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第一章 イルネラの街
10 イルゼルト家の娘
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イルネラの街は、ウエストリア領の中でも魔物と共にある街で、街には、魔物を狩る為の冒険者や領主と約定を結んで"トゥグ"を集める契約者と呼ばれる者達が集まる。
その街にあるイルゼルト家の屋敷も他とは違い、窓には格子がはいり、広い庭園などは無く小さな中庭が作られていた。
また屋敷に魔物が入り込んだ時の為に、屋敷の中は迷路のようになっていて、屋敷の中に隠れるような場所や他の街まで行ける地下道まで作られている。
フィアとティアの二人は、そのイルゼルトの屋敷で育った。
街に出る事は許され無かったが、歳の近い二人は仲も良く、護衛に守られながらの生活は楽しいものだった。
彼女達は屋敷を歩き回り、隠し扉を使って色々な所へ行き、小さな中庭で昼寝を楽しむ。
また薬師堂で薬物の事を学んだり、騎士の館に行っては騎士達の修練を覗き見たりした。
その二人の一番の楽しみは、イルネラの街に来た冒険者達を見る事だった。
「彼は、いつまで?」
「二カ月」
「そんなに持つかしら?」
「せめて、そのくらい頑張って欲しいわ」
「今年は魔物が強くなりすぎて、始めてイルネラに来た冒険者なら、ひと月がいい所じゃない?」
「そうかもね、早く原因が収まってくれないと、街から冒険者がいなくなっちゃうわ」
魔物が多く、なかなか外に出ることが出来ない二人にとって、新しく来た者が何時までイルネラの街にいるかなど登録所の覗き窓から見て楽しむ。
「ほんと、どうにかして欲しいわ」
「彼、何時まで屋敷の騎士館で、ぶらぶらしているつもりなのかしら?」
百年以上前、緋色の炎で傷つけられた魔獣が、少しずつ目覚めているらしく、森や洞窟の魔物が活性化し強くなっていて、いつも以上に数も魔物の色も変わってきていた。
「契約者って面白くないのよね」
「稀にそれだけを仕事にしている人もいるけれど、ほとんどがどこかの家の騎士だもの」
「見ていて意外性が無いのよ」
「魔力も魔具の使い方も、ほんと普通で面白味が無いわ」
「やっぱり冒険者の方が、見ていて楽しいのよね」
「本当に、、、でも今日の人はダメね」
この遊びは何時もの事で、最近では二人の予想が外れる事はほとんど無くなっていた。
冒険者や契約者は、街に着くとまず登録所で、イルネラの街に滞在する期間を記録し、イルゼルト家と約定を結ぶ。
この約定は、森で手にした"ツゥグ"や魔石を領内から持ち出さないこと、また森で狩りをする場合に限らず、故意に人の命を奪うような行為をしないなど、そして約定に反した場合、ウエストリア領からの退去と、今後一切の立ち入りが出来ない事を了承するものとなっていた。
だがこの基本的な約定を結べば、それ以外は何をしても咎められる事は無い。
故意にと定義されている以上、そうで無い場合はどうなるのかなど、邪な事を考える者や恐れる者、何も気付かずい唯々諾々と署名する者など、この場所を訪れる者を観察するのは面白かった。
クリンを見つけたのも二人が、隠し窓から登録所を覗いていた時だった。
まだ少年と言えるくらいの年齢なのに、気負う様子も見せず、約定の意味が分からないと役人に尋ねる素直な所もある。
「へぇ、面白い」
「ほんと」
こういった場所で、分からない事を『分からない』と言える人は珍しい。
「魔力の測定も、人並み以上だわ」
「でも経験はそんなに無さそう」
「おまけに一人で来ているみたい」
「勿体ないわね、無理して森に一人で入ったら帰って来れないわ」
「魔力があっても、あの年齢では仲間に入れて貰うのも難しいだろうし」
「街の近くで狩をしても、イルネラでは生活するのも難しいわ」
ウエストリア領内でも、イルネラの街はとにかく物価が高い。
魔物に襲われる可能性がある街で、危険を承知で商売している人達にとっては当たり前で、その分、魔石や鉱石類も高額で取引されている。
魔物を狩る力があれば、多少高額な滞在費も問題にならないが、そうで無ければこの街に滞在する事さえ難しいのが実情だった。
「ねぇ、彼は何時まで?」
「三か月」
「狩の時期が終わるまでいると思う?」
「いて欲しいと思わない?」
「ふふっ、いて欲しいと思うわ」
「ふふっ、そうなったらいいわね」
その時は、二人で彼の前に現れることになるだろう。
なかなか父の後を継ぐ人が見つからなかったが、彼ならその可能性があるような気がする。
父も冒険者だった。
二人の好みとは違っていたが、二十数年前、街に来た父を母達が見染めた。
イルゼルト家は、なぜか娘が産まれる事が多く、その娘が夫を選び家を継いでいた。
イルネラの街を収めるには、冒険者や契約者を抑えるくらいの魔力と腕力、それに街を治めるだけの良識を持たねばならない。
それに相応しい人を選ぶ。
それは街を守る為でもあったし、自分達の幸せの為でもある。
他の貴族から申し込まれた事もあるが、夫として、自分達や街を任せられるとは思えず、フィアとティアが年頃と言われる年齢になっても相手が決まっていなかった。
『その時がくれば分かるわ』
母達にはよく言われたが、今までは意味が分からなかった。
でも今は良く分かる。
彼と数か月後に会えることを、楽しみにしている自分達がいる。
彼が私達に会った時に、どんな反応をするかがとても楽しみになっている。
その街にあるイルゼルト家の屋敷も他とは違い、窓には格子がはいり、広い庭園などは無く小さな中庭が作られていた。
また屋敷に魔物が入り込んだ時の為に、屋敷の中は迷路のようになっていて、屋敷の中に隠れるような場所や他の街まで行ける地下道まで作られている。
フィアとティアの二人は、そのイルゼルトの屋敷で育った。
街に出る事は許され無かったが、歳の近い二人は仲も良く、護衛に守られながらの生活は楽しいものだった。
彼女達は屋敷を歩き回り、隠し扉を使って色々な所へ行き、小さな中庭で昼寝を楽しむ。
また薬師堂で薬物の事を学んだり、騎士の館に行っては騎士達の修練を覗き見たりした。
その二人の一番の楽しみは、イルネラの街に来た冒険者達を見る事だった。
「彼は、いつまで?」
「二カ月」
「そんなに持つかしら?」
「せめて、そのくらい頑張って欲しいわ」
「今年は魔物が強くなりすぎて、始めてイルネラに来た冒険者なら、ひと月がいい所じゃない?」
「そうかもね、早く原因が収まってくれないと、街から冒険者がいなくなっちゃうわ」
魔物が多く、なかなか外に出ることが出来ない二人にとって、新しく来た者が何時までイルネラの街にいるかなど登録所の覗き窓から見て楽しむ。
「ほんと、どうにかして欲しいわ」
「彼、何時まで屋敷の騎士館で、ぶらぶらしているつもりなのかしら?」
百年以上前、緋色の炎で傷つけられた魔獣が、少しずつ目覚めているらしく、森や洞窟の魔物が活性化し強くなっていて、いつも以上に数も魔物の色も変わってきていた。
「契約者って面白くないのよね」
「稀にそれだけを仕事にしている人もいるけれど、ほとんどがどこかの家の騎士だもの」
「見ていて意外性が無いのよ」
「魔力も魔具の使い方も、ほんと普通で面白味が無いわ」
「やっぱり冒険者の方が、見ていて楽しいのよね」
「本当に、、、でも今日の人はダメね」
この遊びは何時もの事で、最近では二人の予想が外れる事はほとんど無くなっていた。
冒険者や契約者は、街に着くとまず登録所で、イルネラの街に滞在する期間を記録し、イルゼルト家と約定を結ぶ。
この約定は、森で手にした"ツゥグ"や魔石を領内から持ち出さないこと、また森で狩りをする場合に限らず、故意に人の命を奪うような行為をしないなど、そして約定に反した場合、ウエストリア領からの退去と、今後一切の立ち入りが出来ない事を了承するものとなっていた。
だがこの基本的な約定を結べば、それ以外は何をしても咎められる事は無い。
故意にと定義されている以上、そうで無い場合はどうなるのかなど、邪な事を考える者や恐れる者、何も気付かずい唯々諾々と署名する者など、この場所を訪れる者を観察するのは面白かった。
クリンを見つけたのも二人が、隠し窓から登録所を覗いていた時だった。
まだ少年と言えるくらいの年齢なのに、気負う様子も見せず、約定の意味が分からないと役人に尋ねる素直な所もある。
「へぇ、面白い」
「ほんと」
こういった場所で、分からない事を『分からない』と言える人は珍しい。
「魔力の測定も、人並み以上だわ」
「でも経験はそんなに無さそう」
「おまけに一人で来ているみたい」
「勿体ないわね、無理して森に一人で入ったら帰って来れないわ」
「魔力があっても、あの年齢では仲間に入れて貰うのも難しいだろうし」
「街の近くで狩をしても、イルネラでは生活するのも難しいわ」
ウエストリア領内でも、イルネラの街はとにかく物価が高い。
魔物に襲われる可能性がある街で、危険を承知で商売している人達にとっては当たり前で、その分、魔石や鉱石類も高額で取引されている。
魔物を狩る力があれば、多少高額な滞在費も問題にならないが、そうで無ければこの街に滞在する事さえ難しいのが実情だった。
「ねぇ、彼は何時まで?」
「三か月」
「狩の時期が終わるまでいると思う?」
「いて欲しいと思わない?」
「ふふっ、いて欲しいと思うわ」
「ふふっ、そうなったらいいわね」
その時は、二人で彼の前に現れることになるだろう。
なかなか父の後を継ぐ人が見つからなかったが、彼ならその可能性があるような気がする。
父も冒険者だった。
二人の好みとは違っていたが、二十数年前、街に来た父を母達が見染めた。
イルゼルト家は、なぜか娘が産まれる事が多く、その娘が夫を選び家を継いでいた。
イルネラの街を収めるには、冒険者や契約者を抑えるくらいの魔力と腕力、それに街を治めるだけの良識を持たねばならない。
それに相応しい人を選ぶ。
それは街を守る為でもあったし、自分達の幸せの為でもある。
他の貴族から申し込まれた事もあるが、夫として、自分達や街を任せられるとは思えず、フィアとティアが年頃と言われる年齢になっても相手が決まっていなかった。
『その時がくれば分かるわ』
母達にはよく言われたが、今までは意味が分からなかった。
でも今は良く分かる。
彼と数か月後に会えることを、楽しみにしている自分達がいる。
彼が私達に会った時に、どんな反応をするかがとても楽しみになっている。
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