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第1章

02 カリーナの夢

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 カリーナの夢は、両親のように恋をして大好きな人と一緒に暮らす事だ。

 五年前、自分に婚約話があった事は知っている。
 ロアンお義兄様の妻が、知る必要の無い事を知らせて来るのはいつもの事で、その話が無くなった事もその理由も教えてくれた。

 彼が惹かれていた人が誰か分かれば当たり前だと思えたし、その人との話が無くなった事も残念には思わなかった。

 カリーナの理想は昔から変わらず一人だけだ。

 両親をそして母や私をずっと守ってくれた人。

 父が亡くなった後もそうだった。
 ウエストリアにあっても父と暮らしていた屋敷は、王室が管理していた物で、父が亡くなれば、立場上使用人でしかなかった母も私も出て行くしか無かった。

 その時もおじ様が、私達をサウストリアのイスレイン家に連れて来てくれた。
 使用人のはずなのに、客人か娘かの様に迎えられ、一年が過ぎる頃、本当に母はイスレイン家の娘になっていた。

 母や私が貴族としての生活が出来るようにおじ様が手を貸してくれたと分かったし、その後、母が亡くなった時も同じだった。

「王都にね、僕の姉に当たる人がいる」
「おじ様の?」
「うん、既に別の方に嫁いておられるが、君の事は知っているし、可愛がってくれるだろう」

「王都に行くの?」
「もちろん、このままイスレイン家にいても良いのだよ?」
「王都に行きたい」
「そうか、ではフレリア様にお願いしよう」

 イスレイン家が嫌な訳では無かった。
 只、サウストリアにいるとおじ様に会う事が無く、それが寂しかったので、おじ様の近くに行きたかった。

 フレリア様の娘になってから、何より変わったのは、色々な人が養母に会いに来るのを見ることだったが、誰を見てもおじ様以上の人はいない。

 とは言え16歳になるカリーナもそろそろお年頃になる。
 自分がいくら公爵家に娘として向かえられていても、エルメニアの貴族社会で生きるのは難しい事は知っているし興味もない。

 でもこのまま好きな人も出来ないうちに、どんどん年だけとっていくなんて寂しすぎる。

 やっぱりこの国を出るのが一番なのでは無いだろうか?
 エルメニアの北には、ガルスと言う国がある。

 数年前、大好きな人が、その国の人と恋をして、その人と暮らす為に旅立った国。

 彼女が北の王国に行ってから、あの国は随分変わったと聞くし、カリーナが望めば彼女はきっと快く受け入れてくれるだろう。

 でも彼女の選んだ人は、とても優しいが真っ直ぐな人で、カリーナの理想とちょっと違っている。

「おじ様みたいな人がいいわ」
「まぁ、お母様みたいな人っているのね」

「素敵な人だもの」
「いつも一緒にいる人が、何を考えているか分からないなんて嫌だわ」

「悪い事を考えている訳では無いのだから」
「悪い事を考えているかも知れないわ」

「大丈夫よ、おじ様だもの」
「やっぱりカリーナが心配だわ」

「殿下の事は分かるの?」
「分かりやすい人だもの、獣人だからなのかも知れないけれど、私はその方が好きよ」

 彼女が言っていた様に、ガルスの人達が殿下の様に真っ直ぐな人達なら、カリーナが惹かれる様な人がいるとは思えない。

 おじ様みたいに優しくて、神秘的で、素敵な人っていないのかしら?
 それとも私の理想が高すぎて、見つからないだけなのかしら?
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