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第3章

07 サウストリア(7) -レオーナside

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「カリーナ? って、あのカリーナかい?」
「そうみたいですね」
「それはダナーが喜んでいるだろうね」

「午後、こちらに来られて、叔母上との晩餐に出るから、一番自分に似合う服を用意して欲しいって言っていましたよ」
「ウエストリア伯が彼女を連れて行った時は、酷かったからね」
「まぁ、初恋ですからね」

「長い初恋だったけど、、、その子に決まった相手はいないのかい?」
「いないようですよ、まぁ、王都では難しいでしょうから」

「ここなら気にする者などいないからね」
「ダナー様のお相手なら特にですよ、その為に努力もなさったのですから」

「調子に乗っている時期もあったみたいだが、今ではそれも無くなったしな」
「ダナー様にお相手が見つかったなら、後はお嬢様だけなんですけどねぇ」

「私も見つけたいとは思っているさ」
「ノア商会の方も来られているようですが」

「アレスか、、、」
「名前も分からない者が、それほど気になりますか?」

「なんだ、知っていたのか?」
「あれ以来、お嬢様がノアの方の名を言わなくなりましたので」

 14歳の時、ドロテアの剣術試合でアレスを見た。
 真っ赤な髪を持つ北の男は、サウストリアの腕自慢達をあっと言う間に倒していて、王都の男などと思っていたレオーナは目を奪われた。

 16歳になった時、ミュールの街に商談で来ていた彼に、妻になりたいと直接願ったが、彼には既に心惹かれる相手がいてその願いは叶う事がなかった。

 それ以来、彼の事が気になっていない訳ではないが、二年前、レオーナは一人の青年に出会った。
 
 元々、サウストリアでは、家や身分の近い子どもを同じ家で育てる場合が多い。

 海に面した領地が多いため、男達が海や海岸の守りに行き、土地を守る女達が仕事をする上で、その方が安全で都合がいいからで、レオーナもダナーや他の子ども達と一緒に育った。

 ダナーがレオーナを姉上と呼ぶのはそのせいで、血のつながりは全くないが幼い頃、同じ時間を過ごした為、まるで兄弟のような感覚がある。
 そして、レオーナと一緒に育った兄弟たちは、なぜか男の子が多かった。

 本来持っていたものもそれに近かったのか、彼らと一緒に剣を学び、魔力を使い、言葉使いも荒いので、兄弟たちは、レオーナを姉上と呼ぶが、女性と思っていない所があるが気にした事も無い。

 あの時、スーの海軍に潜り込んだのも思いつきだった。
 ティジィスではすぐにばれるし、その当時、明らかに弱っていたのはスーの軍で、多くの者が雇われてもいたので紛れるのも難しくなかった。

 その中にその青年がいた。

 どちらかと言えば、陽気で自己主張の強い南の男達の中で、彼は大人しく、こんな事で戦えるのかと思えたが、魔物を相手にすると、彼は全く違っていた。

 特に大きな動きをする訳でも、声を荒げる訳でもない。
 だが、その時は誰も彼に近づけない。
 周囲の空気を震わせるような感覚と、圧倒的な魔力は始めて目にするものだった。

『気をつけて、女の人がこんな所に来たらダメだよ。怪我をすると大変だから』

 気を抜いて倒れそうになったレオーナを助けた彼にそう言われ、その一度で船を下ろされた。
 その時から、どうしてもその声が耳から離れない。
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