていた。
鳴く事も無く、ただただ空を見ているクロは何を考えているのだろう。
「クロ、おいで」
俺の声に反応したクロは俺の元へと歩いてきた。
ホットドールを道中椅子に置き、ボスリと俺の横へと寝転んだクロは、直ぐに眠りについた。
昨日まで、どれほど撫でても寝ないし、抱きしめても目を閉じ続ける事も無かった。
あの日の病院帰りは普通だったのに、次の日にはもう何もかも反転したかのようだった。
暴れる事も、鳴き叫ぶ事も無いけれど…あれだけ食べていた食事は一日で1人前を食べるかどうかの所まで落ち、一日中ほぼ寝ていたのに全く寝ない状態に陥った。
お風呂に長々入っていたのに体を洗えば直ぐに出て行ってしまうようになったし、テレビの音にもインターホンの音にも敏感に反応しては唸る。
散歩中は何度も後ろを振り返り、撫でてもらっても反応しなくなったしおやつは受け取ろうともしなくなった。
飴を何個も食わせるが、それも何時間も口に入ったまま舐めようともしない。
どうにもこうにもならなかった1週間だった。
俺の近くから離れようとせず、少しでも手が届かなくなると小さな子供が捨てられたかのように鳴く。
目の届かない場所に行くと、泣き崩れてしまうなんて、思いもしなかった。
病院内に悲痛な鳴き声と俺を呼ぶ声が響いたのは記憶に新しい。
俺に頻繁に引っ付き、自ら俺の手を握り、マーキング行為も多くなった。
好戦的にもなり、自分からは行かないが今日のように戦う意志を表そうとする。
今、俺の胸元に顔を埋めるクロの顔は酷く穏やかだ。
やはり、引越すべきだな。
少しでも、あの場所から離れなければ、クロの様態はまた悪くなってしまうだろう。
だが、エミュウで急な環境変化は良くないとも聞いた。
今回の旅行は成功と言えるだろうが、次も同じとは限らない。
少し前に調べた物件以外のモノも見てみたいし、次の住み所は今よりクロが快適に暮らせる場所にしよう。
病院や駅が近くて、公園も近くにあると良い。
クロを抱き寄せ、俺も目を瞑る。
もうすぐ冬が来る。
ヒトは冬の間も活発に活動するし、寒さに耐えるために今よりも運動し体温を上昇させるから比例して食事量も増えると聞く。
クロは運動神経が良いし、体力も多い。
今日のように沢山食べれば、生き残れるかもしれないが、この一週間の様子が続けば…良くない結果しか生まれないだろう。
クロ。
なぁ、クロ。
俺はお前の言葉を分かってやれないし、クロには俺の言葉は通じてないのだろう。
合図と短い単語を直ぐに覚えたクロを、俺は素直に凄いと思った。
今日みたいに拳を前に出したり鼻をつまんだりする動作で、俺に分かりやすいように表現してくれるから、俺は助かっているんだ。
他のヒトなら、何も考えずにただ思うがまま行動するだろうに、クロは一拍考える時間を持つ。
クロ…お前は…さっき、何を考えていたんだ?
もし、クロの感情も思考も全て理解してやれたら、お前は素直に笑えて、俺にもっと甘えてくれるのだろうか?
『なぁにヒトと仲良くしてんだァ?!』だったか。
当たり前だろう?
俺はクロの飼い主だ。
飼っているヒトの全ての面倒を見る代わりに、ヒトの全てが飼い主のモノになるのだから。
全てを独占して何が悪いんだ?
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