ペットになった

ノーウェザー

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クロは食す

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一通りおやつ館を見て周り、店を出た。


手の届かない棚の上に置いてあるプリンを見つめていたクロを抱き上げ出口まで向かう間、「ぷー…ぷいー…」と最後まで名残り惜しく鳴いていた。


試食で店員に1口プリンを貰ったクロは、それはもう必死に店員の裾を握りもう一口もう一口と強請って笑われていた。


「ここまで甘味を強請られたのは初めてですよ」と言いながら、少し味の違うプリンを与えては「あー」と催促するクロを見て楽しそうに笑っていた。


自分から口を開くなんて、プリンは偉大だな。


「ぷ?ぷい?」


1口サイズのプリンを渡すと、開け方の知らないクロは傾けたり匂いを嗅いだりと何とか食べれないかと頑張っている。


このサイズの物なら持ち運びもしやすいし、機嫌直しに丁度良いな。


「ぷ?うーるる?ぐ?」


爪で引っ掻こうとするが、爪が短く尖っていないため滑って意味をなしていない。


必死だな。


何時に無く真剣だ。


頑張れクロ。






「がぁうう」


数分経ち、未だ1口サイズのプリンを開けられないクロは遂に鳴きだした。


「がぁ、ぐるるあ、あーぐぁ」


諦めきれず無い爪で引っ掻き続けたクロは、目の合った俺に傷だらけのプリンの容器を差し出してきた。


もう少し粘れば破れそうだったのに、惜しいな、クロ。


受け取った容器を開けてやり手渡すと迷う事無くぺろぺろと舐めだした。


噛むと一瞬で消えてしまうからか、クロはよくこの食い方をする。


ヒトに行儀なんて求めないし、食い散らかさない以上とやかく言う意味も無いだろう。


何より上機嫌でおやつを舐めたり食ったりしているクロはヒトを飼っている者からは人気が高くよく撫でられる。


普段から触らせないヒトが多い中更に食事中に触らせてくれるヒトはほぼ居ない。


そんな中クロはおやつを取られない限り唸る事は無いし、触られる事を嫌がらない。


写真撮影も特に反応は示さないからか、よく撮られている。


変に風評を付けない限りは好きにするといい。


ただ、おやつを食っていると服飾店には入れないから、それ以外の店で時間を潰す必要があるのが難点だな。


目の前で没収するなんて可哀想だし、仕方ないか。


「ギャルルアアア!」


聞こえた鳴き声に、後ろを振り返る。


「こら!やめろ!」


リードで首を引っ張られながら、茶色い髪のヒトがコチラに向かって吠えている。


「ギュア、ギャァァルルァァ!!」


「ぎゅ、ぎゃーる」


離れようと足を動かすと、クロは指を吠えるヒトに向けた。


「どうした?」


俺とヒトを交互に見た後、ポイッと半分残ったプリンをヒトに向けて投げた。


「グルオオ、ガアアァァア」


投げられたプリンにがっつくヒトに、飼い主らしき人はあちゃー、と顔を顰めていた。


「んる、るーるぅ」


クロ自らプリンを手放すとは…縦社会は厳しいな。


「すみません。本当に」


頭を下げる飼い主に、クロは頭を横に振った。


「るぅ、うゆうゆー」


……どっちが人でどっちがヒトなのか分からなくなる構図だな。


「いや、与えても大丈夫だったか?」


「ああ、平気です。こいつ元気だけが取り柄なんで。あ、あと食い意地も」


「そうか」


「いやー、その子賢いですね。本来なら喧嘩になっても可笑しくなかったし、最悪スタンガン使わないとかって思ったんですから」


スタンガン……か。


「まぁ、そうはならなくて良かった。こいつは見ての通りあまり強くないから、な」


蹴り技は強いが、それ以外は……まぁ、これからだな。


「あはは、まだ子供でしょう?これからですよ。いや、本当にすみません」


何度も頭を下げながら、空の容器に齧り付くヒトを引き摺って行った人に、クロは小さく手を振っていた。



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