5分で読める短編小説集 風刺編

あーく

文字の大きさ
3 / 23

見えざる客

しおりを挟む
「今日から君はここで働くんだ。」

メアリーは部屋を見渡した。

広い部屋の中には、キッチン、TV、ベッド、バス、トイレ、本、ゲームなど、いろいろ揃っていた。

「素敵な部屋ですね!」

トーマスはニコッと笑って答えた。

「気に入ってもらえてよかった。
ここには何でもそろっているし、
ほしいものがあれば調達するよ。」

「すみません、こんな私のために。」

「いえいえ、個人の能力を最大限に発揮するのが
僕の仕事。
君は結果を出してくれさえすればいい。
君は人と協力するのが苦手な代わりに集中力がある。
だからこの部屋を用意したんだ。」

メアリーは不安からなのか好奇心からなのか、
胸がドキドキしている。

「早速だが、お客さんからの依頼だ。
この作業を頼むよ。」

メアリーは作業に取り掛かった。

人と会わなくてよいのがどれだけ楽か。

「できました!ご確認お願いします!」

トーマスは驚いた様子だった。

「早いねぇ!もうできたの?
じゃあ、ちょっとお客さんのところへ行ってくるよ。」

メアリーは昔からそうだった。

友達と遊ぶことが少なく、
一人でもくもくと遊んでいるようなタイプで、
本当に信頼できる人にしか心を許さなかった。

だんだん人と話すのが苦手になり、
周りからは煙たがられていった。

一方で、持ち前の集中力から、成績はいつも上位だった。

そこを買われて今の仕事を紹介してもらったのだ。

数日後、トーマスが帰ってきた。

「ありがとう!お客さんは大喜びだよ!
この調子でよろしくね!」

「はい!」

メアリーはお客さんのために作業を続けた。

お客さんのことを思うと、作業がはかどる。

お客さんの喜ぶ顔が目に浮かぶようだった。

「今日の作業が終わりました!」

「今日もご苦労様。はい、今月の手取りだよ。」

「・・・」

「どうしたの?浮かない表情をして…。
あ、これじゃあ少なかったかな。」

「あ、いえ、そうではありません。
ちょっとお客さんと会ってみたくなって・・・」

「ダメだ。」

トーマスが一瞬別人に見えた。

「君は僕の言う通りにしてさえすればいい。
明日からもよろしく頼むよ。」

「・・・」

メアリーはお客さんのために作業を続けた。

一方、トーマスに不信感を抱いていた。

「作業が終わりました。」

「今日もありがとう!すごく助かるよ!」

「あの・・・お客さんによろしく言っておいてください。」

「分かった。伝えておくよ。」

数日が経ち、トーマスが戻ってきた。

「今回もお客さんは喜んでいるよ!
いつもありがとう!」

メアリーは絶望した。

疑念が確信に変わった瞬間だった。

「もうこんなところにいられない。出ていきます!」

「どうしたんだい!?急に!?」

「私が今回お渡しした資料は全部でたらめだったのに・・・」

「・・・それはいけないねぇ。お客さん怒っているよ。」

「あなたはさっき、お客さんは喜んでいると言いました!
本当はお客さんなんていないんでしょう!?」

「それはおかしいなぁ。
君は今まで普通に仕事をしていたはずだよ?
それは、お客さんがいようといまいと、
仕事が続けられるってことだよね?」

「こんな、誰の役に立ってるか分からないようなもの、
できるはずありません!
出て行かせてもらいます!」

「でも、君は人と協力するのが苦手だ。
この仕事以外にできることなんてあるのかい?」

「・・・わからない。
でも、誰の役にも立てないのは一番つらいんです!」

「・・・そう思うのなら出ていけばいい。
まぁ、君には無理だろうけどね。
誰も君のことを分かってくれないだろう。
つらくなったらいつでも帰っておいで。」

メアリーは黙って扉を開けた。

数か月ぶりに見た景色が広く感じた。

メアリーは大きく一歩を踏み出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...