5分で読める短編小説集 風刺編

あーく

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二人の嫌われ者

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「何考えてるか分からない」

「関わるのはやめとこうぜ」

また話し声が聞こえた気がした。

僕の考えに興味を持ってくれる人は誰もいないだろう。

僕のことを分かってくれる人は誰もいないだろう。

僕は嫌われてるに違いない。


「嫌われ者の君、隣いいか?」

喫茶店でコーヒーを飲んでいたら、
長髪の青年が背中から話しかけてきた。

大学生だろうか?

社会人にしてはお金に困っていそうな服装だった。

「え…?…どうぞご勝手に。」

僕は怪訝そうな顔をして答えた。

初対面なのに嫌われてるかどうか聞くか?普通。

この人何考えてるか分からない。

「悪いが独り言を聞かせてもらった。」

「あ!」

どうやら思っていたことが口に出てたみたいだ。

僕は慌てて口を塞いだ。

「怒らせたお詫びといってはなんだが、自己紹介だ。俺は絵を描いている。」

彼は携帯電話を取り出し、とある絵の写真を見せた。

「これ、俺の作品。
信じるか信じないかは、どうぞご勝手に。」

驚いた…。

この絵は数か月前に開かれたコンクールで入賞されていた作品だ。

他の人の作品とは違う雰囲気の、
個性的なものであることは分かった。

まだ僕が未熟なのか、作品の良さまでは分からなかったけど。

「お前は何か熱中できるものはあるか?」

「特にないです…」

「そんなわけねぇだろ。
『誰も分かってくれない』ってやつが何もしてないわけがない。
本当に何もしてないなら相当甘えた奴だ。」

「…しいて言うなら、絵を描くこと…ですかね…。」

「…まじか、お前。」

彼は少し考えると、話を続けた。

「じゃあ、俺と似てるな。絵が好きなんだろ?
それでいて嫌われ者で―」

「僕は嫌われ者じゃない!!」

周りの客が一瞬だけこちらを見た。

「まぁ落ち着けって。お前はまだ学生か?」

「…中学生ですけど。」

「ちょうど人間関係に悩む時期か…。
よし!俺が助言してやろう。」

「あなたが?」

「あぁ。俺とお前は似ている。
お前の気持ちは分かってるつもりだ。
しかも、お前の方が若い分、可能性がある。」

「…いや、僕はまだ画家じゃ…」

「つべこべ言うな!というわけで、
ほら、2000円だ。」

「え?」

「受講料だよ、早く出せよ。」

「僕…お金なくて…」

「ならこんなとこ来ねぇだろ。
足りなくていいから有り金全部出せ。」

今日はなんて災難な日だ。

学校は窮屈だし、変な人には絡まれるし、
挙げ句カツアゲされるし…。

でも、この人は僕の知らないことを知ってそうだった。

色々な苦労があったことを、あの絵を見て確信した。

僕は財布に入っていた1000円札と小銭を渡した。

・・・

そういえば僕はどうしてここにいるんだっけ?

いつでも逃げ出すチャンスはあったはずなのに、

今は目の前の青年に耳を傾けている。

「『こいつは俺のことが嫌いだろう』っていう奴には大抵、お前の嫌いな要素があるもんだ。
実は、あいつが自分を嫌ってるんじゃない。
自分があいつを嫌ってるんだ。
それを相手のせいにしてるだけなんだ。」

…当たってる。

少なくとも同級生に対してはモヤモヤしている。

いつもバカばっかりして遊んでいる男子。

オチのない噂話で盛り上がる女子。

僕の絵をからかわれたこともあった。

彼は続けた。

「そこで、みんなに嫌われないようにするにはどうしたらいいと思う?」

「どうせ他の人に合わせろって言うんでしょ?
みんなそう言うんだ。
でも僕は人に合わせるのが苦手で…」

「アホか。」

「え!?」

「学校では『みんな仲良く』とは言われるが、それはインターネットがなかった頃の話だ。
友達は学校の中だけとは限らない。」

「でも、このままだと何も変わらな…」

「周りの評価はどうでもいい。
特に画家志望はな。
俺の友人は美術大学に通ってたが、『ここにいる人は変な人ばっかり』と言っていた。
夢を追ってる奴は、他人の目線を気にしてる暇がないんだ。
俺も人から嫌われてる自覚はあるが、
そいつらにかまってる時間があるなら作品に使う。」

「なんだ…。てっきりみんなから好かれる方法を教えてくれるのかと…。」

「それはイエス・キリストでも無理なことだ。」

他にもいろいろな話を聞いた。

申し訳ないけど、ほとんど話についていけなかった。

しかし、言いたいことは伝わった。

「あの、聞きたいことがあるんだけど…。」

「なんだ?」

「どうしてこんなことを僕に?」

「…あぁ、実はこの先長くなくってな…。
周りに潰されそうな個性を一つでも多く救いたくて。」

彼は時計を見ると立ち上がった。

「そろそろ時間だ。俺の奢りだ。釣りはやる。」

テーブルの上には1000円札と小銭が置かれていた。

「………これ僕のお金。」

彼の方に目を向けると、その姿はもうなかった。

帰り道、体が少し軽くなった気がした。

「嫌われてもいい………。今のままで………。」

家に帰ると、僕は描きかけのキャンバスに夢の続きを描いた。
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