エルメニア物語 - 灰色の少女は南の島で恋をする -

小豆こまめ

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第2章

06 旅の途中(6) -アンside

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 アンはノーストリア家に古くから仕えている女中頭で、多くの使用人を育て、他家に紹介し、また嫁がせてもいた。

 長く同じ仕事をしていれば、人を見る目も養われてくるものだが、特にどのような娘を雇うべきか見極めるには、こうして同じ仕事をさせるのが一番分かり易い。

 同じような年頃の娘達が集まれば、必ず中心的な娘が現れ、その娘がどの様な性根を持っているかで、その集まりの性質が変わってくる。

 その娘が怠け者であれば、その集まりは怠け者になりがちだし、勤勉であれば、その集まりもそうなる可能性が高い。

 そういう意味で、今回は心配していた。

 年長のミラと言う娘は、見た目も派手で、旅の間に出来れば相手を探したいと思っているのが現れていて、大変な事になるかと思っていたが、これがそうはならなかった。

 この娘は、自分をアピールする事も勿論忘れないが、良く動くし、年少の娘達の面倒をよく見た。

 彼女が動くので、他の娘達も気持ちよく働き、アナにとってこの旅は、良い意味で考えていた物とは違っていた。

 そしてその中で、ノアの屋敷に是非連れて帰りたい娘がいた。

 無口で大人しく、他の娘達とは違った雰囲気を持つこの娘は、輪の中に入る訳でもなく、かと言って外れている訳でもない不思議な立ち位置で、自分の状況を楽しんでいるようだった。

 どちらかと言えば、こうした娘は嫌われる事も多いが、彼女は仲間達にも可愛がられている。

 仕事ぶりも真面目で、周りも良く見えているので、手の足りない所を手伝って、仲間を助けていたりするし、よく見れば立ち居振る舞いも違っていて、何か事情があって使用人の仕事をしているのではと思える時もある。

「アン、何か困っている事はないか?」
「困っている事ですか? 特に思い当たりませんが、何か気になる事でもありましたでしょうか?」

「いや、何もないならいいんだ。若い娘達だからね、ちょっと気になっただけだよ、わざわざ呼び出して悪かったよ」
「いいえ、とんでもありません。坊ちゃまも何かあれば、何でも申し付けて下さい」

 アレス坊ちゃまの天幕から戻りながら、これは思った以上に、坊ちゃまがあの娘を気に入ったのでは無いかと思えてくる。
 今までも何度かこうして商隊に付いて来たが、アンを呼び出してまで使用人の事を尋ねられた覚えは無い。

 五年前、アレス坊ちゃまが屋敷を持つと聞いた時、アンは是非にと望んで、ノーストリアの屋敷からノアの家にやって来た。

 家を持つという事は、妻を迎えると言う意味で、ずっとお一人だったアレス坊ちゃまが奥様を迎えるなら、しっかり家を整えてお迎えしなければと、喜び勇んで王都に来たが、結局、その家に坊ちゃまの大切な人が現れる事は無かった。

 その後も、女性の影さえ現れず、妙な噂話まで出てくる始末。

 いくら“あの事件”で貴族院の力が弱くなったとは言え、もう少し頑張って貰いたいとさえ思ってが、あの娘なら良いのではないだろうか?

 今まで使用人が夫人になるなど考えた事は無かったが、ロアン様の事をみていると何も問題ない様に思えてくる。

 事情があってこの様な状況に陥っている娘なら、ミリアの時よりずっと簡単かも知れないと、坊ちゃまの目に留まるよう食事を運ばせてみると、翌日、坊ちゃまの方から使用人達の様子はどうかと聞かれたのだから、期待しないではいられない。

『他の騎士達の目にでも止まったら大変だわ、申し訳ないけれど、カナには裏方の仕事をして貰いましょう』

 もちろん坊ちゃまの所には行って貰いたいが、同じ娘が食事を運んでばかりいては、変に思われてしまうだろう。

『焦らないようにしないとね、勘のいい坊ちゃまに気付かれてしまっては元も子もないわ』

 目に入ればきっと気にいるに違いない。
 まだ少し幼いが、後二年もすれば、花が開くように美しくなるだろう。
 それに気が付かない坊ちゃまでは無いはずなので、是非、屋敷に連れ帰って貰いたい。


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