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魔族×精霊 ①
しおりを挟む魔族 「三月」 × 妖精 「瑠璃」
『南方森の崖下にある洞窟内で、強力な結界を確認。何者も入る事の出来ない事態が発生』
そんな報告書を握り潰し、溜息を零す。
勇者との戦闘がやっと終わった所にこんなくだらない報告を受ける事になるとは。
コッチは後片付けで手一杯な状況だぞ。
負傷者が多いし建物は無惨な姿だし土地は抉れてる所だってある。
全部なおすのにどれだけ…!
いや、止めておこう。
考える時間が無駄だ。
さっさと行って確認してこよう。
気分転換にうってつけな理由だ。
……確かにかなり強い結界だな。
結界を触ると少しだけ痛みを感じる。
術者は何を考えて、こんな中途半端な結界を張っているんだ?
無理矢理足を進め中に入る。
入れないのではなく、入る意志を奪い身体を硬直させる信号を送っている、という方が正しいな。
……一体、何故?
答えは簡単だった。
中で蹲る、一体の生命体。
腹に抱えているのは、体外子壺。
男腹で子を宿し、足りない魔力を己の生命力と周囲を漂う魔力で補っているようだ。
子は、育っていないな。
弱い種だったのだろう。
額に浮かぶ紋様から、この生命体はかなりの強者だと伺える。
なのに、何故弱い者の種を受け入れたのか。
強者は更に強者の種しか受け入れられない事など、常識だろうに。
もう殆ど虫の息の強者に近付き、気付いた。
……隷属化、されているのか?
首周りを覆う黒い術紋。
反抗し続けた結果付いたであろう赤い線。
……これ程弱っても、子を守ろうとしているのか?
弱い種を?
知らずのうちに上がっていた口角を更に上げる。
ああ、素晴らしい。
俺の嫁にしよう。
俺の種なら間違いなく育つ。
抱え込まれていた子壺を奪い、母体に魔力を流す。
番契約を終わらせて、それからだ。
それから……夫婦の時間を過ごそうな。
薄らと開いた目を覗き込む。
少し間を空けて見開いた目が素早く腹を見て辺りを見渡しだした。
「安心しろ。お前の子壺は無事だ」
ビクリと肩を揺らしコチラを伺う目には、困惑と焦燥が宿っていた。
「子を守りたいのだろう?慈しむ相手はどうした?」
ひくりと喉を鳴らした相手は言葉を発さ無い。
この首を覆う術紋の所為ならば、壊してしまえば良い。
俺との時間を邪魔するものは、例えコイツの宝でも容赦はしない。
音を鳴らして消えた術紋を一瞥し、また目を合わせる。
震える手で喉元を触った後、覚悟を決めたかのように口を開いた。
「い、ない…あ…れ、は…ちがう」
「種の相手だ。覚えているだろう?」
「…たね、だけ…しら、ない」
イマイチ分からず記憶を覗き見て納得した。
目隠しして直接飲ませたのか。
そりゃ、知らないわな。
というか、全身を拘束されているのか?
反抗出来るのは頭だけで、指ひとつ動かない事にコイツは悲鳴をあげている。
ゆらりと揺れる目に、勿体無い、と漏らした。
キレイな翠色の目を隠し、白い肌を覆い、心地良い声を出させなかったなど……いや、むしろ良かった。
誰にも知られていない、俺だけの嫁に出来るのだから。
「大丈夫だ。必ず、お前の願いを叶えてやる」
差し出した手を逡巡して取った相手に、欲が顔を出す。
そう、大丈夫だ。
何もかも、大丈夫にしてやるよ。
「は、は、はぁ、は」
「よしよし、良い子だ瑠璃。もう少しだぞ」
「う、うゔ、は、ぁ」
後ろから抱きしめ、魔力を瑠璃の体に流していく。
事切れる手前だった瑠璃を回復させる為だ。
他人の魔力を自分の魔力に変換するのはかなり難しい事だが、瑠璃は筋が良い。
瑠璃の腹を撫でながら褒め言葉を落とし、魔力の波長を合わせていく。
瑠璃の魔力だけで子を育たせるわけにはいかない。
俺の魔力与えなければ、瑠璃に依存した子が生まれてしまう。
そうなれば俺は子が独り立ちした後瑠璃と共に各国を巡る旅に出れなくなってしまう。
それだけは避けなくてはならない。
何も知らない瑠璃に世界を見せると決めたのだから。
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