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第1章
05 公爵邸(2)-アレスside
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あれから四年が経とうとしている。
初めて心敷かれた人は、今は北の国で暮らしていて相変わらず幸せだと笑っている。
あの時、彼女とは仕事の付き合いと割り切ったおかげで、彼女は他国に行っても自分を商売の相手に選んでくれた。
その為、ガルスの商品をノア商会で扱う事ができ、大きな利益になっていて、ここ数年は仕事の方がずっと忙しい。
若い頃はそれなりに遊んだが、あれ以来、女性との付き合いも興味が持てず、忙しさにかまけてすっかり枯れた生活を送っている。
数週間前にあった人を思い出す、春の社交界に現れず、体調を崩していると聞いていたので心配したが、その理由を知って安心したのと同時に、何となく羨ましい気持ちになった。
「思ったより彼が冷静で良かったよ」
「落ち着いたのはつい最近なのよ、それまでは本当に大変だったの」
「初めてなのだから、仕方がないだろう」
彼が妻のことを必要以上に心配するのは何時もの事で、常に何かを考え、行動する妻の側にいるのは大変だろうと思えるが、それさえも嬉しそうにしている彼を見ていると、自分にはこうした相手もいないのだと実感する。
商売は上手くいっているし、今の生活にも満足している。
だが、ぽっかりと穴の空いた様な、物足りない何かを感じるのも事実だった。
最初の婚約を断った後も、何度か家の方から相手にどうかと言われたがその気になれず、貴族院から送られる令状も全て送り返していたら、女性に興味がないのではと噂になり、それからは社交界で声も掛けられない状態になった。
ロアンとの友人関係はずっと続いていたので、これで彼が別宅を持っていなければ、イレーネ様との間に子どもが無かったのは、そう言う意味かと言われ兼ねない所だっただろう。
そんな事を考えながらロアンが戻るまで公爵邸の庭園を歩いていると、その彼が別宅にいる様になった原因の女性と一人の少女の話声が聞こえてくる。
この家に来た当時は、義姉の言葉に傷つけられ、少女がよく泣いていた事を思い出し、まだ続いているのかと心配していると、彼女の返答を聞いて笑い出しそうになった。
「それは、気が付きませんでした」
「それは、申し訳ありません」
公爵夫人がお茶会などで良くあんな風に返事をしていたりする。
一体誰に教わったのか知らないが、数年ぶりに会った少女は随分と大人になっているみたいだった。
これなら放っておいて大丈夫だろうと、離れようとすると自分の事を話しているのが聞こえてくる。
「それは、残念に思います」
声の中にほんの少し、その気持ちがある様に感じ、どんな顔をしているのか見たくなるが、ロアンが屋敷の方で手を振っているのも見える。
ここで声でも掛けられて二人の話を盗み聞きしていたと知られるのはバツが悪いし、彼女達にも恥ずかしい思いをさせる事になる。
気にはなるがその場所を離れる事にし、なぜこれ程、彼女の答えが気になるのだろう? と不思議に思う。
数年前、彼女との婚約話を断ったのは自分だった。
12歳の少女との話を無かった事にして、他の女性を望んだ相手を快く思うはずも無く、残念に思っているのは、あれ以来気まずくて公爵邸にも来なくなった相手に、文句の一つも言えなかった事かも知れないな。
などと妙に納得しながらその場を離れる。
彼女は既に16歳になっているはずで、成長した少女はどんな風に変わったのだろう。
どうやら性格は、育てた公爵夫人に似ているようだし、あの調子なら、きっと何処にいてもやっていけるだろう。
『少し早まったのかな』
自分が知っているのは、他人の言葉に傷ついて泣いているだけの女の子だったが、その小さな女の子はしっかり成長したらしい。
先を見通せないのは相変わらずだ。
商売に関しては問題なく出来るはずなのに、恋愛事になるとさっぱり働かなくなってしまうのは、今も昔も変わっていない。
初めて心敷かれた人は、今は北の国で暮らしていて相変わらず幸せだと笑っている。
あの時、彼女とは仕事の付き合いと割り切ったおかげで、彼女は他国に行っても自分を商売の相手に選んでくれた。
その為、ガルスの商品をノア商会で扱う事ができ、大きな利益になっていて、ここ数年は仕事の方がずっと忙しい。
若い頃はそれなりに遊んだが、あれ以来、女性との付き合いも興味が持てず、忙しさにかまけてすっかり枯れた生活を送っている。
数週間前にあった人を思い出す、春の社交界に現れず、体調を崩していると聞いていたので心配したが、その理由を知って安心したのと同時に、何となく羨ましい気持ちになった。
「思ったより彼が冷静で良かったよ」
「落ち着いたのはつい最近なのよ、それまでは本当に大変だったの」
「初めてなのだから、仕方がないだろう」
彼が妻のことを必要以上に心配するのは何時もの事で、常に何かを考え、行動する妻の側にいるのは大変だろうと思えるが、それさえも嬉しそうにしている彼を見ていると、自分にはこうした相手もいないのだと実感する。
商売は上手くいっているし、今の生活にも満足している。
だが、ぽっかりと穴の空いた様な、物足りない何かを感じるのも事実だった。
最初の婚約を断った後も、何度か家の方から相手にどうかと言われたがその気になれず、貴族院から送られる令状も全て送り返していたら、女性に興味がないのではと噂になり、それからは社交界で声も掛けられない状態になった。
ロアンとの友人関係はずっと続いていたので、これで彼が別宅を持っていなければ、イレーネ様との間に子どもが無かったのは、そう言う意味かと言われ兼ねない所だっただろう。
そんな事を考えながらロアンが戻るまで公爵邸の庭園を歩いていると、その彼が別宅にいる様になった原因の女性と一人の少女の話声が聞こえてくる。
この家に来た当時は、義姉の言葉に傷つけられ、少女がよく泣いていた事を思い出し、まだ続いているのかと心配していると、彼女の返答を聞いて笑い出しそうになった。
「それは、気が付きませんでした」
「それは、申し訳ありません」
公爵夫人がお茶会などで良くあんな風に返事をしていたりする。
一体誰に教わったのか知らないが、数年ぶりに会った少女は随分と大人になっているみたいだった。
これなら放っておいて大丈夫だろうと、離れようとすると自分の事を話しているのが聞こえてくる。
「それは、残念に思います」
声の中にほんの少し、その気持ちがある様に感じ、どんな顔をしているのか見たくなるが、ロアンが屋敷の方で手を振っているのも見える。
ここで声でも掛けられて二人の話を盗み聞きしていたと知られるのはバツが悪いし、彼女達にも恥ずかしい思いをさせる事になる。
気にはなるがその場所を離れる事にし、なぜこれ程、彼女の答えが気になるのだろう? と不思議に思う。
数年前、彼女との婚約話を断ったのは自分だった。
12歳の少女との話を無かった事にして、他の女性を望んだ相手を快く思うはずも無く、残念に思っているのは、あれ以来気まずくて公爵邸にも来なくなった相手に、文句の一つも言えなかった事かも知れないな。
などと妙に納得しながらその場を離れる。
彼女は既に16歳になっているはずで、成長した少女はどんな風に変わったのだろう。
どうやら性格は、育てた公爵夫人に似ているようだし、あの調子なら、きっと何処にいてもやっていけるだろう。
『少し早まったのかな』
自分が知っているのは、他人の言葉に傷ついて泣いているだけの女の子だったが、その小さな女の子はしっかり成長したらしい。
先を見通せないのは相変わらずだ。
商売に関しては問題なく出来るはずなのに、恋愛事になるとさっぱり働かなくなってしまうのは、今も昔も変わっていない。
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