13 / 58
第2章
06 旅の途中(6) -アンside
しおりを挟む
アンはノーストリア家に古くから仕えている女中頭で、多くの使用人を育て、他家に紹介し、また嫁がせてもいた。
長く同じ仕事をしていれば、人を見る目も養われてくるものだが、特にどのような娘を雇うべきか見極めるには、こうして同じ仕事をさせるのが一番分かり易い。
同じような年頃の娘達が集まれば、必ず中心的な娘が現れ、その娘がどの様な性根を持っているかで、その集まりの性質が変わってくる。
その娘が怠け者であれば、その集まりは怠け者になりがちだし、勤勉であれば、その集まりもそうなる可能性が高い。
そういう意味で、今回は心配していた。
年長のミラと言う娘は、見た目も派手で、旅の間に出来れば相手を探したいと思っているのが現れていて、大変な事になるかと思っていたが、これがそうはならなかった。
この娘は、自分をアピールする事も勿論忘れないが、良く動くし、年少の娘達の面倒をよく見た。
彼女が動くので、他の娘達も気持ちよく働き、アナにとってこの旅は、良い意味で考えていた物とは違っていた。
そしてその中で、ノアの屋敷に是非連れて帰りたい娘がいた。
無口で大人しく、他の娘達とは違った雰囲気を持つこの娘は、輪の中に入る訳でもなく、かと言って外れている訳でもない不思議な立ち位置で、自分の状況を楽しんでいるようだった。
どちらかと言えば、こうした娘は嫌われる事も多いが、彼女は仲間達にも可愛がられている。
仕事ぶりも真面目で、周りも良く見えているので、手の足りない所を手伝って、仲間を助けていたりするし、よく見れば立ち居振る舞いも違っていて、何か事情があって使用人の仕事をしているのではと思える時もある。
「アン、何か困っている事はないか?」
「困っている事ですか? 特に思い当たりませんが、何か気になる事でもありましたでしょうか?」
「いや、何もないならいいんだ。若い娘達だからね、ちょっと気になっただけだよ、わざわざ呼び出して悪かったよ」
「いいえ、とんでもありません。坊ちゃまも何かあれば、何でも申し付けて下さい」
アレス坊ちゃまの天幕から戻りながら、これは思った以上に、坊ちゃまがあの娘を気に入ったのでは無いかと思えてくる。
今までも何度かこうして商隊に付いて来たが、アンを呼び出してまで使用人の事を尋ねられた覚えは無い。
五年前、アレス坊ちゃまが屋敷を持つと聞いた時、アンは是非にと望んで、ノーストリアの屋敷からノアの家にやって来た。
家を持つという事は、妻を迎えると言う意味で、ずっとお一人だったアレス坊ちゃまが奥様を迎えるなら、しっかり家を整えてお迎えしなければと、喜び勇んで王都に来たが、結局、その家に坊ちゃまの大切な人が現れる事は無かった。
その後も、女性の影さえ現れず、妙な噂話まで出てくる始末。
いくら“あの事件”で貴族院の力が弱くなったとは言え、もう少し頑張って貰いたいとさえ思ってが、あの娘なら良いのではないだろうか?
今まで使用人が夫人になるなど考えた事は無かったが、ロアン様の事をみていると何も問題ない様に思えてくる。
事情があってこの様な状況に陥っている娘なら、ミリアの時よりずっと簡単かも知れないと、坊ちゃまの目に留まるよう食事を運ばせてみると、翌日、坊ちゃまの方から使用人達の様子はどうかと聞かれたのだから、期待しないではいられない。
『他の騎士達の目にでも止まったら大変だわ、申し訳ないけれど、カナには裏方の仕事をして貰いましょう』
もちろん坊ちゃまの所には行って貰いたいが、同じ娘が食事を運んでばかりいては、変に思われてしまうだろう。
『焦らないようにしないとね、勘のいい坊ちゃまに気付かれてしまっては元も子もないわ』
目に入ればきっと気にいるに違いない。
まだ少し幼いが、後二年もすれば、花が開くように美しくなるだろう。
それに気が付かない坊ちゃまでは無いはずなので、是非、屋敷に連れ帰って貰いたい。
長く同じ仕事をしていれば、人を見る目も養われてくるものだが、特にどのような娘を雇うべきか見極めるには、こうして同じ仕事をさせるのが一番分かり易い。
同じような年頃の娘達が集まれば、必ず中心的な娘が現れ、その娘がどの様な性根を持っているかで、その集まりの性質が変わってくる。
その娘が怠け者であれば、その集まりは怠け者になりがちだし、勤勉であれば、その集まりもそうなる可能性が高い。
そういう意味で、今回は心配していた。
年長のミラと言う娘は、見た目も派手で、旅の間に出来れば相手を探したいと思っているのが現れていて、大変な事になるかと思っていたが、これがそうはならなかった。
この娘は、自分をアピールする事も勿論忘れないが、良く動くし、年少の娘達の面倒をよく見た。
彼女が動くので、他の娘達も気持ちよく働き、アナにとってこの旅は、良い意味で考えていた物とは違っていた。
そしてその中で、ノアの屋敷に是非連れて帰りたい娘がいた。
無口で大人しく、他の娘達とは違った雰囲気を持つこの娘は、輪の中に入る訳でもなく、かと言って外れている訳でもない不思議な立ち位置で、自分の状況を楽しんでいるようだった。
どちらかと言えば、こうした娘は嫌われる事も多いが、彼女は仲間達にも可愛がられている。
仕事ぶりも真面目で、周りも良く見えているので、手の足りない所を手伝って、仲間を助けていたりするし、よく見れば立ち居振る舞いも違っていて、何か事情があって使用人の仕事をしているのではと思える時もある。
「アン、何か困っている事はないか?」
「困っている事ですか? 特に思い当たりませんが、何か気になる事でもありましたでしょうか?」
「いや、何もないならいいんだ。若い娘達だからね、ちょっと気になっただけだよ、わざわざ呼び出して悪かったよ」
「いいえ、とんでもありません。坊ちゃまも何かあれば、何でも申し付けて下さい」
アレス坊ちゃまの天幕から戻りながら、これは思った以上に、坊ちゃまがあの娘を気に入ったのでは無いかと思えてくる。
今までも何度かこうして商隊に付いて来たが、アンを呼び出してまで使用人の事を尋ねられた覚えは無い。
五年前、アレス坊ちゃまが屋敷を持つと聞いた時、アンは是非にと望んで、ノーストリアの屋敷からノアの家にやって来た。
家を持つという事は、妻を迎えると言う意味で、ずっとお一人だったアレス坊ちゃまが奥様を迎えるなら、しっかり家を整えてお迎えしなければと、喜び勇んで王都に来たが、結局、その家に坊ちゃまの大切な人が現れる事は無かった。
その後も、女性の影さえ現れず、妙な噂話まで出てくる始末。
いくら“あの事件”で貴族院の力が弱くなったとは言え、もう少し頑張って貰いたいとさえ思ってが、あの娘なら良いのではないだろうか?
今まで使用人が夫人になるなど考えた事は無かったが、ロアン様の事をみていると何も問題ない様に思えてくる。
事情があってこの様な状況に陥っている娘なら、ミリアの時よりずっと簡単かも知れないと、坊ちゃまの目に留まるよう食事を運ばせてみると、翌日、坊ちゃまの方から使用人達の様子はどうかと聞かれたのだから、期待しないではいられない。
『他の騎士達の目にでも止まったら大変だわ、申し訳ないけれど、カナには裏方の仕事をして貰いましょう』
もちろん坊ちゃまの所には行って貰いたいが、同じ娘が食事を運んでばかりいては、変に思われてしまうだろう。
『焦らないようにしないとね、勘のいい坊ちゃまに気付かれてしまっては元も子もないわ』
目に入ればきっと気にいるに違いない。
まだ少し幼いが、後二年もすれば、花が開くように美しくなるだろう。
それに気が付かない坊ちゃまでは無いはずなので、是非、屋敷に連れ帰って貰いたい。
0
あなたにおすすめの小説
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
黒騎士団の娼婦
イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる