27 / 41
第27話 僕の胸はドキドキです
しおりを挟む「これは砂糖であろう?」
「綿菓子です」
「これも砂糖だ」
「飴細工です」
「これはリンゴに砂糖をかけた物だろう?」
「りんご飴です」
むううっと口を尖らせたレイミーをアルベルトは笑いながら眺めていた。
レイミーの食べたいものだけが集められた屋台は、すべて甘いものだらけだった。何しろ砂糖は高級品だ。砂糖を使った菓子なら城下町でも売られているが、砂糖だけを使った綿菓子や飴細工は簡単に買えるものではない。特に綿菓子は溶けてしまうため、特別な日にしか屋台が出ないのだ。それが年に一度の建国祭で、国王陛下から子どもたちに特別にふるまわれる大変ありがたい食べ物なのだ。
レイミーをからかうようにふるまうアルベルトではあるが、ふわふわした綿菓子を食べるレイミーが愛らしくて仕方がないのだ。だから、その姿を他のアルファに見られたくないのである。だがしかし、今日は家族が共にいるおかげで、誰もレイミーを見ることがない。第三騎士団は平民のアルファで構成されているから、その妻はオメガ、会場にいるアルファはまず自分のオメガを見てしまうため、威嚇のフェロモンが出ることもなく、なんとも平和な状態なのであった。
「あれは何だ?」
一番高い観客席からサーカスを眺めていたアルベルトがレイミーに問いかける。あくまでも国王陛下アルベルトはサーカスを知らない設定だ。
「あれは犬の曲芸です。大玉に乗ったり、芸をするんですよ」
綿菓子を頬張りながらレイミーが解説をする。
フェロモンテロを防止するために、サーカスのテントは屋根の部分しか幕が張られていなかった。それでも、国王陛下アルベルトと寵姫のレイミーが座る席だけは壁と屋根に囲われてはいるけれど。
「犬が芸をするのか。それは興味深いな」
どれどれと言った感じでアルベルトは舞台を見てみるが、隣に座るレイミーがキラキラと瞳を輝かせるからどうにも落ち着かない。レイミーが両手をこぶしにして、小さな声をあげるたび、思わずフェロモンが漏れ出してしまうのだ。そのたびに女官のセシリアが小さく咳ばらいをするので、アルベルトは心の中で舌打ちをするのであった。
「陛下、見てください。ワンちゃんが大玉の上を歩いてます」
レイミーが興奮気味に言ってくるけれど、目線は舞台の上の犬にくぎ付けだ。それが若干面白くはないと思うアルベルトなのだが、たかが犬、されど犬。アルファではない(多分)。だからこそ、こんなことで己がフェロモンを漏らしてしまうことが悔しくてたまらないのである。
「なかなか器用なものだな」
ありきたりな感想を口にしなくてはならないもどかしさでいっぱいのアルベルトであるが、そんなことはレイミーの知ったことではない。
「うわぁぁ、ワンちゃんが輪くぐりをしていますぅ。すっごーい」
レイミーが舞台にいる犬に声援を送っている。そんなこと、いまだかつてアルベルトはしてもらったことなんてないのに。たかが犬の分際で国王陛下アルベルトのオメガであるレイミーの声援を受けるだなんて、なんて贅沢な存在なのだろう。ひじ掛けに頬杖をついた姿勢で余裕ぶっているアルベルトではあるが、威嚇のフェロモンを押さえるのに必死なのてあった。
「空中ブランコです。陛下、見てますか?」
レイミーが相変わらず隣で叫んでいる。でもレイミーの目線は相変わらずアルベルトの方を見ていない。今度は揺れる空中ブランコにくぎ付けだ。アルベルトの袖を掴んではいるものの、まったくアルベルトを見ないレイミーがもどかしくて仕方がない。けれど、瞳をキラキラと輝かせ、興奮して頬を紅潮させる自分のオメガの顔を眺めるのも悪くはない。アルベルトは銀の盃に注がれた酒をちびちびとたしなむのであった。
「本日は素晴らしいショーをありがとうございました」
日が少し傾いてきたころ、レイミーがお礼のあいさつを始めた。もちろんサーカスの団員に向けたあいさつではあるが、それではアルファのアルベルトがやきもちを焼いてしまうため、当然締めくくりは国王陛下アルベルトに感謝の気持ちを伝えなくてはならない。
「こんなに素敵な贈り物を下さった陛下に感謝してもしきれません。僕、とっても幸せです」
そう言ってにっこり微笑まれてしまえば、悪い気はしない。綺麗なお辞儀をしたレイミーを、国王陛下アルベルトが抱き寄せた。そうして抱きかかえて額に唇を落とせば、感嘆のため息が聞こえてくるというものだ。
「余の番が大変満足をした。褒美をとらせよう」
実にアルファの国王陛下らしい言葉を残し、アルベルトはレイミーを抱きかかえて会場を後にしたのであった。もちろん、まだ会場にいた第三騎士団院の子どもたちは綿菓子やりんご飴を堪能したのであった。
「うわぁ、ワンちゃんの飴細工ですぅ」
部屋に戻ったレイミーの前にはたくさんの飴細工が並んでいた。犬だけではない、鳥、猫、兎と身近な動物の飴細工がレイミーのために用意されていた。
「注文を聞く時間がありませんでしたので、全ての飴細工を揃えました」
女官のセシリアが説明をするけれど、レイミーの耳には入っていないようで、レイミーは手に取って一つ一つじっくりと眺めては嬉しそうに笑っていた。
「レイミー様、一日一つでお願いしますね」
「え?」
「本日はすでに綿菓子とりんご飴を食べられていますから、明日の分ですよ」
セシリアにそんなことを言われてレイミーはしょんぼりしてしまった。だって、目の前にこんなにたくさんあるのに食べてはいけないだなんて、あんまりすぎる。
「お夕食の時間が来てしまいます」
「あ、そうだった」
時計を見てレイミーはハッとした。マイヤー子爵家改めマイヤー伯爵家になったのだけれど、実家にいたころはこんな贅沢許されてはいなかった。一つの飴細工を弟妹達と仲良く分け合って食べていたのだ。
「あのっ」
「ご安心ください。ご弟妹様たちはお好きな動物の飴細工をお土産にされました。妹様たちは色違いの鳥、弟様たちは犬にございます」
「それはよかったです」
それを聞いて安心したレイミーは、ウキウキした気分で飴細工を眺めたのだった。だって、一人で一つを最後まで食べられるのだ。なんて贅沢なことだろう。もちろん今夜の閨で話すことは決まっている。会場では語りつくせなかったサーカスの感想を余すことなく国王陛下アルベルトに伝えるのだ。話す内容を考えながら、レイミーはウキウキと夕食を食べたのであった。
128
あなたにおすすめの小説
魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由
スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの少年二人は、15歳になり神の祝福でスキルを得た事で道をたがえる。彼らはやがて青年となり、片方は魔王討伐に旅立つ勇者として華々しい活躍をし、もう片方はただ彼の帰還を待つ相変わらずスラム暮らしの存在となる。
これは何も持たない青年がただ勇者の帰りを待つ日常を描いた作品です。
無自覚両片想いの勇者×親友。
読了後、もう一度だけ読み直して頂けると何か見える世界が変わるかもしれません。
薄紅の檻、月下の契り
雪兎
BL
あらすじ
大正十年、華やかな文明開化の影で、いまだ旧き因習が色濃く残る帝都。
没落しかけた名家に生まれた“Ω(オメガ)”の青年・白鷺伊織は、家を救うため政略的な「番(つがい)」として差し出される運命にあった。
しかし縁談の相手は、冷酷無慈悲と噂される若き実業家であり“α(アルファ)”の当主・九条鷹司。
鉄道・銀行事業で財を成した九条家は、華族でもありながら成り上がりと蔑まれる存在。
一方の伊織は、旧華族の矜持を胸に秘めながらも、Ωであるがゆえに家族から疎まれてきた。
冷ややかな契約婚として始まった同居生活。
だが、伊織は次第に知ることになる。
鷹司がΩを所有物としてではなく、一人の人間として尊重しようとしていることを。
発情期を巡る制度、番契約を強制する家制度、そして帝都に広がる新思想。
伝統と自由のはざまで揺れながら、二人は「選ばされた番」から「自ら選ぶ伴侶」へと変わっていく——。
月明かりの下、交わされるのは支配ではなく、誓い。
大正浪漫薫る帝都で紡がれる、運命を超える愛の物語。
【16話完結】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー
AI比較企画作品
ブレスレットが運んできたもの
mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。
そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。
血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。
これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。
俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。
そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?
姉の男友達に恋をした僕(番外編更新)
turarin
BL
侯爵家嫡男のポールは姉のユリアが大好き。身体が弱くて小さかったポールは、文武両道で、美しくて優しい一つ年上の姉に、ずっと憧れている。
徐々に体も丈夫になり、少しずつ自分に自信を持てるようになった頃、姉が同級生を家に連れて来た。公爵家の次男マークである。
彼も姉同様、何でも出来て、その上性格までいい、美しい男だ。
一目彼を見た時からポールは彼に惹かれた。初恋だった。
ただマークの傍にいたくて、勉強も頑張り、生徒会に入った。一緒にいる時間が増える。マークもまんざらでもない様子で、ポールを構い倒す。ポールは嬉しくてしかたない。
その様子を苛立たし気に見ているのがポールと同級の親友アンドルー。学力でも剣でも実力が拮抗する2人は一緒に行動することが多い。
そんなある日、転入して来た男爵令嬢にアンドルーがしつこくつきまとわれる。その姿がポールの心に激しい怒りを巻き起こす。自分の心に沸き上がる激しい気持に驚くポール。
時が経ち、マークは遂にユリアにプロポーズをする。ユリアの答えは?
ポールが気になって仕方ないアンドルー。実は、ユリアにもポールにも両方に気持が向いているマーク。初恋のマークと、いつも傍にいてくれるアンドルー。ポールが本当に幸せになるにはどちらを選ぶ?
読んでくださった方ありがとうございます😊
♥もすごく嬉しいです。
不定期ですが番外編更新していきます!
婚約破棄を傍観していた令息は、部外者なのにキーパーソンでした
Cleyera
BL
貴族学院の交流の場である大広間で、一人の女子生徒を囲む四人の男子生徒たち
その中に第一王子が含まれていることが周囲を不安にさせ、王子の婚約者である令嬢は「その娼婦を側に置くことをおやめ下さい!」と訴える……ところを見ていた傍観者の話
:注意:
作者は素人です
傍観者視点の話
人(?)×人
安心安全の全年齢!だよ(´∀`*)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる