ペットになった

ノーウェザー

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クロの着替え

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祭り当日、早朝に叩き起こされクロは少し不満そうだ。


「こんなに早く起きてどうするんだ」


「やだ、服よ服。クロちゃんを着飾らないと」


欠伸をして眠そうに目を擦るクロに何を着せるのやら。


ライージュと共に買い物へ行ったのは知っているが、何を買ったのかまでは把握していない。


「もっとゆっくりでも良かったんじゃないか?祭りは昼からだろう?」


「それはそれ、これはこれって奴よ。さぁクロちゃん。顔を洗っておいで」


背中を押され洗面所へと連れていかれたクロは俺の姿が見えなくなったからか、甲高く鳴いて走ってきた。


足に抱きついたクロは、何故居なかったのと言わんばかりにクンクン鼻を鳴らしている


「……なんか、ごめんね?」


「言い忘れていたか?クロは俺が見えないと鳴くし、長い事離れていると号泣する」


頭を撫でてやり、そのまま耳の後ろを掻いてやるとゴロゴロと喉を鳴らし始めた。


「もしかして扉に付いてる鈴って関係ある?」


「俺が部屋から出た後どの部屋に行ったのかクロが分かるように、音違いの鈴を付けている。そうしないと俺の後を着いて回って落ち着かないんだ」


「違う意味で手のかかる子なのね…寂しいのかしら?群れで過ごす種族だものね」


「他のヒトと飼った方がいいんだろうが…クロが興味を示さなくて意味が無い。ヒューマンに預けている間は問題無いのにな……何が違うのか全く分からない」


「ヒューマンってヒトの世話をする人?匂いかしら?それとも好み?」


「どのヒューマンでも反応は変わらないが…服装か?顔の判別が出来る程ヒトの知能は高くないだろう?」


「どうでもいいから服着させたいんだけど。写真だって沢山撮りたいんだ」


さっきからシャッター音をたてていたライージュが買い物袋から服を取り出しながら、さも当然のように言い放った。


まぁ確かに言い合っていても分かりはしない問題だが…そこまでクロの写真を撮りたいのか?


「それもそうね。折角可愛い服を買ってきたんだもの、着せなきゃ損よ」


「クロはオスだが」


「ヒトの性別なんて気にしちゃダメよ。クロちゃんは可愛いから可愛い服を着るの」


「ちゃんとクロちゃんの好きそうな黒服も買ってある」


バサバサと広げられる服は一体何着あるのだろうか。


とりあえず歯磨きと洗顔をしに洗面所へ行き、クロ用の歯ブラシに歯磨き粉を乗せ渡す。


食べてしまっても大丈夫な甘い歯磨き粉を気に入っているクロは、ちゃんと一人で歯を磨ける程優秀だ。


甘いからと歯磨き粉を飲み込んだりせず、ちゃんと吐き出せるほどにだ。


前回俺が使っている物を間違えて渡した時はスグに吐き出し何度も口を濯いでいた。


磨き方をどうやって覚えたのか分からないが、歯医者に行くと綺麗だと褒められる。


……歯医者が嫌いだから頑張っている……とかじゃない、よな?


磨き終わると顔を洗い髪をとかして、着替えに行くが…今日は着替えに時間がかかりそうだ。


俺が終わるのを待ち、横を歩くクロ。


……家の中だけでも一人で居られるようになるには、一体どれほどかかるだろうか。


リビングでああでもないこうでもないと騒ぐ二人にクロはグゥと喉を鳴らした。


クロ用の服が入っている入れ物の前だから着替えに行けないようだ。


「母さん、ライージュ。クロの準備が終わったぞ」


「あら、本当?さぁさぁ、此方にいらっしゃい、クロちゃん」


眉間に皺を寄せたクロは一歩も動かない。


「嫌な予感がするって顔に書いてあるな。ほら、行ってこい」


クロの背中を押し、俺はキッチンへと足を向けた。


米は炊けているし、早速おにぎりを作るか。


生の鮭とミンチ肉を冷蔵庫から取り出し、鮭をフライパンに乗せ、解しながら焼く。


おにぎりの具は鮭フレークと、昆布と、ソボロと、煮卵の予定だ。


もう一つフライパンを取り出し、ミンチ肉を炒める。


煮卵はクロが好きだから大量に冷蔵庫に入っている。


昆布は昨日買った塩昆布を挟むだけだ。


母さん指名の甘い卵焼きと、ライージュの好きな汁物…は、味噌汁でいいか。


「海苔はいるか?」


「欲しいわー」


「俺もいる」


「了解」


クロも味付きの海苔が好きだから、全部に巻くか。


ああ、そういえば…豚肉も少し残っているから肉巻きおにぎりも作ろう。






「ねぇねぇ、見てちょうだい」


そう声をかけられ顔を上げると、母さんの前に座ったクロが此方を見ていた。


……そう不機嫌な顔をしなくてもいいだろ…後でミルクとプリンをやるから、もう少し頑張ってくれ。


「……これはまた…浴衣か?」


クロの着ている服は、黒地に花火の絵柄がある浴衣だった。


床には白地に赤い花が描かれた浴衣と、何色とも言えない程鮮やかな絵が描かれた浴衣…紺と茶色の甚平等沢山の服が散らばっていた。


……どれも目を引くものばかりだ。


「そうよ!甚平も買ったけれど、やっぱりクロちゃんには浴衣よね。私女の子が生まれたらこうやって沢山可愛い服着せたかったのよー。貴方達も赤ん坊の頃は可愛い服を着せてたけれど、物心がつくにつれて暗い服ばかり好きになっちゃって…それはそれで悪くないけれど、少しは色の入った服を着て欲しいわ。折角格好のいい顔と引き締まった体をしてるんだから。見せつけなきゃ損よ」


「母さんだって見目がいいのに暗い服ばかりだろ」


「私には明るい服が似合わないの」


「俺達母さんにそっくりなんだが…」


「……それはそれ、これはこれよ。はぁー、可愛いわぁ。ライージュ、その撮った写真私の携帯に送ってちょうだいね」


「選りすぐりのを送ろう」


「俺にも頼む」


「ああ、任せろ」


写真家のライージュが撮った写真が気になる。


俺では撮れない物が多いだろうし楽しみだ。


それにしても…伸びた髪まで結われて、見てくれだけならメスそのものだな…。


耳がちゃんと見えるし、沢山食うクロ用にか帯はゴム製で苦しくなさそうだ。


「靴はどうするんだ?祭り中は抱き上げていないといけないから、履かせなくてもいいが…」


「ちゃぁんと買ってあるわよ。サンダルだけど、それっぽく見えるやつ。靴擦れも靴無しも嫌よねぇ?クロちゃん」


興味無さげにくぁ、と欠伸をしたクロはホットドールを抱き締めてうつらうつらと船を漕いでいる。


「朝ごはんを食べたら、今度は違う髪型にしましょ。後は、首周辺ね。首輪もチョーカーも全部出してね」


「足首用もあるが…出すか?」


「……リュルーシ…貴方、自分自身よりクロちゃんに投資してない?」


「俺は装飾に興味は無い」


「そうよねぇ……クロちゃん、リュルーシは稼ぎに稼いでいるから好きなだけ甘えるのよ」


眠そうなクロは俺の名前に反応し、勢い良く顔を上げた。


「んゆあ……りゅる?うるるあぁ」


立ち上がりキッチンの近くに走ってきたクロが体を左右に揺らす。


喉が渇いたのか。


ミルクの粉をコップに入れお湯で溶かして冷凍庫から苺とミルクで作った氷を入れて渡す。


「零すなよ。母さん、ライージュ。少し片付けてくれ」


ホットドールを片手で抱え、反対の手でコップを持ったクロを通す為に二人が道を開ける。


クロはクロで零さないようにミルクを凝視していて真剣そのものだ。


そこまで多く入れていないが…片手だからかいつもより歩くのもゆっくりに見える。


「もうライージュを警戒してないわね。眼中に無いって感じだわ」


「それでいい。変に意識されるより空気だと思われた方がいい写真が撮れる」


「双子を初めて見たから驚いただけだと思うがな」


「そっくりだから怪しいって?それ、顔の判断出来てるんじゃないの?」


「……クロちゃんは賢いから、判断できるのかもな。信号の色だって分かっていたし。ヒトの研究結果はあまり当てにならないと知った」


「色?ああ、ヒトって色が分からないって奴?そもそもヒトってどういう景色が見えているのかしらね。私達が見ている光景と何か違うのかしら?」


同じような事を俺も考えていたな。


「違ったとしてもクロちゃんは俺達と同じように見えているかのように暮らしている。それだけでいいだろ」


「それはそうだけど…まぁ、いいわ。リュルーシ、私も運ぶのを手伝うわ。ライージュは、机の上片付けてね」


「助かる」


「はいよ」


クロ。


今日はきっと騒がしくて今以上に疲れるから、覚悟しておいた方がいいぞ。


そんな思いと裏腹に、クロはミルクを飲んで満足そうに腹を撫でている。


…最近は朝ごはんを食べなくなったが、今日は食べてくれるだろうか?


クロの好きな卵が沢山あるから、ちゃんと食べてくれるといいんだが…。


昼は昼で食べさせたいから、消化出来る分だけでも食べてくれ。


並べられた食事に、クロはざっと目を通してから行儀良くいつもの場所に座った。


甘い卵焼きと煮卵ばかり食べるクロに、冷たいミルクを近くに置く。


…食べてくれるなら栄養が偏っても気にはしない。


他の食事で補えばいいし、痩せ型なクロの体重を増やす為には多少は気にしていられない。


健康を維持する為には、必要な事だ。


「リュルーシのご飯久しぶりに食べるけれど、やっぱり美味しいわ。私にも作れたらいいのに…」


「昨日も言っていたな。人には向き不向きがある。母さんはいつも家を清潔に保てる程掃除上手だし、美味しい食事処や失くし物を探すのも上手いじゃないか」


「そうそう。後、服を選ぶセンスは高いし話上手でもある。たった料理ができないという一点ばかりに目を向ける必要は無い。出来ない事は父さんや俺達に任せればいい。俺達だって出来ない事は母さんを頼ってきたんだから」


「もう、どうして貴方達二人はそう…父さんに似たのね」


「親の背を見て育ったからな。育ちがいいだろう?」


「本当に。惚れ惚れする程だわ」


楽しそうに笑う母さんに、クロの動きを観察しては頷くライージュ、卵ばかり口に運ぶクロと机を囲い朝食を食べ進める。


一人だけ格好が祭り状態のクロだが、不便を感じているようには見えないので問題無さそうだ。


「んむあ…むむ、むあ、む」


口の中の水分を卵に吸われミルクで流し込むクロを、ライージュは食事中にも関わらずにシャッターをきり母さんに怒られていた。






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