エルメニア物語 - 黄金の狼は退屈な日常を満喫する -

小豆こまめ

文字の大きさ
14 / 74
第二章 ライオネル

01 出会い

しおりを挟む
 彼と初めて会ったのは、18歳になった頃だった。
 セリス様に彼の所に行って欲しいと言われた時、ため息をついた事を覚えている。

『弟との所に行っては貰えないだろうか?』
『ウルフレッド様の所に、ですか?』

『そうだ。私が側に居られればいいが、王都をなかなか離れられなくてね、色々面倒を見てやって欲しい』
『私でお役に立てるでしょうか?』
『それは大丈夫だよ、少し手がかかるかも知れないが、、、よろしく頼むよ』
『かしこまりました』

 領主の長子であるセリス様は、エルメニアで良く知られていた。

 緋色の瞳を持たなくても、彼は強い魔力を持ち、次の領主に相応しいと認められてもいた。
 
 その彼が弟の所に行けと言うなら、側近に選ばれたのだと分かったが、これで次の領主に仕える可能性も無くなったのだと残念にも思った。

 既に王都で認められているセリス様と違い、この緋色の瞳を持つ弟の事は余り知られていない。

 ほとんどウエストリアの屋敷を離れ無い彼について知っていると言えば、ウエストリア領主の証である緋色の瞳を持っている事と、“森の落し子”が一緒に育てられている事くらいだ。

「子どものお守りだな」

 8歳にもならない子どもならそんなものだろうと甘く見て、ウエストリアの屋敷に着き、それが間違いであった事を彼に会って思い知らされた。

「はじめまして」

 領主の前でにっこりと笑った少年は、いかにも育ちの良い子どもで、王都にいるセリス様が気にかけるのも理解出来た。

 選ばれたならしっかり務めを果たそう、次男と言えウエストリア領は広く、今の様に長男であるセリス様が王都でまつりごとを、次男である彼が領地を管理する可能性もある。

 それなら自分もしっかりしなくては、、、そう思っていると彼に話しかけられる。

「ライオネル殿は、なぜ此処に来られたのですか?」
「セリス様より、お側にいる様に申しつかりました。明日からよろしくお願いいたします」

 既に父である領主は席を外していて、彼と側にいるリグらしき少年に頭を下げると、今度はえらく口調の違う話し声が聞こえてくる。

「側にか、、、オルどう思う?」
「無理」
「まぁ、そうだよな」

 何の話だ? そう思い顔を上げると、先程とは全く様子の違う子どもが、ニッと笑いながら言い放った。

「側にいると言うなら、明日からしっかりついて来いよ」

 自分が考えていたのは、剣の指導や学問の手助け、時には子どものいたずらを注意して、、、その程度の考えだったが、その日から毎日、彼らについて行くと言うより、引きずり回される日々が始まった。

 翌日、食事場に行くと、赤茶と灰色に髪を染めた二人が待っていた。

「お前、遅いなぁ、今日は待っていたが、明日からは無いぞ」

 早く飯を食えと言われ、訳も分からず食事を終えると待ちくたびれたと言う様に、二人が席を立ち外に出る。

 そしてその時から、この二人はじっとしている事が片時も無かった。

 屋敷の周囲から川の上流や森の中まで歩き回るので、結局、付いて行けず屋敷に戻ると、今度は何時まで経っても彼らが戻って来ない。

 屋敷の騎士達は平気な顔をしているが、仮にも領主の息子なのに、日が暮れるまで外にいるのを許していいのか不安になった頃、顔をすすで汚した二人が戻って来た。

「この様な時間まで、どこに行っておられたのです」
「知りたければ付いて来い」

 彼にそう言われ、腹が立つのでなるべく身軽にし、次の日から彼らに付いて歩くが、こちらとは体力が違っていて話にならない。

 ひと月経つ頃、やっと数時間行動を共にする事が出来るようになったが、彼等が森に入って行くと、そこで森に入れない自分の追随は終了となる。

 これではどうにもならないと、また森に入って行こうとするので声をかける。

「ここにいますので、必ずこの場所に戻って来てください」
「ん?」
「私は森の中に入ることを許されていないので、付いて来いと言うなら、その程度譲歩して下さい」

「分かった、森から出る時はここに帰って来る」
「お願いします」

 そのまま森の中に消えて行く二人を見送り、近くに座り込んで待っていると、昼メシを食べ終わる頃に戻ってくる。

 これでこの後も何をしているのか知る事が出来ると安心していると、指笛を吹いて野生馬を呼んだかと思えば、その裸馬に乗り、

「明日からは馬に乗って来いよ」

 そう言い残して走り出す。

『やられた』

 聞いた事には返事をするし、無視する様な事はしないが、聞かれない事を教えてくれる程優しくも無い。
 8歳の子どもの側にいる事が、これほど大変だと想像する事が出来ただろうか?

 この一か月、屋敷の主人も騎士達も放置しているのだから止めてしまおうか? 

 どこに行っているのか分からないが、夕方には必ず戻って来るので、屋敷の者達も全く気にしていないのに、付いて歩く事に何の意味があるのだろう?

 何度も悩んだが、このまま十も年下の子どもに付いて来る事も出来ないのかと思われるのが悔しくて、翌日、今度は馬を用意して待っていると、彼が笑って川上に行くと走りだした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【読切短編】転生したら辺境伯家の三男でした ~のんびり暮らしたいのに、なぜか領地が発展していく~

Lihito
ファンタジー
過労死したシステムエンジニアは、異世界の辺境伯家に転生した。 三男。継承権は遠い。期待もされない。 ——最高じゃないか。 「今度こそ、のんびり生きよう」 兄たちの継承争いに巻き込まれないよう、誰も欲しがらない荒れ地を引き受けた。 静かに暮らすつもりだった。 だが、彼には「構造把握」という能力があった。 物事の問題点が、図解のように見える力。 井戸が枯れた。見て見ぬふりができなかった。 作物が育たない。見て見ぬふりができなかった。 気づけば——領地が勝手に発展していた。 「俺ののんびりライフ、どこ行った……」 これは、静かに暮らしたかった男が、なぜか成り上がっていく物語。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です! 聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。 ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。 森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ? ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

処理中です...