エルメニア物語 - 灰色の少女は南の島で恋をする -

小豆こまめ

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第2章

08 旅の途中(8)

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「魔物は怖く無いの?」
「そうでは無いわ、でも魔道具があれば魔物に襲われる心配は無いでしょう? でも人は違うから」

「王都にいれば、身の危険まで感じる必要は無いけれど、王都を離れたらちゃんと気をつけないと、無謀な事を考える者達だって多いから、ちょっとした油断で大変な事に巻き込まれたりするわ」

 大好きな人の言葉が頭の中に蘇る。

 自分は今、"ちょっとした油断で大変な事" になっている。

 商隊で移動する場合、途中野営をしながら移動して行く。
 王都からサウストリアを通る街道は、比較的魔物も少なく安全なルートになるが、その分盗賊などが多い。

 守りの魔道具があっても彼等には関係無いので、時々襲われるため、商隊には多くの騎士が同行する。

 今回も、いつもの様に隊が襲われているだけだと思っていた。
 この商隊の騎士は、ダリル様を始め優秀な人も多くいつも数刻で方が着く。

 使用人達は天幕の中に入っている様に言われているが、いつもの事と外にいる者も多く、カリーナもラナと一緒に食事の用意をしようとしていた時の事だった。

 口を塞がれ、荷馬車の中に放り込まれたかと思うと、数台の荷馬車が動き出す。
 どうやら襲って来た盗賊達と仲間になっているのか、手薄だった場所から荷を盗んでいる様だった。

「おい、何で娘なんて連れて来るんだ」
「いいだろう、どうせ気付いた時には手遅れさ」
「楽しむためなら、もっと育ったのがいただろう」

「そんなに選ぶヒマがあるかよ、どっちにしろ女には違い無いさ」
「違いねぇ」

 下品な笑い声と一緒に男達の話し声が聞こえて来る。

 男達が何を考えているのか知って、ゾッとするが、叫ぼうにも口は布で塞がれ手は縛られている。

 魔道具は身につけたままなので、自分だけなら逃げられたかも知れないが、気を失っているラナを残して行く事も出来ない。

 何か逃げる手段を考える必要があるが、まず誰かに気が付いて貰えるよう風を使って、目の前にあった麦袋に穴を開け、少しずつ麦の跡が出来たのを確認する。

 今度は自分を縛っている紐を切りたいのに、元々苦手な上に、荷馬車が動いて集中出来ないし、慣れない魔道具を上手く使えない。

『もう、どうしてこうなのかしら』

 魔道具を先生に渡して貰って練習もしていないなんて、お気楽な自分に腹が立って来る

 街道を外れ、半日以上を結構なスピードで走っている荷馬車が、商隊からどのくらい離されてしまったか全く分からない。

 盗賊達と争いが終わっても、荷馬車や自分達がいない事に誰が気付いてくれるだろう。

『大丈夫よ、アレス様やファリス先生だって少しは気にしてくれるはずだわ。
 アレス様にとっては、親友の妹で、ファリス先生にとっては、初めての弟子なのだから、、、あぁ、でも、アレス様は呆れていたし、先生も怒ってるようだったわ、、、思い出したくも無いと思われていたらどうしよう?』

 嫌な事ばかり考えていると、男達の声がまた聞こえて来る。

「そろそろだな」
「あぁ、ラドアに入ってしまえばこっちのものさ」
「上手くいったじゃないか」

「思いがけない土産も手にはいったしな」
「えらく気に入ってるなぁ」

「若い娘っ子はいいもんだぜ、楽しんだ後は女将の所に売っちまえばいいんだ」
「あぁ、しばらくは退屈しなくて済みそうだ」
「へへっ、そう言う事さ」

『あぁ、どうすればいいんだろう?』

 自分を縛っている紐を切ろうと必死になっていると、今度は慌てた様な声が聞こえて来る。

「おい、誰か来るぞ」
「警備隊か?」

「いや、違うぞ、赤の騎士だ」
「冗談じゃない、アイツら魔道具を壊したんじゃないのか?」
「追いつかれるぞ」
「もっと急げ」

 その後は、わぁ~、ぎゃ~と言う声が聞こえなくなり、荷馬車が止ったと思った時、アレス様が自分を見つめていた。

「カリーナ、無事か?」

 口の布を外し、手を縛っていた紐を切り、カリーナに怪我が無い事を確認したアレス様に抱きしめられた。

「良かった、賊に攫われたと聞いて肝が冷えたよ」

「ありがとうございます、、、あのラナは?」

 商隊では余り見かけない人が、ラナの様子を見ていた。

「心配しなくて大丈夫だ、気を失っているだけだよ、カリーナ、水が飲めるかい?」

 半日以上、魔道具を使おうとしていたので、喉はカラカラだし、疲れて正直フラフラだ。
 水を貰ってやっとホッとして、アレス様に尋ねる。

「どうして分かって下さったの?」
「その話は後にしよう。暗くなる前に移動したい」

 そう言ってラナは、見知らぬ人の馬に、カリーナはアレス様の馬に乗せて貰って来た道を戻る。

 横抱きで男性の馬に乗るのは少し恥ずかしいが、アレス様に守られて、やっと安心出来たのか今度は睡魔が襲ってくる。

『助けて貰っておいて、今度は眠ってしまうなんて恥ずかしいわ、ちゃんと起きていないと、、、』

 とは言え、この腕の中は気持ちがいい。
 荷馬車の中では眠る事も出来なかったし、そろそろ疲れて限界でもある。
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