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クロに同情
しおりを挟む鼻を押え、ぐぅぅと唸るクロは早足で商品を見て周りスグに俺の元に戻ってきて早々俺の胸元に鼻を寄せふすふすと鳴らしている。
…クロ、お前は本当にヒトか?
ヒトの好み全部を否定して戻ってくるなんて。
干し肉は嫌いなのか?
生肉もあまり食べなかっただっただろう?
焼いた魚は食うのに、干した魚は嫌いか?
もしや乾燥物が苦手なのか?
いや、でも煎餅は好きだったはず。
「んぐゆゆう、ゆううるるる」
服を引っ張り出口を指差すクロにそんなにここは嫌かと笑えてくる。
「分かった分かった。ここから出ような」
「うゆゆゆ、る、るうるる」
一生懸命何かを伝えようとしてくれるが、悪い。
全く分からない。
「はいはい、ほら、行こうな」
手を引き出口へ向かうとクロは勢い良く扉を開け少し離れた所で深呼吸を始めた。
そんなにか…そんなに嫌いな匂いだったのか。
スモーキーで結構良い匂いだと思ったのだが…。
「これはまた個性的な子ですね」
「普段甘い物以外の間食をしていないのもあるかもしれないな」
「甘味が好きですか。なら、あちらの部屋に行きましょう」
「クロ、行くぞ」
ジャーキーはまだ子供のクロには早かったな。
…だが、生肉は野生の個体なら普通に食うし…やっぱり嫌いなのか?
雑食性だから良いが、ヒトは肉食に近い生物なんだぞ?
「この子はまだ小さいですし、骨を強くするためにカルシウムの取れるおやつがいいかもしれませんね。ミルク味なんてどうでしょう?鉄分補給の為に果物が食べれるとより良いのですが」
「ああ、ミルクは大好きだな。果物や野菜は食べ残した事は無いが、生肉や生魚は視界に入れないようにしている様に見えた」
「それはそれは…野菜嫌いが多いのに素晴らしいですね。ただ、生肉を食べないのは…内臓系は食べますか?」
「食べなくはないが、火が通ってないと皿を自分で離そうとする」
「生食を嫌う子なのですね。時折見かけますよ。火さえ通っていれば食べられるのでしたらそれは僥倖でしょう。栄養の偏りがしにくい子という事ですから。まぁ、ここはおやつ館なので、普段の食事には詳しくありませんけどね」
ふふふと笑った店員の開けた扉の向こうから、甘い匂いが漂ってきた。
「きゅる、りゅる、うーゆゆ」
早速反応を見せたクロは先程と違い軽快に進んでいく。
「ああ、ほら、好きな物を見て来い」
手を離し、背を押すと先程よりもずっと時間をかけて並んでいるおやつを吟味しだした。
今回は後ろをついて周り、クロが口に入れ反応した物を覚えていく。
硬いものより柔らかいもの。
きつい匂いよりほのかな匂いのもの。
…甘いものなら特に嫌ったりしな「んげぇ」そんなこと無かった。
なんていう顔をしてるんだクロ。
カシャリと一枚撮ってから紙を手渡すと、何かを吐き出した。
「…何を食べたんだ?」
出されたものと並んでいるものを見比べてそれを探すと、見つけた。
……甘い魅力グミ、生肉味。
…これは…流石に…俺でも食いたくない。
「うげぇぇ」
今度は…甘い魅力グミ、アンチョビ味。
その隣は甘い魅力グミ、五臓六腑味…甘い魅力グミ、エスカルゴ味…。
…………。
「クロ、あっちに行こう、な?」
クロの手を取り違う陳列棚へ向かう。
こんな巫山戯た味食べさせられるか。
まずいに決まってるだろう。
何商品化して並べてやがる。
クロがグミを嫌いになったらどうしてくれるんだ。
甘いものでも味には限度があるだろうが。
「んる、んる、る」
水筒を渡すと一気に中身を飲み干したクロに、そうだよなと内心同情する。
文字の読めないクロからすれば、何を食べるのか分からないもんな。
食ったものがまさか嫌いなものの味がするなんて夢にも思わないよな。
…甘い生肉…違う甘さにも程があるだろ。
持ってきていたミルクキャンディを食べさせ一息つく。
… おやつ館…なめてた…。
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