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第一幕 人形令嬢の一人舞台
道化の詰問
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「………………」「………………」「………………」
ドロシーが死んだ二枚貝のごとく黙りこくってから、数分がたっていた。聴衆も固唾をのんで見守っている。今どういう話の流れになっているんだ、と誰もが思っている。
ドロシーは相変わらずなにを考えているか分からない無表情だが、目がうつろだった。自分の発言に自分でショックを受けているのか、やや顔色が悪い。
クロッドはなにかを言おうとして、結局口を閉じるという行動を繰り返していた。いつもの人を小馬鹿にしたような、あるいは威圧するような雰囲気は鳴りを潜め、時折ルナールやドロシーに目をやり、所在無げに立っている。こちらも顔色が悪い。
そして、ルナールは――
「はーあ……」
長い溜息をついて、にっこり微笑んだ。
「なんか邪魔しちゃったのは僕の方みたいだね。よかったじゃん。ドロシー嬢はこんなに兄上のことを考えてくれてるんだから、ちゃんと大切にした方がいいよ」
違和感を覚えるほど親しげな口調だった。兄弟王子は仲が悪いというのはただの噂で、本当は軽口を叩き合えるくらい仲がいいのではと思わせるような自然な気安さだった。
「え、いや、だけど」
狼狽えるクロッドと全機能停止中のドロシーを置いて、ルナールはくるりと背を向ける。
「あ、ルナール!ちょっと待っ――」
クロッドは思わず声をかけ、直後手で口を覆った。ルナールは背を向けたまま顔だけ振り返る。
「じゃあ後のことはよろしく、兄上」
そう言い残し、野次馬たちに人懐っこい微笑を振りまいて、ルナールは教会の中に消えて行った。
周囲も顔を見合わせ、そろそろと移動を始める中、クロッドがドロシーの耳元に顔を寄せてきた。
「来てくれ」
腕を掴むでも手を引っ張るでもなく、多少荒くはあるが腰を抱くようにして歩かされ、人の輪から引き離される。灯の届かない建物の陰まで来てやっと解放された。
「お前、一体ルナールとなんの話をしたんだ……!」
大きな身体に詰め寄られ、ドロシーはパチパチと瞬きした。今目が覚めたような顔でクロッドを見つめ返す。
「特に何も。今夜の聖餐についてお伺いしただけです」
「それで、どうしてあんな話に……」
あんな話?と首を直角に曲げたドロシーは、ハッと目を見開いた。
「わたくしが、殿下を大切だというお話ですか?その件は現在鋭意調査中で」
「いい。言うな。黙ってろ。婚約者として臣下として、って話だろう。そうか、そうだよな。この間『弁えろ』と言ったからそうしたんだよな」
早口でまくしたてるドロシーを力無く遮り、クロッドは頭痛でも堪えるように目をきつく閉じた。「慣れないことはするもんじゃないな」などとぼやいている。
「それより聞きたいことがある。その聖餐についてだが、お前が参加するというのは本当なのか」
相変わらず会話の舵取りが強引だ。ドロシーは、むっと唇を尖らせる。
「………………」
「聞こえてるか。目を開けたまま寝るな」
「起きております」
「なら、なにか反応しろ。なんでいちいち無言で固まるんだ。ビックリした齧歯類かお前は」
「本日は王家の聖餐にご一緒させて頂く予定です。側妃殿下から是非にと仰せつかっております」
「……そうか、義母上から」
クロッドは考え込むように顔を伏せた。
ドロシーが死んだ二枚貝のごとく黙りこくってから、数分がたっていた。聴衆も固唾をのんで見守っている。今どういう話の流れになっているんだ、と誰もが思っている。
ドロシーは相変わらずなにを考えているか分からない無表情だが、目がうつろだった。自分の発言に自分でショックを受けているのか、やや顔色が悪い。
クロッドはなにかを言おうとして、結局口を閉じるという行動を繰り返していた。いつもの人を小馬鹿にしたような、あるいは威圧するような雰囲気は鳴りを潜め、時折ルナールやドロシーに目をやり、所在無げに立っている。こちらも顔色が悪い。
そして、ルナールは――
「はーあ……」
長い溜息をついて、にっこり微笑んだ。
「なんか邪魔しちゃったのは僕の方みたいだね。よかったじゃん。ドロシー嬢はこんなに兄上のことを考えてくれてるんだから、ちゃんと大切にした方がいいよ」
違和感を覚えるほど親しげな口調だった。兄弟王子は仲が悪いというのはただの噂で、本当は軽口を叩き合えるくらい仲がいいのではと思わせるような自然な気安さだった。
「え、いや、だけど」
狼狽えるクロッドと全機能停止中のドロシーを置いて、ルナールはくるりと背を向ける。
「あ、ルナール!ちょっと待っ――」
クロッドは思わず声をかけ、直後手で口を覆った。ルナールは背を向けたまま顔だけ振り返る。
「じゃあ後のことはよろしく、兄上」
そう言い残し、野次馬たちに人懐っこい微笑を振りまいて、ルナールは教会の中に消えて行った。
周囲も顔を見合わせ、そろそろと移動を始める中、クロッドがドロシーの耳元に顔を寄せてきた。
「来てくれ」
腕を掴むでも手を引っ張るでもなく、多少荒くはあるが腰を抱くようにして歩かされ、人の輪から引き離される。灯の届かない建物の陰まで来てやっと解放された。
「お前、一体ルナールとなんの話をしたんだ……!」
大きな身体に詰め寄られ、ドロシーはパチパチと瞬きした。今目が覚めたような顔でクロッドを見つめ返す。
「特に何も。今夜の聖餐についてお伺いしただけです」
「それで、どうしてあんな話に……」
あんな話?と首を直角に曲げたドロシーは、ハッと目を見開いた。
「わたくしが、殿下を大切だというお話ですか?その件は現在鋭意調査中で」
「いい。言うな。黙ってろ。婚約者として臣下として、って話だろう。そうか、そうだよな。この間『弁えろ』と言ったからそうしたんだよな」
早口でまくしたてるドロシーを力無く遮り、クロッドは頭痛でも堪えるように目をきつく閉じた。「慣れないことはするもんじゃないな」などとぼやいている。
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相変わらず会話の舵取りが強引だ。ドロシーは、むっと唇を尖らせる。
「………………」
「聞こえてるか。目を開けたまま寝るな」
「起きております」
「なら、なにか反応しろ。なんでいちいち無言で固まるんだ。ビックリした齧歯類かお前は」
「本日は王家の聖餐にご一緒させて頂く予定です。側妃殿下から是非にと仰せつかっております」
「……そうか、義母上から」
クロッドは考え込むように顔を伏せた。
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