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第2章
03 旅の途中(3) -ファリスside
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ウエストリア領は一人の領主が統治していたが、その領主と五つの家が大きな街とその周辺の土地を管理している。
イルゼルト家
ローエングルグ家
リュノア家
カストリア家
そしてファリスのラングロア家
父の仕えるウエストリアの若き領主は、王都での政治に興味を持たず、彼が領主になった頃からウエストリアは大きく変わって行った。
『あの方は昔からよく人を拾って来る』
父がよく言っていたが、通常、領主である貴族達は、領民を増やす事を嫌う。
自分の土地に迎え、約定を結べば守る必要が出来るし、利益が上がっても領民が増えればそれだけ支払う金が増えるので、自分の所に残る金が減ってしまうからだ。
だが彼は気にすることなく、自分の領地に多くの者を迎え入れたし、実際その迎いいれた者達の多くが彼の力にもなっていた。
“フレの糸”にしても、彼が思いついた事だが、糸として紡ぎ、美しい色に染色し、刺繍の技術を向上させ、それをエルメニアの社会に浸透させるには、多くの人達が関与していて、それには何年も前から領主が拾ってきた多くの人が関係していた。
街道の整備、農具や魔道具の開発から作成まで、役に立たない物も多く、時にはある農地が数年使えなくなった事もあったようだが、それを聞くと大声で笑うような人で、それを咎めるような人でもなかった。
それらの変化の中で、ウエストリア領の中でも東側に位置し、転移門のあるタルパスの街にいた父は多忙な人だった。
任されていた土地も広く、領主の若い頃からの側近でもあった父は、彼に呼ばれて家を空ける事も多い。
跡継ぎであった兄もその留守をまもり、忙しい毎日を送っていた。
その中で、ファリスは甘やかされて育った。
大変な時期は既に終わっていて、余裕のある生活の中で生まれた息子を母は溺愛した。
既に兄と言う立派な跡継ぎを育てていた母が、年の離れた弟をそれほど甘やかすとは思っていなかった父が気付いた時には、すっかり出来の悪い息子が出来上がっていた。
魔力だけは人並み以上に持っていたが、それを上手く使いこなせるような腕は無く、勉学も剣術も父が呆れるような状態だった。
おまけに自尊心だけは人並み以上に持っているので、始末に負えない。
結局、呆れかえった父にそんなに自信があるなら一人でやってみろと16歳の時、家を追い出された。
追い出されてやっと今まで自分の周りにあった多くが、自分の物ではなく、家や両親が与えてくれたものだと知ることになった。
食べる事も寝る場所も無くなり、友人であったノエルを頼ってイルネラの街に行くと、そこに二人の先客がいた。
領主の息子である緋色の瞳を持った少年と、空色の瞳をした学び舎の長の息子。
大切な人が他国に行ってしまって落ち込んでいても、彼らはウエストリア家とリュノア家の跡継ぎで、何も持っていない自分とは全く違っている。
少し腕を磨いて来いと送り込まれたと言っても、彼らの将来は約束されているのだから贅沢なものだと最初は反発し、喧嘩もしたが、二年近く同じ時間を共有し彼らとも友人になった。
その間に、イルゼルト家の娘に選ばれてそこに残ることになったリオンや、ノエルは愛しい娘を見つけて家を出る事になったが、目的の見つからない自分はアルフレッド達とその後、二年余りを一緒にいた。
結局、その間も何も見つけられず、エルメニアに戻って騎士見習いから始めた自分が、始めて楽しいと思えたのが彼女に魔力の使い方を教えることだった。
自分と同じ風を扱うことを得意とした少女の指導は楽しかった。
人にものを教えるのも意外と面白いものだったが、この少女は素直で、表情が良く変わるのも可愛かった。
彼女の状況は知っていたが、暗い所はなく、前向きで明るく、公爵邸から外に余り出ていないはずなのに、世事にも疎くなく、良く学んでもいた。
自分が同じ頃とは全く違っていて、情けなくもなるが、そんな彼女に“先生”と呼ばれるのは気恥ずかしく嬉しいものだった。
その少女が人気のない暗がりで、自分を見つめて『お願い』と口にする。
意味が違う事は分かっているが、本当に止めて欲しい。
ここで彼女に手でも出して傷つけたら、彼女の二人の親と他国にいる姉から、どんな仕打ちを受けるか想像するだけで恐ろしい。
イルゼルト家
ローエングルグ家
リュノア家
カストリア家
そしてファリスのラングロア家
父の仕えるウエストリアの若き領主は、王都での政治に興味を持たず、彼が領主になった頃からウエストリアは大きく変わって行った。
『あの方は昔からよく人を拾って来る』
父がよく言っていたが、通常、領主である貴族達は、領民を増やす事を嫌う。
自分の土地に迎え、約定を結べば守る必要が出来るし、利益が上がっても領民が増えればそれだけ支払う金が増えるので、自分の所に残る金が減ってしまうからだ。
だが彼は気にすることなく、自分の領地に多くの者を迎え入れたし、実際その迎いいれた者達の多くが彼の力にもなっていた。
“フレの糸”にしても、彼が思いついた事だが、糸として紡ぎ、美しい色に染色し、刺繍の技術を向上させ、それをエルメニアの社会に浸透させるには、多くの人達が関与していて、それには何年も前から領主が拾ってきた多くの人が関係していた。
街道の整備、農具や魔道具の開発から作成まで、役に立たない物も多く、時にはある農地が数年使えなくなった事もあったようだが、それを聞くと大声で笑うような人で、それを咎めるような人でもなかった。
それらの変化の中で、ウエストリア領の中でも東側に位置し、転移門のあるタルパスの街にいた父は多忙な人だった。
任されていた土地も広く、領主の若い頃からの側近でもあった父は、彼に呼ばれて家を空ける事も多い。
跡継ぎであった兄もその留守をまもり、忙しい毎日を送っていた。
その中で、ファリスは甘やかされて育った。
大変な時期は既に終わっていて、余裕のある生活の中で生まれた息子を母は溺愛した。
既に兄と言う立派な跡継ぎを育てていた母が、年の離れた弟をそれほど甘やかすとは思っていなかった父が気付いた時には、すっかり出来の悪い息子が出来上がっていた。
魔力だけは人並み以上に持っていたが、それを上手く使いこなせるような腕は無く、勉学も剣術も父が呆れるような状態だった。
おまけに自尊心だけは人並み以上に持っているので、始末に負えない。
結局、呆れかえった父にそんなに自信があるなら一人でやってみろと16歳の時、家を追い出された。
追い出されてやっと今まで自分の周りにあった多くが、自分の物ではなく、家や両親が与えてくれたものだと知ることになった。
食べる事も寝る場所も無くなり、友人であったノエルを頼ってイルネラの街に行くと、そこに二人の先客がいた。
領主の息子である緋色の瞳を持った少年と、空色の瞳をした学び舎の長の息子。
大切な人が他国に行ってしまって落ち込んでいても、彼らはウエストリア家とリュノア家の跡継ぎで、何も持っていない自分とは全く違っている。
少し腕を磨いて来いと送り込まれたと言っても、彼らの将来は約束されているのだから贅沢なものだと最初は反発し、喧嘩もしたが、二年近く同じ時間を共有し彼らとも友人になった。
その間に、イルゼルト家の娘に選ばれてそこに残ることになったリオンや、ノエルは愛しい娘を見つけて家を出る事になったが、目的の見つからない自分はアルフレッド達とその後、二年余りを一緒にいた。
結局、その間も何も見つけられず、エルメニアに戻って騎士見習いから始めた自分が、始めて楽しいと思えたのが彼女に魔力の使い方を教えることだった。
自分と同じ風を扱うことを得意とした少女の指導は楽しかった。
人にものを教えるのも意外と面白いものだったが、この少女は素直で、表情が良く変わるのも可愛かった。
彼女の状況は知っていたが、暗い所はなく、前向きで明るく、公爵邸から外に余り出ていないはずなのに、世事にも疎くなく、良く学んでもいた。
自分が同じ頃とは全く違っていて、情けなくもなるが、そんな彼女に“先生”と呼ばれるのは気恥ずかしく嬉しいものだった。
その少女が人気のない暗がりで、自分を見つめて『お願い』と口にする。
意味が違う事は分かっているが、本当に止めて欲しい。
ここで彼女に手でも出して傷つけたら、彼女の二人の親と他国にいる姉から、どんな仕打ちを受けるか想像するだけで恐ろしい。
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