ペットになった

アンさん

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クロと祭り 一

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何度も髪を触られた挙句、普段よりも動き辛い服を着せられたクロは膨れっ面だ。


食べた後は必ず数時間眠るクロだったが、眠れることは無く何度も欠伸をしているのも原因の一つだろう。


「あらあら、可愛い顔がまた可愛らしくなってるわ」


頬をつつかれても噛みつかないから、と触り過ぎている。


「母さん、ヒトに過度の接触は良くない。そろそろ解放してやってくれ」


クロが誰かを襲う姿は想像出来ないが、ストレスは感じているかもしれない。


「えー…ああ、クロちゃん。とーっても可愛いわぁ」






「凄い人ねぇ。はぐれちゃいそう」


「ベビーカステラは好きみたいだな。いちご飴も好きそうで良かった」


「母さん、はぐれそうと言いながら勝手に一人で行こうとしないでくれ。ライージュ、買うのはいいが全部クロに食わせようとするな。もう手一杯じゃないか」


「あら、はぐれたら電話するわ。ちゃんと出てちょうだいね」


「あ、アッチからいい匂いがする。これ持っててくれ、買ってくる」


逆の方向へ歩いていく二人にため息を落とす。


クロは祭り中下ろせないと言っているのに、3袋も食い物渡されたら何も出来ないだろうが。


クロは最初に渡した黒い袋にゴミを入れ、抱えている方の袋から串焼きを取り出し美味しそうに食べている。


……食べるのはいい。


ゴミを捨てたりしないのも、いい。


ちゃんと袋に入れられるクロは凄い。


だが、口の周りの汚れを取るにはこの両手が塞がった状態ではどうしようもない。


クロはあまり舐める行為が得意では無い。


普通のヒトならベロベロと至る所を舐めるが、クロは舐めようとしないし口の周りはいつも自身でティッシュを使い拭き取る程綺麗好きだ。


プリンとミルクを除いてだがな。


この2つにはどうしようもないほどに執着してみせるし、呼ぶ事さえ出来るようになるほどに好物だ。


呼べると言ってもプリンを「ぷい」、ミルクを「みう」と言うぐらいだが…芸としては十分だ。


今は気にしていないようだが、気にしだしたクロは拭き取るまで何も口にしなくなるし唸り出す。


荷物が下ろせそうな出来るだけ人の少ない所へ行きたいが、どこもかしこも人だらけで厳しい状況だ。


………おい、冗談だろう?


少しした頃、離れた所から見知った顔が両手に袋をぶら下げてやってきた。


「見ろ、ルーシ。沢山買ってきたぞ」


「あら、ライージュと被ってないかしら?」


「大丈夫だろう」


「どれだけ買ってきたんだ。いや、それより…母さん、鞄からティッシュを取ってクロの口を拭いてくれ。ライージュ、飲み物も買ってきてくれたんだろうな?」


「はいはい、クロちゃんお口拭きましょうね」


「勿論だ。オレンジといちごミルクを買ってきた。お茶も買ったが、お茶は飲むか?いつも水だろう?」


「苦すぎなければ飲むだろう」


もごもごと口を動かすクロは大人しく口を拭かれ、渡されたお茶を少し吸って気に入ったのか勢いよく飲み出した。


「気に入ったみたいね。美味しい?」


「ヒトの好みは個体によって大きく変わると言うけど、やっぱりクロちゃんはズバ抜けているな。お茶はかなり嫌われる分類だと言うのに…」


「知っていて持ってきたのか?好みが分かっていいが、嫌いな物を渡すと嫌われるぞ」


「…何事も挑戦だ」


そう言ったライージュは買ってきた袋の中を探り、アレもコレもとクロに渡し、匂いが気に入らないものは受け取らないクロはいちごミルクのオカワリを強請っていた。


……ここまでヒトに扱われる存在も十分珍しいぞ、ライージュ。


そう思いながら、クロが欲しがったいちごミルクを買いに行くライージュの背を見送った。








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