エルメニア物語 - 灰色の少女は南の島で恋をする -

小豆こまめ

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第2章

10 旅の途中(10) -ダリルside

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 何とも見ていてれったい。
 娘の事が気に入ったなら、言葉や態度で示せばいいのに、じっと見守るだけでは何も始まらない

 あの歳で経験が無いわけでもあるまいに、まるで初めて恋をしたかの様になっている。

「仕方のない奴だなぁ」

 剣の腕や魔力には問題ないのに、こんな所が抜けているとは思いもしなかった。


 一年前、彼を騎士見習いに引き受けて欲しいと言われた時、ダリルは正直ウンザリした。

 見習いになるなら、16、17歳が普通で、20歳ならそろそろ騎士になる年齢だ。
 おまけにそれがラングロア家の次男だと聞いて、もっと嫌になった。

 おそらく貴族のボンボンが、一年程度、見習いの真似事をして騎士になる為で、幾分かの謝礼が貰えるので喜んで引き受ける者もいたが、ダリルはそんな仕事を引き受けたいと思わない。

 自分を見出してくれた人の元で働いていて、十分な報酬を得ていたし、相手にしても自分とそう年の変わらない騎士の見習いになるより、世慣れた相手の方がいいのではと思えた。

 そう伝え断っても、是非にと言われ、“好きに鍛えて貰ってよい、何があってもラングロア家は一切干渉しない”と念書まで渡されてはと引き受けたが、翌日現れた青年は、想像した人物と全く違っていた。

 ゴテゴテと飾り付けた武具でもつけて現れるかと思っていると、使い古された普通の武具を付けた青年は、真面目で、既に剣の腕にも全く問題は無かったが、逆に貴族の礼節の方が欠落していて、この一年は、結局それらを学ぶ時間になった。

 自分も仲間の騎士達も、彼が変わった形の魔道具を首からぶら下げていなければ、おそらくラングロア家の血縁だとは信じる者もいなかっただろう。

 騎士になった彼を主人に紹介し、一緒に働くようになれば、実践慣れした彼は頼りになるし、自分も楽になる。
 旅の間、剣の練習相手にも困らなくて良かったと思っていると、どうやらその彼が使用人の娘に心を奪われたらしい。

 ダリルの好みとは違って子供っぽいが、整った容姿をしているし、素直でよく働き、いつも楽しそうにニコニコしている様子は確かに可愛らしい。

 常にファリスの首にあった魔道具が、いつの間にか彼女の首に掛けられていて、仲間達はどういう意味か分かっていて、素知らぬ顔をしているが、当の本人は全く気付いていないのか、あれ以来、さっぱり表に出てこない。

 食事の度に彼女を探しては残念な顔をする彼を、仲間達は暖かく見守っていた。

 その彼が、すっかり落ち込んでしまっている。

 愛しい娘が攫われた事にも気が付かず、アレス様に助けられ、戻って来てやっと攫われていた事実を知り、自分が情けなくて仕方が無いのだろう。

「俺は、甘いのかな?」
「うん?」

「魔物と同じ様に、賊達も排除すればあんなに時間はかからなかった」
「あれは周囲を警戒していなかった者達が悪い」
「しかし」

「アレス様もそう言っていただろう?」
「分かっている」

 ファリスは人を傷つける事を嫌う。
 魔物相手だと容赦しないのに、それが人となると、例え盗賊相手でも変わらない。
 剣を払ったり、意識を奪う様な戦い方になるので、その分時間も手間も必要になる。

「気にするな、血が流れれば魔物が寄って来るのも事実だし、俺は今のお前の戦い方の方が好きだ」
「ありがとう」

「気にするなよ、彼女は無事だったのだし、お前の立場で、あの後、彼女に会いに行けないのは仕方がないだろう」

「うん、、、ちょっと待て、何で分かったんだ」
「知られて無いとでも思っていたのか?」
「嘘だろう?」

「諦めろ、みんな応援しているからな、頑張れよ!」
「みんな!?」

 また頭を抱えている様だが、どうせ落ち込むならこっちの方がいい。
 そろそろ仲間達も我慢出来ず、口が出てくる頃に違いないのだから、しばらく気も紛れるだろう。
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