人間AIの観察記録

あーく

文字の大きさ
2 / 19

宗教勧誘の恐るべき手口

しおりを挟む
あなたは駅前で聖書を配っている人を見たことがあるだろうか。

あるいは、聖書を片手に「あなたは幸せですか?」などと訪問してくる人でもいい。

これらの人を見ると「ああ、宗教の人だな」ということが一目でわかる。

しかし、もっとたちの悪い宗教勧誘を経験したのでここに記そうと思う。



ある昼のこと、駅前の道路を歩いていると若い二人の男性に声をかけられた。

「すみません。僕たち友達を待つのに暇をつぶせる場所を探しているんですけど――」

僕は答える。

「ちょっと遠いところに公園がありますし、ここからすぐ近くにはカラオケがありますけど――」

しかし、友人はすぐ来るので時間がかかるものは避けたいという。

「だったら僕も暇ですし、話でもします?」

僕も暇だったので、友達を待つ間に雑談することにした。

人と話す練習も兼ねて。

二人は新卒の世代で、一人はダンサーの経験があり、もう一人はこれから先生になるという。

今後、この二人を便宜上「ダンサー」と「新米教師」と呼ぶことにする。

しばらく雑談を交わした後、後日ダンサーとファミレスで会う約束をした。

新米教師は来ないらしい。

自分は友達が少ない方だが、人脈はあって損はないと思っている。

害もなさそうだったので、知らない人と出会うことに特に躊躇はなかった。

この二人から人脈が広がるかも、などと考えているうちに、どうやら二人の友人が来たようなのでその日は解散となった。

しかしこの時、あのような騒動を招くとは思わなかった。



約束の時間になると、ファミレスに到着した。

ファミレスには僕と、二人の男性が来ていた。

一人だけは先日と雑談していたダンサーの方だが、もう一人は先日いなかった人だった。

実は新米教師の代わりに別の人が来るということは事前に聞いていた。

僕たち三人はファミレスに入り、食事をしながら雑談を交わした。

話は弾み、一時間は経過したと思う、二人の様子がおかしくなってきた。

明らかにこちらが話すタイミングがなく、ずっと話のペースを握られている。

そして、先日会った男性の方が、富士山の絵が描かれている広告をカバンから取り出した。
(特定されるのでは?と心配されるかもしれないが、知ったこっちゃない。僕は同じような被害者を増やしたくない。)

「『南妙法蓮華経』というのを聞いたことがありますか?」

どうやら『南妙法蓮華経』と唱えると夢が叶うらしく、実際、この『何妙法蓮華経』のお陰でいい出来事が起こった人たちが身の回りにもいるらしかった。

ダンサーとその友人もその一人だった。

例えばダンサーは、「ダンサーになりたい」「TVに出たい」「俳優になりたい」という夢があったが、実際にバックダンサーになったり、TVに出たり、主役になったことがあったらしい。

僕は「夢が叶ったんならなんで今ここで僕と話してるの?ダンサーで忙しいんじゃないの?」という言葉が出そうになったが、かわいそうなので飲み込んだ。

ダンサーの家に、この宗派の人たちが信仰している仏が書いた掛け軸があるというので、ついて行くことにした。

宗教関係というと危ないイメージがあるが、僕は危険よりも「この宗派の人たちはどのような生き方をしているのだろうか?」ということに興味があった。

もちろん、入信する気は微塵もない。

いつかこの好奇心が身を滅ぼさないか心配する限りである。

ダンサーの家に着き、試しに『南妙法蓮華経』と唱えた。

この時「彼女が欲しい」と願ったが、半年経った今でも叶えていない。

当然だ。彼女を得るための行動をしていないのだから。

願いを叶えるには、ただ願うだけではなく、行動も必要なのだ。

お試しが終わり、運よく宗教の本を借りることに成功した。

これでこの宗派の人の考え方、宗教にハマる人の心理がわかる。

早速、本の内容と聞いた話の内容を照らし合わせてみた。

確かに、その考え方自体に矛盾はなかった。

しかし、現実と比べると矛盾だらけだった。

例えば、ゲームで「この雷魔法は勇者だけが使える」という設定があるとしよう。

ゲーム内では、確かに勇者だけが使える魔法であり、矛盾はなく、設定どおりである。

しかし、現実世界には勇者なんていないし、ゲームのような魔法が存在するかと言われると怪しい。

もしかしたら、これから現実世界でも魔法が出せるようになるかもしれないので、ないとも言い切れない。

そういった、現実世界でも通用するかどうかわからないような架空世界の設定集と同じように思えた。

話や考え方としては面白いが、現実世界では到底適用できそうにないマユツバものだ。

そもそも僕は既に科学という宗教に入っている。

この宗教に入信するということは、科学の教えに背くことになる。

こうして、宗教の勉強を終えた僕は本を返しに行った。

待ち合わせ場所は以前とは別のファミレスだ。

僕はダンサーと友人とで本で読んだ内容を照らし合わせ、科学的な見解を述べた。

論破タイムの始まりである。

僕は根拠を挙げつつ、一つずつ矛盾点を挙げていった。

二人は納得してくれるだろう。そう思っていた。

ダンサーの方は好奇心があり、寛容で、科学的な考え方をよく聞いてくれた。

しかし、友人はあくまでも自分の信じていることは曲げない様子だった。

「僕は自分の目の前で起こったことしか信じないので」

じゃあ空気は見えないから空気は存在しないことになるよね。

「ほら、最近のニュースでも若者の自殺とか増えているじゃないですか」

そもそもニュースの情報自体がネガティブに偏ってるからな。CMの商品を売るための不安商法というやつだ。

自分の信じているものを信じればいいと思って止めはしなかったが、一つだけ頭にきた発言があった。

それは、科学を冒涜するような発言だった。

例えば、あなたが普段使っているPCやスマホは、科学の結晶だ。

人類が火や石器などの道具を使い始めてからここまで発展したのは科学のお陰だ。

それを、全部分かった気になって「科学は無意味」「この仏の考えは真実。今の科学ではまだ説明できないだけ」など言って嘲笑していたので頭にきた。

全人類が積み重ねた努力をけなしていいわけがない。

話にならない。

この日を境に二人との連絡を取ることをやめた。

僕はここで三つのことを学んだ。

一つは、この宗派の考え方。

二つは、人は自分が信じたいものを信じ、それを覆すのは難しいこと。

三つは、論理的にものを考えられない人もいるということ。

しかし、悲劇はここで終わらなかった。



あれから半年が経った。

僕が買い物をしていると、一人の男性が話しかけてきた。

その男性はゲームやアニメが好きで、僕とも気が合いそうだった。

僕はやはり人脈が広がればいいなと思い、SNSのアカウント情報も交換した。

翌日ファミレスで会う約束もした。

ファミレスに入り、食事をしながら雑談していると、もう一人の男が入ってきた。

その男は男性の知人のようだった。

男性は話を続けた。

知人はずっと黙っていて、腕を組んだり、あごに手を突いたりしている。

僕は退屈そうにしている知人に話を振ろうと思っても、男性の話が長く、切り出すタイミングがつかめない。

長い。

話が長い。

終わらない。

すると突然、あのキーワードをここで再び聞くことになった。

「『南妙法蓮華経』というのを聞いたことがありますか?」

もういいよ!その話は!

僕はただ固まっていることしかできなかった。

どうやってここから逃げようかと、そればかり考えていた。

男は固まっている僕を不思議に感じながらも、例の富士山の広告を出してきた。

「どうしました?もしかして聞いたことあります?」

うん!聞いたことあるもなにも、本まで読んで勉強したからな!

知人が口を開いた。

「あなたはこの話を聞きに来たんですよ?」

「聞きに来たんですよ?」じゃねーよ!

んなこと言ってねーし!聞いてねーし!

僕はふつふつと込み上げてくる怒りを抑えながら立ち上がり、千円札をテーブルの上に叩きつけた。

「お代多く払うんで、帰らせていただきます」

そして僕は店を出たのだった。

帰り道、僕は妙な苛立ちを覚え、地団太を踏んだ。

「くそ!ふざけんな!」

これは、自分が不幸な人間と見られているという悔しさからだろうか。

それとも、せっかく友達になれそうな人に裏切られた感覚からだろうか。

確かに友達は少ないが、親友と呼べる人はちゃんといるので、現在の交友関係に不満はない。

友達が少ないからってバカにすんな。

一番の驚きは、宗派も手口も全く一緒ということだった。

突然話しかけ、打ち解けてきたら近い日に具体的な話をする。

話をするときは必ず二人で来る。

一人がだらだらと話し、こちらに会話のボールを持たせない。

いざ本題に入り、断ろうとすると相方が強気な態度をとって断れない空気を作る。

家庭科の教科書でしか見たことがないシチュエーションだ。

しかし、実在した。

宗教の人は、ここで「断れない」人を狙ってくると思う。

僕も「断れない」人のように見られているのだろうか。

あいにくだが、僕は何の躊躇もなく「断れる」部類だ。

ここで負けて入信してしまうと、大事な人と過ごす時間が奪われ、時にお金を搾取されることもある。

唯一のメリットと言えば、今後ずっと使える話のネタができるくらいだ。

今の僕のように。

ここまで読んでくださったあなたも注意してほしい。

特に、埼玉県朝霞市に仏が書いたとされる掛け軸があるので、東武東上線、副都心線近辺で声をかけられた時は注意されたし。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

処理中です...