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第5章
16 シュロ(1)
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「やぁ、やっと見つけたよ。遅くなって悪かったね」
王都で何度も見かけた人が、自分に向かって話しかけている。
自分を探している人達がいるとは思っていたので、焦って逃げようとする。
「逃げないでくれると助かるな、君を探すのは結構大変だったんだ。困らせるつもりは無いんだ、ちょっと礼を言いたいと思ってね」
「俺は別に」
「娘を助けてくれただろう?」
「俺が助けた訳じゃ」
「君のおかげだよ、あの時、娘の事を教えてくれただろう?」
「それは、フェイが言っていたから」
「成程、君はフェイの友人なのか、だから娘の事を知っていたんだね。娘が君に会いたがっていてね、良ければ私の家まで来て欲しいが、難しいかな?」
「あの人は、大丈夫だったんですか?」
「うん、大丈夫だよ」
びっくりするほど優しい顔をする。
最初は半人の自分に礼を言いたいと言われても、信じられなかったが、その顔を見て付いて行く事にする。
「仕事が終わってないから、、、」
「その事は気にしなくて大丈夫だよ、僕はね、こういう交渉事が得意なんだ」
今度は片目をつぶって見せる。
あの事件は、ザイード様達が本来の姿で、王宮だけでなく王都の中を移動したので、王子の婚約者が命を落としそうになり、その原因の一つがもう一人の婚約者であったことなど、貴族社会に疎い獣人達にもよく知られていた。
その原因に深く関与していたため、罪を償はなければと思う気持ちと、逆らった者からの報復が恐ろしくどうにも動けなくなっていたので、ある意味ほっとしてもいた。
自分を探しだした人が、衛兵達の所に連れて行っても仕方ないと思っていたら、その言葉通りにウエストリアの屋敷に連れて来られた。
屋敷の真ん中、日当たりの良い場所で彼女が笑っていた。
「リディア、お客様を連れてきたよ」
「お父様、どなたですか?」
「当ててごらん?」
「まぁ、私を助けてくれた人ね、名前を教えてくれる?」
緑色の瞳が自分を見て尋ねる。
「シュロって言います、あの、ごめんなさい」
「どうして謝るの?」
「だって俺が運んだから」
「あら、そうだったかしら?
確かに王宮から私を運んだ人がいるらしいけど、誰もどんな人だったか覚えて無いみたいなのよね」
「それは、俺が」
緑色の瞳が、楽しそうに笑って、人差し指を立てて口の前に持っていく。
「誰も覚えていない人を探す事は出来ないわ、もちろん罪に問う事もね。
でも、ザイード様が私を助けてくれた人の事は覚えていてくれたの、おかげでこうして話が出来て、お礼が言えて良かったわ」
そう話した後、「私を守ってくれてありがとう、シュロ」と頭を下げる。
頭の中が真っ白になる。
貴族は平民に頭を下げたりしない。
まして自分は半人で、エルメニア人でさえない。
おまけに彼女だけでなく、後ろに控えている使用人らしき人まで頭を下げている。
「あの、止めて下さい。困ります」
「では、少し座ってお話させてくれる?」
そう言われれば、頭を下げられるよりずっとマシなので腰を下ろす。
テーブルの上には、美味しそうな食べ物が並び、匂いに釣られて口に入れていると、お腹が膨らんで段々と緊張が解ける。
「ごめんなさいね、私はシュロを覚えていないのだけど、どこかで会っていたのかしら?」
「フェイから聞いた事があったし、王都で見た事があったから」
「フェイのお友達なのね」
「俺も半人だから」
「フェイと同じ?」
「同じじゃないよ、半人でも俺は魔力もないんだ、だから、、、」
「まぁ、ならシュロは私と同じなのね」とまた笑う。
同じではない。
彼女は女の人で、自分は男の半人なのだから。
元々、女性は魔力をほとんど持たない人も多いが、男性は違う。
まして半人なら、魔力を持たないなんて考えられない。
彼女の側にいたいなぁと思う。
許されないと分かっていても、叶わないと知っていても、この陽だまりの様に暖かい場所を望まない人がいるだろうか?
『ザイード様は、一緒にいたいのに、連れて行きたいたく無いんだ』
フェイが言っていた。
大切で、愛おしくて、だからこそ傷つけたくなくて、手に入れる事さえ出来なくなっていると。
この人はどうするんだろう。
彼女の婚約は、解消されていた。
このまま彼女が西に戻ってしまえば、もう姿を見ることも出来なくなってしまうだろう。
「あの」
「なぁに?」
「ウエストリアに戻られるのですか?」
口にしてから自分が聞くような事ではないと気付きオロオロしていると、手招きしながら顔を近づけて、小さな声で教えてくれる。
「私はね、ガルスに行くつもりなの」
そのまま人差し指をまた口の前に持って来て続ける。
「まだ、内緒ね」
この人は決めているんだ。
ザイード様がどんなに困っても、きっと彼女の拒むことなんて出来ない。
フェイが少し羨ましい。
彼女がザイード様の側にいるなら、彼も近くにいる事が出来る。
半人は、ガルス国でも厳しい立場にあるが、彼女がいれば、それさえも辛くない気がする。
王都で何度も見かけた人が、自分に向かって話しかけている。
自分を探している人達がいるとは思っていたので、焦って逃げようとする。
「逃げないでくれると助かるな、君を探すのは結構大変だったんだ。困らせるつもりは無いんだ、ちょっと礼を言いたいと思ってね」
「俺は別に」
「娘を助けてくれただろう?」
「俺が助けた訳じゃ」
「君のおかげだよ、あの時、娘の事を教えてくれただろう?」
「それは、フェイが言っていたから」
「成程、君はフェイの友人なのか、だから娘の事を知っていたんだね。娘が君に会いたがっていてね、良ければ私の家まで来て欲しいが、難しいかな?」
「あの人は、大丈夫だったんですか?」
「うん、大丈夫だよ」
びっくりするほど優しい顔をする。
最初は半人の自分に礼を言いたいと言われても、信じられなかったが、その顔を見て付いて行く事にする。
「仕事が終わってないから、、、」
「その事は気にしなくて大丈夫だよ、僕はね、こういう交渉事が得意なんだ」
今度は片目をつぶって見せる。
あの事件は、ザイード様達が本来の姿で、王宮だけでなく王都の中を移動したので、王子の婚約者が命を落としそうになり、その原因の一つがもう一人の婚約者であったことなど、貴族社会に疎い獣人達にもよく知られていた。
その原因に深く関与していたため、罪を償はなければと思う気持ちと、逆らった者からの報復が恐ろしくどうにも動けなくなっていたので、ある意味ほっとしてもいた。
自分を探しだした人が、衛兵達の所に連れて行っても仕方ないと思っていたら、その言葉通りにウエストリアの屋敷に連れて来られた。
屋敷の真ん中、日当たりの良い場所で彼女が笑っていた。
「リディア、お客様を連れてきたよ」
「お父様、どなたですか?」
「当ててごらん?」
「まぁ、私を助けてくれた人ね、名前を教えてくれる?」
緑色の瞳が自分を見て尋ねる。
「シュロって言います、あの、ごめんなさい」
「どうして謝るの?」
「だって俺が運んだから」
「あら、そうだったかしら?
確かに王宮から私を運んだ人がいるらしいけど、誰もどんな人だったか覚えて無いみたいなのよね」
「それは、俺が」
緑色の瞳が、楽しそうに笑って、人差し指を立てて口の前に持っていく。
「誰も覚えていない人を探す事は出来ないわ、もちろん罪に問う事もね。
でも、ザイード様が私を助けてくれた人の事は覚えていてくれたの、おかげでこうして話が出来て、お礼が言えて良かったわ」
そう話した後、「私を守ってくれてありがとう、シュロ」と頭を下げる。
頭の中が真っ白になる。
貴族は平民に頭を下げたりしない。
まして自分は半人で、エルメニア人でさえない。
おまけに彼女だけでなく、後ろに控えている使用人らしき人まで頭を下げている。
「あの、止めて下さい。困ります」
「では、少し座ってお話させてくれる?」
そう言われれば、頭を下げられるよりずっとマシなので腰を下ろす。
テーブルの上には、美味しそうな食べ物が並び、匂いに釣られて口に入れていると、お腹が膨らんで段々と緊張が解ける。
「ごめんなさいね、私はシュロを覚えていないのだけど、どこかで会っていたのかしら?」
「フェイから聞いた事があったし、王都で見た事があったから」
「フェイのお友達なのね」
「俺も半人だから」
「フェイと同じ?」
「同じじゃないよ、半人でも俺は魔力もないんだ、だから、、、」
「まぁ、ならシュロは私と同じなのね」とまた笑う。
同じではない。
彼女は女の人で、自分は男の半人なのだから。
元々、女性は魔力をほとんど持たない人も多いが、男性は違う。
まして半人なら、魔力を持たないなんて考えられない。
彼女の側にいたいなぁと思う。
許されないと分かっていても、叶わないと知っていても、この陽だまりの様に暖かい場所を望まない人がいるだろうか?
『ザイード様は、一緒にいたいのに、連れて行きたいたく無いんだ』
フェイが言っていた。
大切で、愛おしくて、だからこそ傷つけたくなくて、手に入れる事さえ出来なくなっていると。
この人はどうするんだろう。
彼女の婚約は、解消されていた。
このまま彼女が西に戻ってしまえば、もう姿を見ることも出来なくなってしまうだろう。
「あの」
「なぁに?」
「ウエストリアに戻られるのですか?」
口にしてから自分が聞くような事ではないと気付きオロオロしていると、手招きしながら顔を近づけて、小さな声で教えてくれる。
「私はね、ガルスに行くつもりなの」
そのまま人差し指をまた口の前に持って来て続ける。
「まだ、内緒ね」
この人は決めているんだ。
ザイード様がどんなに困っても、きっと彼女の拒むことなんて出来ない。
フェイが少し羨ましい。
彼女がザイード様の側にいるなら、彼も近くにいる事が出来る。
半人は、ガルス国でも厳しい立場にあるが、彼女がいれば、それさえも辛くない気がする。
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