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うさんくさいセミナーに参加した件について
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ある日、僕の住んでいるアパートのポストに、広告が入っていた。
『無料であなたの性格を分析します』というような旨の内容だった。
ちょうど心理学を勉強している時期だったので、なにかの勉強になるだろうという目的から性格を分析してもらうことにした。
休日にその広告に書かれている場所へ向かうと、大きな建物があった。
中に入ると、エントランスにはたくさんの書物があり、解説の映像と音声が流れている。
僕はポストにあった広告を受付に見せると、中に案内された。
すると、性格分析シートに記入するよう言われた。
性格分析シートは100問近くの質問でできており、当てはまると思う数字にマークをするマークシート形式だ。
例えば
【あなたは仕事に真面目に取り組む】
当てはまる:5、やや当てはまる:4、当てはまる:3、やや当てはまらない:2、当てはまらない:1
というような感じだ。
僕は1時間くらいかけてすべての質問にマークした。
すべて回答し終わったことを案内人に報告すると、性格分析の結果を聞いた。
結果の内容はよく覚えていないが、オクスフォード大学によるとこの質問で自分の性格がわかるらしい。
しかし、僕の性格がどうだったかに興味はなかった。
BIG5という性格分析の方を信じていたためだ、
BIG5とは、現在もっとも信憑性のある性格分析と言われ、様々な分野の研究でも使われている。
人間の性格は「外向性」「協調性」「開放性」「誠実性」「神経症的傾向」の5つの要素の強弱で決まるという考え方だ。
例えば、よく日本の学校で求められる「協調性」は、低い方が年収が高い傾向があるということがわかっている。
「協調性」が高いと自分だけ収入が上がることを後ろめたく思うらしい。
BIG5では、このように分析結果から思考や行動が予測しやい。
また、他の性格分析と違い「明日また受けてみたら結果が大きく変わった」などということはない。
僕がこのオクスフォード大学の性格分析を受けたのは勉強のためであり、自分の性格を知りたいという理由ではない。
この分析を聞く限り、信憑性はこのBIG5に劣っていると判断した。
有名なオクスフォード大学という名前で客を釣る魂胆なのだろう。
僕が帰ろうとすると案内人から声をかけられた。
もう少し待ったらセミナーが始まる時間なので、もしよければ来ないか?とのことだった。
この時点でも期待は0だったが、この人たちの考え方が気になるので話だけでも聞いてみることにした。
それはトラウマの原因と、その解決方法についてのセミナーだった。
彼らが言うには、人間は高性能なコンピュータであり、ある人間に同じ情報をインプットすると、必ず同じアウトプットをするようにできているらしい。
それを、電卓に1+1と入力すると、必ず2が返って来ると例えていた。
しかし、眠っているときや重体のときなど、意識がない状態で間違った情報が入ると、間違ったアウトプットをするようになるという。
例えば、蜘蛛を見ても何とも思っていなかったのが、意識がない状態で何かを吹き込まれた途端、急に蜘蛛が怖くなる、という風だ。
それを、電卓に1+1と入力したつもりが、自分が知らないところで誰かが勝手に+1しため、3が返って来ると例えていた。
本人は勝手に+1されたことに気付いていない。
これがトラウマの原因であり、トラウマを克服するには誰かが勝手に押した+1を元に戻す必要があるという。
そのためにカウンセラーが患者の過去の情報を引き出す、という方法を紹介していた。
実際にそのカウンセリングを受けている様子の映像を観た。
患者はまるで催眠術にかかったかのように過去を語り出した。
トンデモ論だと思った。
まず人間は、昨日と今日で言ったことが平気で変わったりするし、記憶も元々改ざんされやすかったりする。
過去の記憶を引き出したとして、その記憶が正しいという保証はない。
なので同じインプットが来たら同じアウトプットが出るという前提が間違っている。
人間はコンピュータではない。
しまいには、セミナーの講演者はこの考え方に関する書籍を薦めてきた。
1万円弱はしていたと思う。
「買っても買わなくてもいい」と言われたものの、ほぼ黒だと思った。
厄介なことに、このセミナーを受けていた他の人はこの考え方を真に受けているようだった。
サクラなのかもしれないが。
親御さんと一緒に来ていた学生もいた。
もしサクラでないなら、自分で間違いに気付いてくれるのを祈るばかりだ。
セミナーが終わると、玄関で案内人に見送られた。
僕の性格の分析結果を教えてくれた人だった。
このままでいいのか。
正さとは何か。
過程が間違ってても結果が良ければいいのか。
間違った情報を信じ続けた人は――
僕は案内人に話しかけた。
「ちょっと来てもらえませんか?ここでは言いにくいことなので」
僕は案内人と外で話をした。
「実は僕、今回の話を信じる気はさらさらなくて――」
「いいですよ。信じる信じないは自由なので」
「例えば今回の件でトラウマを治す方法がありましたが、トラウマは自分の力で克服できるんです!」
僕は中学、高校のとき、緊張して女子と話せなかった過去がある。
それが大学生になって練習し、自力で克服していた経緯もあり「問題は自分から動かなければ解決しない」ということを学習していた。
「あなたも自分の力で克服してみませんか!?」
案内人は静かに答えた。
「……でも、僕はこれでトラウマを克服したので、僕はここを離れるわけにはいきません」
確かこんな会話を交わしたと思う。
こうして僕は「人は自分が信じた事は疑わない」ということを学んだ。
同時に「僕は人一人の考え方すら変えられない」という無力感にも襲われた。
『無料であなたの性格を分析します』というような旨の内容だった。
ちょうど心理学を勉強している時期だったので、なにかの勉強になるだろうという目的から性格を分析してもらうことにした。
休日にその広告に書かれている場所へ向かうと、大きな建物があった。
中に入ると、エントランスにはたくさんの書物があり、解説の映像と音声が流れている。
僕はポストにあった広告を受付に見せると、中に案内された。
すると、性格分析シートに記入するよう言われた。
性格分析シートは100問近くの質問でできており、当てはまると思う数字にマークをするマークシート形式だ。
例えば
【あなたは仕事に真面目に取り組む】
当てはまる:5、やや当てはまる:4、当てはまる:3、やや当てはまらない:2、当てはまらない:1
というような感じだ。
僕は1時間くらいかけてすべての質問にマークした。
すべて回答し終わったことを案内人に報告すると、性格分析の結果を聞いた。
結果の内容はよく覚えていないが、オクスフォード大学によるとこの質問で自分の性格がわかるらしい。
しかし、僕の性格がどうだったかに興味はなかった。
BIG5という性格分析の方を信じていたためだ、
BIG5とは、現在もっとも信憑性のある性格分析と言われ、様々な分野の研究でも使われている。
人間の性格は「外向性」「協調性」「開放性」「誠実性」「神経症的傾向」の5つの要素の強弱で決まるという考え方だ。
例えば、よく日本の学校で求められる「協調性」は、低い方が年収が高い傾向があるということがわかっている。
「協調性」が高いと自分だけ収入が上がることを後ろめたく思うらしい。
BIG5では、このように分析結果から思考や行動が予測しやい。
また、他の性格分析と違い「明日また受けてみたら結果が大きく変わった」などということはない。
僕がこのオクスフォード大学の性格分析を受けたのは勉強のためであり、自分の性格を知りたいという理由ではない。
この分析を聞く限り、信憑性はこのBIG5に劣っていると判断した。
有名なオクスフォード大学という名前で客を釣る魂胆なのだろう。
僕が帰ろうとすると案内人から声をかけられた。
もう少し待ったらセミナーが始まる時間なので、もしよければ来ないか?とのことだった。
この時点でも期待は0だったが、この人たちの考え方が気になるので話だけでも聞いてみることにした。
それはトラウマの原因と、その解決方法についてのセミナーだった。
彼らが言うには、人間は高性能なコンピュータであり、ある人間に同じ情報をインプットすると、必ず同じアウトプットをするようにできているらしい。
それを、電卓に1+1と入力すると、必ず2が返って来ると例えていた。
しかし、眠っているときや重体のときなど、意識がない状態で間違った情報が入ると、間違ったアウトプットをするようになるという。
例えば、蜘蛛を見ても何とも思っていなかったのが、意識がない状態で何かを吹き込まれた途端、急に蜘蛛が怖くなる、という風だ。
それを、電卓に1+1と入力したつもりが、自分が知らないところで誰かが勝手に+1しため、3が返って来ると例えていた。
本人は勝手に+1されたことに気付いていない。
これがトラウマの原因であり、トラウマを克服するには誰かが勝手に押した+1を元に戻す必要があるという。
そのためにカウンセラーが患者の過去の情報を引き出す、という方法を紹介していた。
実際にそのカウンセリングを受けている様子の映像を観た。
患者はまるで催眠術にかかったかのように過去を語り出した。
トンデモ論だと思った。
まず人間は、昨日と今日で言ったことが平気で変わったりするし、記憶も元々改ざんされやすかったりする。
過去の記憶を引き出したとして、その記憶が正しいという保証はない。
なので同じインプットが来たら同じアウトプットが出るという前提が間違っている。
人間はコンピュータではない。
しまいには、セミナーの講演者はこの考え方に関する書籍を薦めてきた。
1万円弱はしていたと思う。
「買っても買わなくてもいい」と言われたものの、ほぼ黒だと思った。
厄介なことに、このセミナーを受けていた他の人はこの考え方を真に受けているようだった。
サクラなのかもしれないが。
親御さんと一緒に来ていた学生もいた。
もしサクラでないなら、自分で間違いに気付いてくれるのを祈るばかりだ。
セミナーが終わると、玄関で案内人に見送られた。
僕の性格の分析結果を教えてくれた人だった。
このままでいいのか。
正さとは何か。
過程が間違ってても結果が良ければいいのか。
間違った情報を信じ続けた人は――
僕は案内人に話しかけた。
「ちょっと来てもらえませんか?ここでは言いにくいことなので」
僕は案内人と外で話をした。
「実は僕、今回の話を信じる気はさらさらなくて――」
「いいですよ。信じる信じないは自由なので」
「例えば今回の件でトラウマを治す方法がありましたが、トラウマは自分の力で克服できるんです!」
僕は中学、高校のとき、緊張して女子と話せなかった過去がある。
それが大学生になって練習し、自力で克服していた経緯もあり「問題は自分から動かなければ解決しない」ということを学習していた。
「あなたも自分の力で克服してみませんか!?」
案内人は静かに答えた。
「……でも、僕はこれでトラウマを克服したので、僕はここを離れるわけにはいきません」
確かこんな会話を交わしたと思う。
こうして僕は「人は自分が信じた事は疑わない」ということを学んだ。
同時に「僕は人一人の考え方すら変えられない」という無力感にも襲われた。
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