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11 約束(1)

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「ザィードはなんで迷っているんだ?」

 長い冬が終わってティナのいる国に戻って来たと思えば、ザィードの番が急にいなくなって、目を覚さなくなり、ずっと危険な状態だった。
 やっと安心出来るようになったのも、ザィードがずっと魔力を与えていたからで、彼がいなければ助からなかった。
 側にいて守っていないとダメなのに、今度は彼の方が近づけなくなっている。

「ザィード様は、母上を亡くされているからな、失う事に特に敏感だ」
「陛下の番は生きているだろ?」

「ルエナ様では無いよ、ノーラ様と言ってザィード様と同じ菫色の瞳を持った、とても綺麗な方だったそうだぞ、長く番を持たなかった陛下が、一目見た時から片時も側から離さなかったらしい」

「亡くなられたのか?」
「ザィード様が7歳の頃だな。元々、獣人にしては体の弱い人で、ほとんど本来の姿になる事も無く、長い間子も産まなかった。
 お前の嫌いな城の老人達が、ノーラ様と同じ瞳を持ったザィード様を母親に似ているのでは? と考えたのも仕方がないだろう?」

「見れば分かる」
「ザィード様は見せなかったからな、母親が亡くなるまで陛下の付けた紐も切らなかった」

 獣人は10歳くらいになると、親の付けた紐が切れる。親の保護が必要無くなったと言う意味で、そうなると例え息子でも、番の側に近づけない雄は多い。

 強い子どもがもっと早く紐を切れば、例え母親が望んでも、子どもを番の側には置かないだろう。
 
 獣人は番に対して独占欲が強いので、息子でも若い雄が自分の番に近づくのを嫌がるのは、そう珍しい事ではなかった。

「ずっと母親の側にいたのか?」
「らしいな」

「ノーラ様は出産後、ほとんど部屋から出なくなっていたみたいだし、陛下も魔力をノーラ様に与えていたみたいだが、結局、命を引き延ばす事は出来ないからな」

 少しずつ弱っていく母親を、何年も側で見ていたなら、いずれ失う辛さを恐ろしいと思う気持ちも理解出来る。

 部屋に戻って横になっていると、ザィードが欲しかった知らせを持って来てくれる。

「サイラス、ローエングルグ家の令嬢と約束事が決まったぞ」
「ティナを番にしていいのか?」

「そう言う事だ、転移門の調整ができ次第、ウエストリアの方に行けるだろう」
「分かった」

「、、、サイラス、、、お前はいいのか?」

 ザィードの気持ちは分かる、それでも。

「ティナを失うのは嫌だ、だけどティアを他の男に取られるのはもっと嫌だ」

「ハハ、そうだな、、、確かにお前の言う通りだ」

 人を番に選べば必ず失う時が来る、それでも誰にも渡したくない。
 
 彼女は僕のとても大切な人なのだから、いつも側にいて守ってあげたいし、側で笑っていて欲しい、、、ずっと彼女が僕の側にいてくれる限り。
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