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第1章
03 イレーネ
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「“すいとんの術”? なあにそれ?」
「水の中に潜って隠れる方法? かしら」
「水の中に潜るの?」
「本当に入る訳では無いのよ、そんな気持ちで人の話を聞いているってこと。
水の上で、何を言われても聞こえないのだから気にする必要は無いってことよ」
「まぁ、素敵ね。でも私に出来るかしら?」
「大丈夫よ、とっても上手な人が側にいるじゃない」
「上手な人?」
「フレリア様よ。公爵夫人が、彼女のお茶会で話される事を全て聞いているはずが無いわ。
必要な事だけ耳に入れて、後はニッコリ笑って、右から左に“すいとんの術”よ」
嫌な事を伝えに来る人がいるので、どうしようかと言ったカリーナによく笑う人が教えてくれた。
彼女は暖かくなるとこの国にやって来るが、領地に戻ってしまう事も多く、なかなか一緒にはいられない。
「貴方、私の言っている事を聞いているの?」
「申し訳ありません、今日は朝から体調が思わしくなく、、、」
目の前のいる人に意識を戻す。
イレーネ・アウスレーゼ第一夫人。
この人には、この屋敷に来た時から嫌われていた。
「貴方、自分の両親が何をしたか知っていて、ここに来たの? 本当に厚かましい」
当時のカリーナは、何を言われているのか分からなかった。
それまでカリーナの周りには、フレリア様やおじ様の大切な人が亡くなった事など、敢えて話すような人はいなかったので、父が幽閉されていた事は知っていても、その時に何があったのか詳しい話は知らなかった。
聞かされた当時は辛かったし、おじ様やフレリア様のことも随分困らせたが、いまでは彼らの愛情を信じているし、この人に何か言われても聞き流すくらい出来るようになった。
今でもタリム王の長女でもあったこの人が、私を嫌う理由も多少理解できるが、お義兄様が第二夫人を迎えた理由は私とは関係無い。
「この家にいるべきでない人がいるから、こんな事になるのよ」
「それは気が付きませんでした」
「仕方ないわよね、嫁ぎ先も決まらないのだから」
「それは申し訳ありません」
勝手に決められるのは困るわと思いながら返事を返す。
この後も同じ様な話が続くが、“すいとんの術”のおかげで気にもならない。
それにしてもこの人は、どうして変わらないのだろう?
この国で“望まぬ婚姻“は、ほとんど行われない。
勿論、色々な理由で嫁ぐ必要もあるが、子どもがいない場合、解消する事は難しくない。
元々、エルメニアの貴族達が複数の妻を持つのは、強い魔力を持った跡継ぎが必要だからだった。
王都は城壁に魔道具があるので、魔物に襲われる事はないが、王都を離れれば魔物が襲ってくる。
領地や領民を魔物から守るためには、魔力が必要で、魔力がない領主は、領地を持つことも出来ない。
側室では無く夫人としたのは、強い魔力を持った者を跡継ぎに出来るからで、家の相続に必要なのは、妻の家柄でも、生まれた順番でもなく、いかに強い魔力を持つかが重視される。
子どもが出来ないなら、相性が悪かったのだと解消しても、女性が次に嫁ぐまで生活の保障はされるので、嫌な相手なら別れてしまえばいいだけの話だった。
義兄とイレーネ様との間に子どもは無く、いくら彼女が王室の人でも婚姻の解消が出来ない訳ではない。
それに双方の合意という点でも、義兄が拒否するとは考えにくい。
みごとな金髪とハシバミ色の瞳。
艶やかでとても美しい人だが、兄は茶色の髪と瞳を持った可愛らしい平民の娘を第二夫人に迎えた。
流石に平民の娘を公爵家に入れる事は出来ないので、子爵家の養女になっているが、彼女が平民の出である事は周知されている。
「水の中に潜って隠れる方法? かしら」
「水の中に潜るの?」
「本当に入る訳では無いのよ、そんな気持ちで人の話を聞いているってこと。
水の上で、何を言われても聞こえないのだから気にする必要は無いってことよ」
「まぁ、素敵ね。でも私に出来るかしら?」
「大丈夫よ、とっても上手な人が側にいるじゃない」
「上手な人?」
「フレリア様よ。公爵夫人が、彼女のお茶会で話される事を全て聞いているはずが無いわ。
必要な事だけ耳に入れて、後はニッコリ笑って、右から左に“すいとんの術”よ」
嫌な事を伝えに来る人がいるので、どうしようかと言ったカリーナによく笑う人が教えてくれた。
彼女は暖かくなるとこの国にやって来るが、領地に戻ってしまう事も多く、なかなか一緒にはいられない。
「貴方、私の言っている事を聞いているの?」
「申し訳ありません、今日は朝から体調が思わしくなく、、、」
目の前のいる人に意識を戻す。
イレーネ・アウスレーゼ第一夫人。
この人には、この屋敷に来た時から嫌われていた。
「貴方、自分の両親が何をしたか知っていて、ここに来たの? 本当に厚かましい」
当時のカリーナは、何を言われているのか分からなかった。
それまでカリーナの周りには、フレリア様やおじ様の大切な人が亡くなった事など、敢えて話すような人はいなかったので、父が幽閉されていた事は知っていても、その時に何があったのか詳しい話は知らなかった。
聞かされた当時は辛かったし、おじ様やフレリア様のことも随分困らせたが、いまでは彼らの愛情を信じているし、この人に何か言われても聞き流すくらい出来るようになった。
今でもタリム王の長女でもあったこの人が、私を嫌う理由も多少理解できるが、お義兄様が第二夫人を迎えた理由は私とは関係無い。
「この家にいるべきでない人がいるから、こんな事になるのよ」
「それは気が付きませんでした」
「仕方ないわよね、嫁ぎ先も決まらないのだから」
「それは申し訳ありません」
勝手に決められるのは困るわと思いながら返事を返す。
この後も同じ様な話が続くが、“すいとんの術”のおかげで気にもならない。
それにしてもこの人は、どうして変わらないのだろう?
この国で“望まぬ婚姻“は、ほとんど行われない。
勿論、色々な理由で嫁ぐ必要もあるが、子どもがいない場合、解消する事は難しくない。
元々、エルメニアの貴族達が複数の妻を持つのは、強い魔力を持った跡継ぎが必要だからだった。
王都は城壁に魔道具があるので、魔物に襲われる事はないが、王都を離れれば魔物が襲ってくる。
領地や領民を魔物から守るためには、魔力が必要で、魔力がない領主は、領地を持つことも出来ない。
側室では無く夫人としたのは、強い魔力を持った者を跡継ぎに出来るからで、家の相続に必要なのは、妻の家柄でも、生まれた順番でもなく、いかに強い魔力を持つかが重視される。
子どもが出来ないなら、相性が悪かったのだと解消しても、女性が次に嫁ぐまで生活の保障はされるので、嫌な相手なら別れてしまえばいいだけの話だった。
義兄とイレーネ様との間に子どもは無く、いくら彼女が王室の人でも婚姻の解消が出来ない訳ではない。
それに双方の合意という点でも、義兄が拒否するとは考えにくい。
みごとな金髪とハシバミ色の瞳。
艶やかでとても美しい人だが、兄は茶色の髪と瞳を持った可愛らしい平民の娘を第二夫人に迎えた。
流石に平民の娘を公爵家に入れる事は出来ないので、子爵家の養女になっているが、彼女が平民の出である事は周知されている。
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