if物語

アンさん

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獣人×獣人 狼×豹 ①

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獣人(狼)   「睦月むつき」   ×   獣人(豹)   「鈴斗すずと


※独自的設定有オメガバース



外側からも内側からも鍵を閉めたはずの扉が開いた音は、自らの荒い呼吸で聞こえなかった。


気付けば俺が丸まっているベッドの縁に誰かが座った。


「すぅ」


知っている声だ。


俺が一番好きな人が、俺を呼ぶ声。


居るはずの無い、今一番会いたくない人の声に肩が跳ねる。


ああ、ついに、げんちょうまで、きこえだしたのか。


腹と頭をぐるぐると熱い何かが回っている。


「つらい?すぅ」


頭まで被った布団の上から背をさすられる。


ちがう、いる、ここに、むぅが。


布団ごとベッドの縁から遠い壁側へと急いで這いずる。


なんで、どうして?


かぎはしめたはず。


チェーンだってかけていた。


なのになんで、へやのなかに、むぅがいるの。


布団の隙間から見える、あの顔も匂いもむぅで…。


「こ、ないで」


無様な姿をした俺を見て欲しくなくて、こんな情けない言葉しか紡げない今の俺は知られたくなくて…折角距離を置いていたのに。


「ねぇ、すぅ。どうして頼ってくれないの?」


パサリ、パサリ、と布団の上で尻尾を一定の間隔で振るむぅ。


ちがう、おこらせたかったわけじゃない。


きらいにだってなってない。


でも、こんな…。


「すぅが俺を頼ってくれないの、俺がαじゃないから?」


「ち、がう」


「俺は頼りない?」


「そんな、こと、ない」


「じゃぁ、どうして」


ーーすぅは今も俺を頼らずに避けるの?




ガクリと体から力が抜け、今まで無理矢理抑えていたフェロモンが部屋に充満する。


呼吸が上手くできない。


もうずっと、頭は可笑しくなるんじゃ無いかというぐらいむぅの事しか考えれなくても、フェロモンだけは押さえつけていたのに。


「な、にが」


「ねぇ、すぅ。今日ね、俺病院に行ってきたの」


ベッドに乗り上げ、俺の顎を持ち上げにこりと笑ったむぅ。


「え、え?」


「俺ね、後天性のαなんだって」


ゆっくりと、両手で俺の両頬を撫でるむぅの目は、α特有の赤い目で。


「あ、るふぁ」


「うん、そう。ね、これで」


ーーすぅの番になれるよ。




ーーーーーーーー。


ずっと悩んでいた。


このままじゃ、すぅはどこかのαに取られてしまうと。


運命の番が現れれば、俺は簡単に捨てられてしまうと。


αの父とΩの父から生まれたのだから、どちらかに準ずるのが普通なのに、俺ら双子はβだった。


嫌だと思った。


だって、初恋である相手のすぅはΩだから。


αじゃない俺じゃ、隣に立てない。


Ωなら同じαに嫁げるのに。


努力した。


死ぬ気でどんな事でもやって、やっと、すぅの視界に入れるようになった。


すぅはいつも笑わない。


ただただそこにいて、ただただ傍観するだけ。


それでも俺は知っている。


俺の憧れたあの存在が、すぅだと。


だから同じ土台に立ちたくて、手探りで数年かけてここまで来た。


…渡したりはしない。


すぅは俺だけの番なのだから。


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