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第3章

04 温室で(2)

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「ウルグ様の所に行きたいのだけど、何か良いお茶はないかしら?」
「それならマテの白茶を持って行くといいわ。本当はあなたに用意したのだけど、今日は他のお客様がいたから」
「ありがとう、それならきっとウルグ様も気に入ってくれるわね」

 ウルグ様はセレスティナの作る紅茶が大好きだが、新しいものも好む人なので、最近人気の白茶はきっと気にいてくれるだろう。

「噂のお茶ですか? それは興味があるな」

 何にでも興味を持ち、知ろうとするのはザイード様の性格だと思う、そしてそれはとても好ましい。

「ちょっと待っていてね、茶葉を持ってくるから」

 セレスティナが席を立つと、隣に座っていたサイラス様が手を差し出しエスコートしようとする。

「まだ怖いですか?」

 サイラス様が情けない顔をするので、少し戸惑っていたセレスティナも笑ってそれを許している。

 なんだかちょっと驚く。
 ザィード様とサイラス様の関係は見ていて面白いものだった。
 
 ザィード様に対して、言葉や態度はイグルス様の方が礼儀正しいのに、サイラス様の方がずっと彼の側にいるし、その言葉にも敏感に反応する。

 王都でも何度か会ったが、自分たちにそれほど興味を持っているように見えず、あくまで殿下の護衛として居るだけで、この国に対しても、人に対しても一定の距離を保っている。

 此処に来てウエストリアの自然を楽しんでいても、あくまでそれは面白い遊び場を見つけた位に見えていた。
 それ故、安心してもいたが、今日は全く違って、サイラス様の興味の対象がセレスティアになっている。

 おまけに茶葉を持って帰ってくる間に、彼は温室に残って、ここの案内をして貰う事になっているのだから本当に驚かされる。

 さすがに未婚の女性と二人で残す訳にいかないので、ザイード様も話をするが、どうやらガルスに育つ植物の話や、ウエストリアとの違いなどをセレスティナに話したみたいで、

「大丈夫です、温室の中だけの事だし、少しお話を聞くだけなので」

 とセレスティナ本人が全く気にしていない。

「僕がこちらに残っているよ」
「あなたが?」

「どうやらサイラス様をセレスティナ様から離す事は難しそうだし、セレスティナ様を植物から引き離す事は、もっと難しい。ここで待っているから」

 アルフレッドが居てくれるなら問題ないと思うので、彼にまかせてウルグ様の工房に向かう。
 弟が自分と離れる事をこれ程簡単に承諾するなんて珍しい。

『アルフレッド殿には、申し訳ない事をした』とザイード様は気にしているが、自分の弟が、それほど可愛らしい性格だとも思っていない。

 上手く逃げたわね。と思う。
 ウルグ様は、無類の甘党だ。

 “マテ”の白茶は、甘い香りがする。
 普通は、そのまま香りを楽しみながら飲むが、ウルグ様はそれに“マテ”の粉を入れて飲む。

 これから行く場所は、ザイード様にとって試練の場所になるに違いない。
 『先に言っておくべき?』と悩んでいる間にウルグ様の研究室に着く。

 始めは不機嫌だったウルグ様も、白茶を渡すとご機嫌で席に着く。

 どうやらウルグ様は、ザイード様の事が気に入ったように見える。
 魔鉱石の色の違いや硬さ、大きさなどについて実績のある事からない事まで話していて、その間、マテ粉を入れた甘いお茶を作ってはザイード様に勧めている。

 そろそろこの場所を離れた方が良さそうな気がする。
 いくら獣人が強いと言っても、このウルグ様からの攻撃には歯が立たない。

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