エルメニア物語 - 退屈な狼は茜色の瞳を溺愛する -

小豆こまめ

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04 ウエストリアへ

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 目の前で馬を走らせている男は、本当に人族なのか?
 自分達でさえそろそろ辛く感じる早駆けなのに、平気な顔をして、隣に寄って来る男達に何か指示まで与えている。

 人を傷つけてはいけないと言われているが、この男なら大丈夫なのではと思えてくる。

「うぅ」

 それにしても辛い。
 本来の姿であれば平気なのに、人の姿で馬に乗っての移動は疲れるし、面倒だし日が陰ってきた街道には人気も無い。

 ザィードとの約束は、城で狼にならないこと、人を怯えさせないこと。
 これなら狼の姿に戻っても大丈夫なんじゃないか? だんだんそんな気持ちになり始めた頃、

「よし、着いた」

 やっと前を走っていた男の馬が止まる。

 思っていたような家ではない。
 もっと大きくて物々しい家だと思っていたのに、広い場所の中にポツンとあるその家は、いかにも居心地が良さそうだった。

 それは中に入っても、部屋に案内されても変わる事がなく、近くには森もあるのか深い緑の匂いがする。

「ザィード」
「どうした」

「外をウロウロしたい、ダメかな?」
「エルメニアで姿を変えるのはダメだ」

「王都と違って外は暗い、俺達の姿を見ても分からないだろう?」
「今はダメだ、明日、ウエストリア伯に話をするまで狼になるなよ」

 自分の王の側にはいたいが、この国にいると全く面倒な事が多い。

 本来の姿にもなれないし、王都にいると魔物も出ないので、遊ぶこともない。
 夜、遊ぶ相手には不自由しないが、本当に欲しい相手では無いので、それもだんだん面倒になる。

 ザィードのように人族の番を探そうとも思わないので、何か面白い事が無いかと思っていたら、暗くなったら外に出ても良いと言われる。

「狼になってもいいのか?」
「但し、街には近づくなよ」
「わかった」

「それにこの屋敷の人達も、怖がらせないよう気を付けろよ」
「平気だと思うぞ、俺達の事、全然怖がらない」
「そうかもしれないが、人は獣を怖がるものだ」
「ふぅん」

 それから暗くなると外に出る。
 街道を外れて走り回っていると、魔物もいるのでそれらを狩って遊ぶ。

 ガルスにいる魔物とは違って、それらを狩るのも楽しいし、走り回っていると何時もとは違う色々な匂いがして面白い。

 昼間歩いている間も楽しかった。

 明るい光の中で見る麦の畑も、白い花が咲く牧草地も広くて走り回るには十分だし、目の前に広がる緑の森からは不思議な気配もする。

 案内された川の水は暖かくて、イグルスまで水の中に入ってくるので、一緒に魚を捕まえて遊ぶことも出来る。
 王都と呼ばれる場所は面倒だが、ここならずっといても退屈しないで済みそうだ。

 やっと面白い場所に来たと思っていると、街に行くと言うので面倒だなあと思う。

 ここは思った以上に楽しい場所だった。
 食事場に行けば、大きな声でよく笑う女性が、いつでも食事を出してくれる。

「おや、何か食べるかい?」
「うん」

「よし、ここでいいかい? それとも部屋に運ぶかい?」
「ここで食べるよ」
「わかった、ちょっと待っておいで」

 彼女が奥に入って少し待っていると、いい匂いがしてとても美味しい食事が出てくる。

 最初は煩わしいかと思った食事場での食事も、自分達の事を知っているのか、側に人が来ないので落ち着いて食べることも出来た。

 街に行くと人が多いし、時々変な匂いもして楽しくなくなる。

 まぁ暗くなったら此処に戻ってくればいいさ、そんな事を考えながら連れて行かれた所は思った以上に変な場所だった。
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