帰宅部

あーく

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帰宅部(前編)

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「お前は入る部活決めた?」
「俺、バスケ部」
 みなみ高校の入学式の日、この教室は部活の話題で持ちきりだ。教室の外では、先輩たちが部員を確保しようと待ち構えている。
 HRホームルームが終わり、クラスメイトが散り散りになっていく。早速勧誘に捕まっている人もいた。
「ゴウ、お前は何部に入るんだ?」
「決まってるだろ?」
 俺が入る部活はもう決まっている。
「帰宅部だ」

 帰宅部――「部」と付くが、実際は部活に所属せず学校が終わると家に帰るだけ。部活動に所属していないことを揶揄してなのか、そう呼ばれている。
「君! 帰宅部に入ってくれるのか!?」
 声のする方へ顔を向けると、謎の人物が走りながらこちらへ向かってきた。角刈りでタンクトップにジャージ――どう見ても体育会系だった。
「君は今、確かに帰宅部に入ると言ったね!? 僕は帰宅部部長のホンダだ! よろしく! いやー、人数が少ないから助かったよ」
「は?」
 俺は眉をひそめた。
「何言ってんだよ。帰宅部が実際にあるわけじゃないだろ。俺は部活に入んねーって言ってんだよ」
「何ぃ!? さっきのは嘘だったのか! 冷やかしなら帰れ!」
 言われなくても帰るよ。ってか帰らせてくれよ。

 すると、奥の方から先生が近づいて来た。
「なんだ、随分うるさい声がするから来てみればホンダくんじゃありませんか。今年こそ結果を出してくれるんですか?」
「こ……校長先生!!」
 ホンダの表情に緊張が走った。
「今度の県大会で結果を出さなければ廃部という約束を忘れたとは言わせませんよ。結果も出していない部活動に予算を割くわけにはいきませんからね」
「わかってます。次の県大会こそ見ていてください!」
 廃部って何だよ。帰宅部が廃部したら家に帰れなくなるだろ。何でそんなスポ根みたいな状況なんだよ。
 ホンダは軽く微笑みを浮かべた。
「大丈夫です。この彼が、我ら帰宅部を変えて見せます」
 お前が変えるんじゃないのかよ。
 友人に助けを求めたが、既に姿はなかった。



 まさか、冗談だと思っていたが帰宅部が実在していたとは。そして、このホンダという人物が三年生の先輩だったとは。
「すみません。先輩とは知らずに」
「ハハッ! いいんだよ、わかってくれれば」
「それより、帰宅部の県大会って?」
「ああ。全国の高校が帰宅で競うんだ」
 帰宅で競うって何だ。
「うちはほとんどが幽霊部員でね、出てくれる人がいないんだよ」
 帰宅部が実際にあると思っていないだけだと思う。
「勧誘もしてるんだけどねえ、大会当日になると誰も来ないんだよ。きっと帰宅に対する意識が高いから、大会に向かってる途中で帰っちゃうんだろうね」
 そもそも会場に向かってすらいないのでは?
 帰宅で争う、というのもいまいちピンとこなかった。
「帰宅って何を競うんですか?」
「ああ、帰宅までの時間だったり、帰宅の美しさだったり、いろいろさ」
 これはまたざっくりしているな。
「僕は毎回タイムアタックに挑戦しているんだが、なかなか勝てなくてね」
 それで体を鍛えているのか。
「毎日走り込みをして、自転車も漕いで、足腰を鍛えて、それで毎回自己ベストを塗り替えているんだ」
 いっそのこと陸上部に入れよ。
 しかし、毎回自己ベストを更新しているような人でも無理なら、僕なんて出ても仕方ないだろう。
「頼む! 帰宅部の廃部の危機を救ってくれ!」
「残念ながら、僕には協力できません」
「待ってくれ! 仮入部だけでも! せめて活動内容だけでも見に来てくれ!」
 帰宅部に仮も何もないと思うんだが



 しつこく付きまとう先輩を振り払うと、ほどなくして家に着いた。
 自宅ではなく、おばあちゃんの家だった。
「お帰り、ゴウちゃん」
「ただいま。おばあちゃん」
 俺は今、おばあちゃんの世話になっている。
「ゴウちゃん、そろそろお母さんたち心配してるんじゃないかい?」
「やだよ。あんなところ」
「そうかい。なら、気が済むまでここにいるといいよ」
 実は両親と喧嘩してしまい、何も言わずに家を飛び出してきたのだ。おばあちゃんの家は近くにあり、おばあちゃんも快く受け入れてくれた。おばあちゃんはここが第二の家だと言ってくれるのだが、僕にとって本当の意味での帰宅とは言えなかった。
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