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第25話 僕はオメガの寵姫様
しおりを挟む「楽しみだなぁ」
国王陛下アルベルトからお許しが出たから、レイミーはウキウキした気分が抑えられないでいた。
だってサーカスだ。あのサーカスを呼んでいいのだ。なんて贅沢なのだろう。
レイミーは去年見たサーカスの曲芸を思い出して興奮が抑えられなかった。
「綿菓子も食べられるのかなぁ」
「お呼びすればよろしいかと」
「飴細工も?」
「お呼びすればよろしいかと」
「呼んでもいいの?」
「もちろんです」
女官のセシリアはレイミーが呟くあれこれをひたすらメモしている。サーカスを呼ぶぐらいなんてことがない。レイミーの予算はたくさんある。むしろ有り余っている。なにしろ普段着ているのが制服だ。予備も含めて仕立てているが、レイミーがオメガのせいなのかなかなか制服がきつくなることがない。あれだけ食べさせているのに、なかなか肉がつかないのである。もう一年も経つというのに、困ったものである。そんなわけでいまだにレイミーには発情期が来ていない。ある意味ありがたいことではある。隣国の姫の輿入れの前に子ができないことはいいことなのだ。
「では、レイミー様。本日も勉学にお励みくださいませ」
女官のセシリアはレイミーにカバンを渡すと深々とお辞儀をした。レイミーは他の学生と同じように校舎に入っていく。唯一の違いはその背後に騎士がついていることだ。一つ下の双子の妹たちも学園に通うことになり、レイミーは嬉しくてたまらない。だから歩き方は自然とスキップを踏んでいるので、見かけた生徒はそっと目をそらすのであった。
「レイミー様、おはようございます」
教室に付くと一番最初に声をかけてくれるのはハーンルーン公爵令嬢エミリアだ。
「おはようございます。エミリア様」
今ではすっかりレイミーの挨拶も様になってきた。
「なんだかレイミー様はご機嫌でいらっしゃいますのね」
「はい。サーカスを呼ぶんです」
「サーカス、にございますか?」
席に着きながら、エミリアはちょっと小首をかしげた。なにしろ建国祭で広場に無料のサーカスがいたのは昨日のことだ。朝方サーカスのテントはすっかり姿を消していて、移動を始めていたのをエミリアは確認している。
「はい。僕毎年サーカスを見るのが楽しみだったんです。でも今年は見られなかったから」
「レイミー様はお忙しいお立場でしたものね」
当たり障りのない返答をしながら、エミリアは考える。もちろん頭に浮かんだのは国王陛下アルベルトと同じことで、広場の無料のサーカスは平民たちへの国王陛下からの施しの一つだ。甘い菓子を無料で配り、子どもたちに年に一度の特別な娯楽を提供しているのだ。貴族は、サーカスなどの芸事を鑑賞するときは劇場に赴く。もちろんチケットはそれなりの金額になるわけで。
「陛下がサーカスを呼んでいいって言うんです」
「へ、陛下が、ですか?」
「そうなんです弟妹も呼んでいいそうなんで、今から楽しみなんですよ」
「まあ、ご弟妹様も」
「綿菓子も食べていいんです。僕、とっても楽しみです」
そんなことを口にしてうっとりとした顔をするレイミーの頭の中は、きっと綿菓子のようにふわふわしているに違いない。
そのころ王城ではなかなか難しい話になっていた。
「それをするなら先にマイヤー子爵を伯爵にせねばなりません」
「なぜだ?」
「レイミー様の立場はまだ寵姫なのです。しかも実家は子爵家とあっては身分的によろしくないのですよ。お判りでしょう?陛下」
宰相に渋い顔をされ説明されたところで、国王陛下アルベルトにとっては、どうでもいいことだった。かわいいかわいい私のオメガであるレイミーのために何でもしてやりたいのだ。そこに身分とか爵位何てゴミくずみたいなものなのだ。だがしかし、聡明なアルファの国王であるアルベルトはわかっていた。めんどくさいことだが、婚約者となった隣国の姫だ。子爵程度の家の出の寵姫を優遇すれば何か横やりを入れてくるだろう。情報が伝わるには時間がかかるが、自分にも贈り物をよこせぐらいは言ってくるだろう。婚約してやっただけありがたく思えというのに、どうにも面倒な存在である。
「あい分かった。マイヤー子爵を伯爵にする。すぐさま手続きを」
「了解いたしました」
宰相がいなくなると、待ち構えていたように女官のセシリアがやってきた。
「陛下」
「なんだ」
「レイミー様のご要望ですが」
「申せ」
「ご弟妹様たちと共にサーカスを鑑賞したいそうです」
「よい」
「綿菓子と飴細工を食べたいそうです」
「よい」
「大勢の人たちと楽しみたい。と」
「だめだ」
「泣きますよ」
「それはもっと駄目だ」
「ご友人をご招待したいと」
「アルファはもっと駄目だ」
国王陛下アルベルトの頭に真っ先に浮かんだレイミーの友人は、公爵令嬢エミリアだ。美しく聡明なアルファであることぐらい知っている。レイミーに取り入ろうとせず、アルファらしく毅然としたふるまいをしていることももちろん知っている。だが、駄目なものは駄目なのだ。私のオメガが目の前で他のアルファと仲良くするのは見たくないのである。断固拒否なのだ。
「警備はどうなさるおつもりで?」
セシリアがなおも食い下がると、国王陛下アルベルトは苦虫をかみつぶしたような顔になったのだった。
「では、警備を第三騎士団の方たちにしてもらいましょう」
「なぜだ?」
「だって、平民の方たちでご家族がいらっしゃるでしょう?その方たちを招待すればにぎやかになります」
閨でレイミーが出してきた提案に、国王陛下アルベルトは一つ返事で頷けなかった。だって、第三騎士団は平民のアルファの部隊だ。平民とはいえ、番がいたとしてもアルファはアルファだ。
「大勢で楽しみたんです」
「だがしかし」
「幼い子どもたちはサーカスが見たいに決まってます。きっと僕みたいに見られなかったに違いありません」
「いや、だからといって」
「陛下だって見たことがないくせに」
「そ、それはっ」
「みんなで一緒に楽しみましょうよ。第三騎士団の人たちが警備を担当すれば、家族と一緒に過ごせるじゃないですか。楽しい思い出を家族で作れて、招待してくださった陛下に感謝して、警備もばっちりなんて、一石三鳥です」
レイミーがふんすっと鼻息荒く言うものだから、アルベルトはもう言い返せない。だってかわいいかわいい私のオメガが素晴らしい提案をしてきたのだから。
もとより、後宮にサーカスをいれることは出来なくて、城内の中庭の予定だったから、警備の必要性は薄かった。サーカスの警備なんて、貴族籍の騎士がすすんで引き受けることがないことぐらいわかっていたから、レイミーの提案は間違いではなかったのである。
「さすがは私のオメガだ。素晴らしいな」
「ほんとですか?僕、すごいですか?」
閨でそんなことを口にして興奮するレイミーは、ちょっとずれているが、アルベルトからすればかわいくて仕方がなかった。
「明日早速手配をしよう。招待状のデザインはレイミー、お前が考えなさい」
「はーい」
アルベルトの大きな手で頭を撫でられ、レイミーは心地の良い匂いに包まれて満足そうに眠りについたのだった。
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