52 / 80
クロは食す
しおりを挟む一通りおやつ館を見て周り、店を出た。
手の届かない棚の上に置いてあるプリンを見つめていたクロを抱き上げ出口まで向かう間、「ぷー…ぷいー…」と最後まで名残り惜しく鳴いていた。
試食で店員に1口プリンを貰ったクロは、それはもう必死に店員の裾を握りもう一口もう一口と強請って笑われていた。
「ここまで甘味を強請られたのは初めてですよ」と言いながら、少し味の違うプリンを与えては「あー」と催促するクロを見て楽しそうに笑っていた。
自分から口を開くなんて、プリンは偉大だな。
「ぷ?ぷい?」
1口サイズのプリンを渡すと、開け方の知らないクロは傾けたり匂いを嗅いだりと何とか食べれないかと頑張っている。
このサイズの物なら持ち運びもしやすいし、機嫌直しに丁度良いな。
「ぷ?うーるる?ぐ?」
爪で引っ掻こうとするが、爪が短く尖っていないため滑って意味をなしていない。
必死だな。
何時に無く真剣だ。
頑張れクロ。
「がぁうう」
数分経ち、未だ1口サイズのプリンを開けられないクロは遂に鳴きだした。
「がぁ、ぐるるあ、あーぐぁ」
諦めきれず無い爪で引っ掻き続けたクロは、目の合った俺に傷だらけのプリンの容器を差し出してきた。
もう少し粘れば破れそうだったのに、惜しいな、クロ。
受け取った容器を開けてやり手渡すと迷う事無くぺろぺろと舐めだした。
噛むと一瞬で消えてしまうからか、クロはよくこの食い方をする。
ヒトに行儀なんて求めないし、食い散らかさない以上とやかく言う意味も無いだろう。
何より上機嫌でおやつを舐めたり食ったりしているクロはヒトを飼っている者からは人気が高くよく撫でられる。
普段から触らせないヒトが多い中更に食事中に触らせてくれるヒトはほぼ居ない。
そんな中クロはおやつを取られない限り唸る事は無いし、触られる事を嫌がらない。
写真撮影も特に反応は示さないからか、よく撮られている。
変に風評を付けない限りは好きにするといい。
ただ、おやつを食っていると服飾店には入れないから、それ以外の店で時間を潰す必要があるのが難点だな。
目の前で没収するなんて可哀想だし、仕方ないか。
「ギャルルアアア!」
聞こえた鳴き声に、後ろを振り返る。
「こら!やめろ!」
リードで首を引っ張られながら、茶色い髪のヒトがコチラに向かって吠えている。
「ギュア、ギャァァルルァァ!!」
「ぎゅ、ぎゃーる」
離れようと足を動かすと、クロは指を吠えるヒトに向けた。
「どうした?」
俺とヒトを交互に見た後、ポイッと半分残ったプリンをヒトに向けて投げた。
「グルオオ、ガアアァァア」
投げられたプリンにがっつくヒトに、飼い主らしき人はあちゃー、と顔を顰めていた。
「んる、るーるぅ」
クロ自らプリンを手放すとは…縦社会は厳しいな。
「すみません。本当に」
頭を下げる飼い主に、クロは頭を横に振った。
「るぅ、うゆうゆー」
……どっちが人でどっちがヒトなのか分からなくなる構図だな。
「いや、与えても大丈夫だったか?」
「ああ、平気です。こいつ元気だけが取り柄なんで。あ、あと食い意地も」
「そうか」
「いやー、その子賢いですね。本来なら喧嘩になっても可笑しくなかったし、最悪スタンガン使わないとかって思ったんですから」
スタンガン……か。
「まぁ、そうはならなくて良かった。こいつは見ての通りあまり強くないから、な」
蹴り技は強いが、それ以外は……まぁ、これからだな。
「あはは、まだ子供でしょう?これからですよ。いや、本当にすみません」
何度も頭を下げながら、空の容器に齧り付くヒトを引き摺って行った人に、クロは小さく手を振っていた。
85
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
ありふれた聖女のざまぁ
雨野千潤
ファンタジー
突然勇者パーティを追い出された聖女アイリス。
異世界から送られた特別な愛し子聖女の方がふさわしいとのことですが…
「…あの、もう魔王は討伐し終わったんですが」
「何を言う。王都に帰還して陛下に報告するまでが魔王討伐だ」
※設定はゆるめです。細かいことは気にしないでください。
生きるために逃げだした。幸せになりたい。
白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。
2020/9/19 第一章終了
続きが書け次第また連載再開します。
2021/2/14 第二章開幕
2021/2/28 完結
最強超人は異世界にてスマホを使う
萩場ぬし
ファンタジー
主人公、柏木 和(かしわぎ かず)は「武人」と呼ばれる武術を極めんとする者であり、ある日祖父から自分が世界で最強であることを知らされたのだった。
そして次の瞬間、自宅のコタツにいたはずの和は見知らぬ土地で寝転がっていた――
「……いや草」
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
いらない子のようなので、出ていきます。さようなら♪
ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
魔力がないと決めつけられ、乳母アズメロウと共に彼女の嫁ぎ先に捨てられたラミュレン。だが乳母の夫は、想像以上の嫌な奴だった。
乳母の息子であるリュミアンもまた、実母のことを知らず、父とその愛人のいる冷たい家庭で生きていた。
そんなに邪魔なら、お望み通りに消えましょう。
(小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています)
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?
行枝ローザ
ファンタジー
美しき侯爵令嬢の側には、強面・高背・剛腕と揃った『狂犬戦士』と恐れられる偉丈夫がいる。
貧乏男爵家の五人兄弟末子が養子に入った魔力を誇る伯爵家で彼を待ち受けていたのは、五歳下の義妹と二歳上の義兄、そして王都随一の魔術後方支援警護兵たち。
元・家族の誰からも愛されなかった少年は、新しい家族から愛されることと癒されることを知って強くなる。
これは不遇な微魔力持ち魔剣士が凄惨な乳幼児期から幸福な少年期を経て、成長していく物語。
※見切り発車で書いていきます(通常運転。笑)
※エブリスタでも同時連載。2021/6/5よりカクヨムでも後追い連載しています。
※2021/9/15けっこう前に追いついて、カクヨムでも現在は同時掲載です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる