if物語

アンさん

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獣人×獣人 狼×豹 ②

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はぁー、はぁー、と荒い息をし続けるすぅの背中を撫でる。


触る度に跳ね、ああ、と切なそうに言葉を落とす。


「ねぇ、すぅ。そろそろ、こっちおいで?」


いつもの様に足を叩けど、すぅは頭を横に振るばかり。


3日前までなら、少し照れながら俺の上に座ってくれたのに。


ポタリ、ポタリ、と涙が流れ、唇を噛み締めるすぅ。


尻尾が強く布団を叩く姿は、我慢し続ける子供の様。


「すぅ。おいで、ね?」


優しく話しかけても、もうすぅは言葉を発さずギュウと身を固めるだけ。


本来であれば、αのフェロモンに誘発され、すぐにΩとしてαの言葉に従う頃だが、すぅにとってそれを受け入れるのは無理な話だろう。


でも、俺が優しく話しかけているうちに、俺の元に来て欲しい。


Ωだけじゃない。


αだって、Ωのフェロモンを嗅いで理性を保つのは難しいから。


「すぅ。お願い、すぅ」


頭をゆっくりと上げたすぅは、唇を震わせ涙を流す。


「いま、は、だめ、だから」


「どうして?」


「お、れは、いま、ひーと、ちゅ、で」


「知ってるよ」


「おれは、おれは」


「すぅ。おいで」


一つ瞬き、ズリズリと寄ってきたすぅを抱き上げ、向かい合わせにして足に乗せる。


右手で頭を抱き込み、左手で腰を抱く。


「う、うぅ」


多分、すぅは見られたくないのだろう。


今の自分は情けない姿だと、そう、思っているのだろう。


「すぅ。俺ね、嬉しいよ」


「っ、う、あ」


旋毛にキスを落とし、頬擦りをする。


「やっと、すぅを手に入れられるって、そう思えたから」


さらにきつく抱き寄せ、抑えていたフェロモンを撒き散らす。


ビクリと震えたすぅは、俺を見上げた。


「ねぇ、すぅ。既成事実と番、どっちがいい?」


「…え?」


「すぅが俺を望むなら、俺はすぐにでもすぅの番になるよ。でも、でもね」


パクパクと、言葉を発さないすぅに俺は笑みを送る。


「俺を突き放すなら、既成事実でもなんでも作って、逃がさないから」


どっちがいい?


そうもう一度聞くと、目を閉じたすぅは答えた。


「おれ、だけを…みて、くれるなら、つがいたい」


ずっと隠していた思いなのだろう。


αは多くのΩを囲う習性がある。


故に、αのみ一夫多妻制が適用される。


そんなこと、どうでもいいのに。


俺にとって唯一の番はすぅだけで、その他なんて有象無象なのに。


「ずっと、すぅしか見てないよ」


ヒート中でもこうやって理性を保てている事も、普段見せる凛々しい中に儚さもある姿も、今みたいに頼りきれない惰弱さも…。


俺にはどんなすぅも、等しく愛おしいと思える。


…逃がさない。


すぅの首に付けられた首輪に爪を立てる。


誰にも渡さない、だって、すぅは俺の番なんだから。



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