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第1章
12 王立図書館(1)
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館内に入って、大きく息を吸う。
冷たい空気と一緒に、紙とインクの匂いがする。
静かな館内をロニと二人で歩きながら、まず一階にある一般的な書物を探す。
このフロアにある物は、借りる事が出来るので、屋敷の使用人たちへのお土産はここでと決めていた。
本は、決して安く無い。
ウエストリアにも図書館はあるが、専門的なものか、子ども用の絵本などで、大人の女性が読む娯楽的な本は無い。
そういった読み物が好きな事は知っていたが、みんなに買って帰るほどの予算はないが、借りるのであれば費用はほとんど必要無いので、何を借りるか真剣に話し合う。
「お嬢様はよろしいのですか?」
「この冬、読む時間が持てるかしら?」
「ダンスの練習ですか?」
「立ち居振る舞いに所作。それに裁縫などもどうにかするようにって」
「それだけする事があれば必要ないですね」
「楽しんでない?」
「楽しんでおりませんよ。お嬢様にとっても必要な事だと思って下さい」
「分かっているわ、私だって舞踏会で恥ずかしい思いはしたくないもの」
棚から本を取り出し、パラパラと中を見ながらロニと小声で話す。
本を読む事は好きだった。
特に好みがある訳でなく、興味を持った物なら何でも手に取る。
冬の間、ゆっくり読書出来るなら嬉しいが、苦手な事が待っていると思うと溜息がでる。
リディアは裁縫が苦手だった。
料理を作ったり、織物や組紐を作ったりするのは人並みに出来るのに、自分の手は、針や糸との相性が随分悪いらしく、小さい針を使って、真っ直ぐ縫う事が本当に出来ない。
ダンスも同じで、体を動かす事は決して嫌いでは無いのに、パートナーに合わせ決まったステップを踏む事が難しい。
森でみんなと踊ったり、街のお祭りで踊ることは好きなのだから、あの衣装と姿勢に問題があるに違いないとリディアは思っているが、そんな言い訳をフランツが許してくれるとは思えないので、今年の冬は辛い日々が続きそうな気がする。
「はぁ~」
「ダメですよ、溜息は」
「知っているわ」
「でも面倒な事を引き受けたと、少しくらい後悔しても良いと思うわ」
「お嬢様がお決めになった事ですよ」
「それも知っているわ」
何冊かの本を選び、それかを借りる手続きをした後、上の階に上がる。
「そうね、せっかくここに来ているのだから、今は楽しい事を考えないとね」
そんな話をしていると、思いもかけない人の声がする。
「こんにちは、リディア嬢」
「殿下、こんな所でお会いするとは思いませんでした」
「私も声が聞こえて驚きました」
「まぁ、すみません、煩くしてしまいましたか?」
菫色の瞳が笑っている。
「いいえ」
ロニとの会話が聞こえている様なら恥ずかしい気もするが、それを確認する事も出来ないので、話題を変える。
「先日は、届け物をありがとうございます」
「こちらこそ、おかげでウエストリアに伺う約束が頂けました」
「ウエストリアに来られるのですか?」
「はい、残念ながら一年後になりますが」
「歓迎しますわ、是非いらして下さい」
「ありがとうございます。私も楽しみにしております」
「こちらには、何か調べものですか?」
「いいえ、ヒマつぶしのようなものです。我々の国にこういった場所はありません。
それにここは居心地がいい。建物内の木の感触や、紙やインクの匂い。人の喧騒もなくて、時間があれば足を運んでいます」
そう言って笑う彼は、古都で会った時よりリラックスしているように見える。
「リディア嬢は、どうして?」
「私も同じです。ここには挿絵のある本が多いので、私は、ウエストリアを殆ど出た事がありませんから、色々な地方を知る事が出来る気がして、つい足を運んでしまいます」
「では、もう一つ上の階に行かれませんか? 絵を描いた本が沢山ありましたよ」
そう言って彼が案内するように少し先を歩く。
彼が大きな体を屈めるように話すと、先日よりずっと距離が近いのに怖くない。
殿下の後について階を上がって行くと、二人の獣人が待っていた。
冷たい空気と一緒に、紙とインクの匂いがする。
静かな館内をロニと二人で歩きながら、まず一階にある一般的な書物を探す。
このフロアにある物は、借りる事が出来るので、屋敷の使用人たちへのお土産はここでと決めていた。
本は、決して安く無い。
ウエストリアにも図書館はあるが、専門的なものか、子ども用の絵本などで、大人の女性が読む娯楽的な本は無い。
そういった読み物が好きな事は知っていたが、みんなに買って帰るほどの予算はないが、借りるのであれば費用はほとんど必要無いので、何を借りるか真剣に話し合う。
「お嬢様はよろしいのですか?」
「この冬、読む時間が持てるかしら?」
「ダンスの練習ですか?」
「立ち居振る舞いに所作。それに裁縫などもどうにかするようにって」
「それだけする事があれば必要ないですね」
「楽しんでない?」
「楽しんでおりませんよ。お嬢様にとっても必要な事だと思って下さい」
「分かっているわ、私だって舞踏会で恥ずかしい思いはしたくないもの」
棚から本を取り出し、パラパラと中を見ながらロニと小声で話す。
本を読む事は好きだった。
特に好みがある訳でなく、興味を持った物なら何でも手に取る。
冬の間、ゆっくり読書出来るなら嬉しいが、苦手な事が待っていると思うと溜息がでる。
リディアは裁縫が苦手だった。
料理を作ったり、織物や組紐を作ったりするのは人並みに出来るのに、自分の手は、針や糸との相性が随分悪いらしく、小さい針を使って、真っ直ぐ縫う事が本当に出来ない。
ダンスも同じで、体を動かす事は決して嫌いでは無いのに、パートナーに合わせ決まったステップを踏む事が難しい。
森でみんなと踊ったり、街のお祭りで踊ることは好きなのだから、あの衣装と姿勢に問題があるに違いないとリディアは思っているが、そんな言い訳をフランツが許してくれるとは思えないので、今年の冬は辛い日々が続きそうな気がする。
「はぁ~」
「ダメですよ、溜息は」
「知っているわ」
「でも面倒な事を引き受けたと、少しくらい後悔しても良いと思うわ」
「お嬢様がお決めになった事ですよ」
「それも知っているわ」
何冊かの本を選び、それかを借りる手続きをした後、上の階に上がる。
「そうね、せっかくここに来ているのだから、今は楽しい事を考えないとね」
そんな話をしていると、思いもかけない人の声がする。
「こんにちは、リディア嬢」
「殿下、こんな所でお会いするとは思いませんでした」
「私も声が聞こえて驚きました」
「まぁ、すみません、煩くしてしまいましたか?」
菫色の瞳が笑っている。
「いいえ」
ロニとの会話が聞こえている様なら恥ずかしい気もするが、それを確認する事も出来ないので、話題を変える。
「先日は、届け物をありがとうございます」
「こちらこそ、おかげでウエストリアに伺う約束が頂けました」
「ウエストリアに来られるのですか?」
「はい、残念ながら一年後になりますが」
「歓迎しますわ、是非いらして下さい」
「ありがとうございます。私も楽しみにしております」
「こちらには、何か調べものですか?」
「いいえ、ヒマつぶしのようなものです。我々の国にこういった場所はありません。
それにここは居心地がいい。建物内の木の感触や、紙やインクの匂い。人の喧騒もなくて、時間があれば足を運んでいます」
そう言って笑う彼は、古都で会った時よりリラックスしているように見える。
「リディア嬢は、どうして?」
「私も同じです。ここには挿絵のある本が多いので、私は、ウエストリアを殆ど出た事がありませんから、色々な地方を知る事が出来る気がして、つい足を運んでしまいます」
「では、もう一つ上の階に行かれませんか? 絵を描いた本が沢山ありましたよ」
そう言って彼が案内するように少し先を歩く。
彼が大きな体を屈めるように話すと、先日よりずっと距離が近いのに怖くない。
殿下の後について階を上がって行くと、二人の獣人が待っていた。
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