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第35話 僕のお仕事頑張ります。の裏では?
しおりを挟む「それは誠か!」
執務室の椅子を豪快に倒し(簡単に倒れるはずのない肘掛イスなのだが)、アルファの国王アルベルトはいつになく取り乱した。
「はい。ベータのわたくしにも分かるほど」
膝をつき後宮の女官セシリアが答えた。
「すぐさま向かう」
「賜りました」
セシリアは踵を返すように執務室を後にした。
「陛下、身支度を」
どこからともなく現れた侍女たちが国王陛下アルベルトの服を着替えさせる。普段の閨へ向かうのとは違うのだ。後宮の番の元へ赴くのだから、正装である。国王陛下にとって政務を行う次に大切な世継ぎを求める行為だ。
「陛下、ご健闘をお祈り申し上げます」
「陛下に幸あれ」
「お祝い申し上げます」
国王陛下アルベルトが歩き出すと、次から次へと廊下に現れた臣下たちが頭を下げてアルベルトを見送る。どの臣下もアルファであれば、この4年ほどの時間は長すぎたと思えるのだ。だが、アルファの国王アルベルトは急がず慌てず、愛しい番の成長を見守り続けた。そして、ついに今日の良き日を迎えたのだ。なんと喜ばしいことか。
「おめでとうございます」
「王国の太陽にお祝い申し上げます」
「幸多からんことを」
後宮の門が大々的に開かれれば、口々に祝福の言葉を述べて後宮で働く女たちが花びらの雨をアルベルトに降らせた。アルベルトの歩く道は真っ直ぐにレイミーの部屋へと続いていた。なんの迷いもなく、なんの邪魔もない。赤い絨毯が敷かれ整えられた道には色とりどりの花があしらわれていた。そこに更なる花びらの雨が降り注ぐ。アルファの国王アルベルトは笑顔で答えながらいつもより大股に歩みを進めて行った。
「お待ちしておりました」
後宮の女官セシリアが深々と頭を下げてアルベルトを向かい入れた。アルベルトがレイミーの部屋に姿を消すと、すぐさま後宮の門は閉じられレイミーの部屋の扉も固く閉められた。
「またせた」
アルファの国王アルベルトは、ぞんざいにそれだけ言うと、侍女たちが音もなく開けた扉の中に無言で入っていった。侍女たちが無言でその扉を閉めれば、彼女たちの任務は完了である。あとは寝ずの番を順番にするだけだ。
「日付と時間、あとは名前、っと」
後宮の女官セシリアは、とてもとても大切な仕事をしていた。なぜなら本日ついに後宮唯一の寵姫レイミーに発情期がやってきたのだ。起床時間から記されたレイミーの覚書に、ついに発情期の文字が刻まれ、国王陛下アルベルトのお渡りが記載された。立会人はもちろん後宮の女官であるセシリアと、扉を閉めた二人の侍女だ。
「ここに自らの名前を書き込む名誉を与えます」
セシリアに言われ、二人の侍女は唾飲み込んだ。ほぼ同時にしたものだから、なかなかの音量になってしまったが、そんなことにセシリアは頓着などしない。
「落ち着いてお書きなさい」
きちんと机の上で丁寧に名前を書かせれば、二人ともなかなか良い家柄の娘であった。
「「今日の良き日にお仕えできたことを光栄に思います。」」
二人の侍女は深々と頭をさげると、すぐさま持ち場に戻った。とはいっても、場所は今しがた国王陛下アルベルトが入っていったレイミーの寝室の前だ。二つ並んだ椅子の上に姿勢を正して座るだけ。レイミーの発情期が開けるまで、侍女が交代で寝ずの番をするのであった。
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